第445話 脱出装置
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「おい!あのキドロ、なんや様子がおかしいで!」
両津の叫びに、学食にいる全員が大画面テレビに目を向けた。
愛理が首をかしげる。
「あのキドロさん、ぴくぴく揺れてますぅ」
「あの揺れ方、何度も見たことがあるぜベイビー」
正雄の言葉に、一同がうなづいた。
心音が不安げな顔を大和に向ける。
「まさかあれって?!」
「うん……多分、暴走してるんだと思う」
大和のその言葉に、学食に戦慄が走った。
奈央が驚きの視線を正雄に向ける。
「棚倉さん、キドロには感染防止用のシールドが装備されていますわよね?」
ロボット部のメンバーの中でも、正雄、両津、奈々、ひかり、マリエには新型キドロの操縦経験がある。修学旅行で出かけたISS(国際宇宙ステーション)で暴走した米軍のロボット兵と、キドロに乗って戦闘したのである。
「もちろんさ。最新の対袴田素粒子防御シールドがあるはずだぜ」
「それでも感染するんですかぁ?」
愛理も不安げな顔を正雄に向けた。
正雄も首をかしげる。
「それは無い……はずなんだが。あれはどう見ても、暴走ロボットだぜベイビー」
両津が何かに気付いたようにパッと顔を上げた。
「さっき遠野さんとマリエちゃんが言っとった、何かがキドロにぶつかっとるってやつ、袴田素粒子とちゃうか?!」
「うむ、その可能性は否定できないぜ」
ひかりが奈々の顔を覗き込む。
「奈々ちゃん、どうしたの?」
「うん……お姉ちゃんのこと、ちょっと心配」
一同ハッとする。
おそらくあの場所には、奈々の姉・夕梨花の乗るキドロもいるはずだ。感染した機体は彼女のものではないのか?
「泉崎くん、大丈夫だ」
「え?」
奈々が顔を上げ、正雄を見た。正雄は、テレビ画面のキドロを指差す。
「ほら、あいつは君のお姉さんのキドロじゃないぜ」
「どうして分かるの?」
「ほら、あのキドロのボディに書かれた文字を見るんだぜベイビー」
ロボット部の全員が画面に注目した。
ひかりがその文字を見つめ、読み上げる。
「さきだま……あがたいましめ!」
「どうしてそんな無茶苦茶な読み方できるのよ!」
奈々がすかさず突っ込んだ。
「埼玉県警でしょ!」
そう言った奈々は、少しホッとしたような表情だ。
その時、再び両津が画面を指差して大声を上げた。
「暴走キドロ見てみ!搭乗ハッチから煙?いや、蒸気みたいなんが出とるで!」
「ありゃ脱出だな」
正雄のその言葉が終わらないうちに、キドロ後部の搭乗ドアが爆音と共に吹き飛んだ。中から、何か膨らんだような物が転がりだす。
「あれ、何ですかぁ?」
それを見て、愛理が首をかしげた。
奈央が愛理に視線を向ける。
「愛理ちゃん、授業で習いましたわよ」
「そうでしたっけぇ?」
ペロッと舌を出す愛理。
正雄がニヤリと笑って言う。
「あれはエアバッグでくるまれたロボットパイロットさ。脱出装置を使ったんだろう」
「スーパーの?」
「それはエコバッグ!」
ひかりのボケに奈々が素早く突っ込んだ。不安げな表情が、ほんの少し和らいでいる。
「お!エアバッグから男の人が出てきよった!泉崎さんのお姉さんとちごたわ」
「やっぱり冬は、ぬくぬくしながらミカンでんなぁ」
ひかりの大阪弁は、相変わらずイントネーションが無茶苦茶だ。
「それはおこた!両津くんが言ったのはちごた!」
「それで、ちごたって何なんですかぁ?」
「それはね、愛理ちゃん!」
再びひかりの左手人差し指がピンと立つ。
緊迫した東池袋とは違い、学食ではまだまだひかりのボケが続いていた。




