第443話 再び出た警告サイン
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「それで、スケールってぇ?」
「それはね愛理ちゃん!」
学食ではひかりのボケがまだ続こうとしていた。
だがそんな時、じっとテレビ画面を見つめていたマリエがつぶやいた。
「キケン」
「え?」
ひかりがマリエに顔を向ける。
「マリエちゃん、何が危険なの?」
ひかりに視線を向け、テレビを指差すマリエ。
ひかりも視線をテレビ画面に移動させた。
「あ、ホントだ」
奈々があわててひかりに聞く。
「どうしたの? 誰が危険だって言うの?!」
「えーと……キドロが危険……かも。ねぇ、マリエちゃん?」
マリエが、ひかりと奈々を見てうなづいた。
「お姉ちゃんが危険なの? どんな風に?!」
ひかりとマリエが並んで首をかしげる。
「うーん……よく分かんないけど、危険だよって聞こえる」
「私も」
「それと……」
奈々の目に不安が浮かぶ。
「それと?!」
「何かがキドロにぶつかってるのが見えるよ」
「私も」
奈々が、カレーを運んで来たままテレビを見ていた学食チーフの福田幸代に顔を向けた。
「福田さん!これ、教官たちに知らせた方がいいかも!」
「分かった!」
幸代はスマホを取り出し、トントンとタップした。
「どういうことだ?」
トクボ指揮車で、白谷部長が田中美紀技術主任にそう聞いた。
「陸奥教官の話しだと、丸が危険だと最初に感じた生徒たちが、今度はキドロが危険だと言っているそうなんです」
東京の地下トンネルは粒子加速器だった。そしてその危険性を最初に指摘したのは、都営第6ロボット教習所の生徒たちだ。今回の話も、簡単には否定できないだろう。
「分かった。無人ロボット兵以外に何か危険なことが無いか、センサーとレーダーをフル稼働してスキャンしてくれ」
「了解です」
「それと、このことを袴田研究室にも連絡を頼む」
「はい、すぐにメールしておきます」
そう言うと美紀は、目の前のコンソールを操作し始めた。
その時である。突然指揮車内にアラーム音が響き始めたのは。
「なんだと?!」
これは、ついさっき聞いたばかりのアラーム音だ。
「部長!あれ!」
二人の前に広がる大型スクリーンには、現在戦闘中のキドロ六機からの映像と様々なデータが映し出されている。その各機の対袴田素粒子防御シールドの表示に、再び赤い光が点滅しているのだ。その文字は【over capacity】。
「トンネルの外に出ているのに、どうして?!」
美紀の目が驚きに見開かれる。
「スキャンを急いでくれ!」
「はい!」
「どんな可能性があると思うかね?」
袴田研究室に、袴田教授の声が重く響いた。
現在袴田は、助手の遠野拓也、小野寺舞と共に、トクボからの連絡について検討を進めていた。
円形の地下トンネルは粒子加速器だった。
だが、その外に出た現在も、対袴田素粒子防御シールドに「over capacity」の警告が出ている。
そして、円が危険だと指摘した生徒たちが、キドロに何かがぶつかるのを見たと言う。
舞が大きなため息をついた。
「これって、急いで答えを見つけないと、今戦ってるキドロが危ないってことですよね?」
袴田も拓也も、無言でうなづいた。
舞も無言になってしまう。
シールドに【over capacity】の表示が出ていると言うことは、キドロに加速された袴田素粒子がぶつかっているに違いない。それなら「何かがぶつかるのを見た」と言う生徒の言葉にも説明がつく。だが、すでにキドロはトンネルの外に出ているのだ。トンネル外にそんな高速の素粒子は存在しないはずなのである。
その時、拓也がハッと顔を上げた。
「あの……ちょっと無茶な話、してもいいですか?」
不安げな声でそう聞いた拓也に、袴田と舞が視線を向ける。
「僕たちは、袴田素粒子同士は量子テレポーテーションを使って通信していると推論しましたよね?」
舞が興味深げな表情で拓也を見つめた。
量子テレポーテーションとは、将来的には物質の瞬間移動を可能にするかもしれない理論のことを言う。
ここに量子もつれの関係にあるふたつの粒子があるとする。その二つが遠く離れた場所にあっても、一方の状態を観測すると、その観測と同時に離れた位置にあるもう一方の粒子の状態が全く同じに変化する(確定する)。実際には情報が同一になるだけで、テレポートしたわけではないのだが、あたかも瞬間移動したように見えるため、そう呼ばれている。東京大学大学院工学系研究科など、世界中のラボで、数十キロ離れた場所での実験が成功している現実の技術なのだ。
量子テレポーテーションを用いれば、理論的には距離も時間も関係なく情報伝達が可能になる。例え何光年も離れた場所であっても、同時に同じ情報に変化するのだから通信手段として、こんなに優れたものは他に無いだろう。
「彼らは情報だけでなく、素粒子の変化もテレポートできる技術を持っているのでは?」
袴田の目が驚愕に見開かれた。
「それを使ってトンネル外のキドロを攻撃している、と?」
舞はまだ理解が追いついていないのか、キョトンとした顔で拓也を見つめている。
「その可能性は無いでしょうか?」
その時舞がハッとして拓也に詰め寄った。
「もしかして、加速器で速度を上げた袴田素粒子を地上にテレポートさせてキドロにぶつけてるってこと?!」
「理論的にはあり得るが……」
袴田が唸るようにそう言った。
「そうなると、彼らはそのうちに物質のテレポートを成功させてしまうかもしれん」
「でも……」
舞が少し不思議そうに言う。
「だとしたら、キドロがまだ無事なのはなぜでしょう?」
拓也が右手をアゴに当てながら舞に視線を向けた。
「彼らでさえ、大量の素粒子を一気にテレポートさせることはできないのかも。一個ずつ、銃を発砲するように素粒子で攻撃しているのかもしれない」
舞の表情が驚きに変わる。
「その場合だと、シールドの同じ場所に何発か当たれば、突破される可能性もあるんじゃないの?!」
「そうなるかも」
一大事である。
キドロが危ないとは、このことなのかもしれない。
拓也が慌てた声で袴田に言う。
「教授、早くトクボに知らせないと!」
「分かった」
そう言うと袴田は、手にしていたスマホをタップした。




