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第438話 素粒子の分類法

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 袴田素粒子には、いくつもの種類が存在している。

 ここ最近の袴田研究室では、その様々な分類についての研究を進めていた。

 そのきっかけとなったのは、Y型の袴田素粒子の発見だ。ずっとX型だと思われていたその形状に違ったものが存在するとなれば、Y型以外にも、より多くの形があるのかもしれない。素粒子が感染するのは左脳の性染色体である。国連宇宙軍総合病院UNHの牧村陽子医師の仮説では、地球に存在するその他の形の性染色体、Z、O、Wなどの素粒子の存在が考えられると言う。そこで袴田研究室では、袴田顕微鏡の微調整によってその他の形状のものを探し続けている。

 また、違った観点からの分類法も無数に考えられる。

 例えば、人類への敵対の度合いによる分類もそのひとつだ。山下美咲の頭脳に彼女と一緒に存在しているアイのように、人類に味方する素粒子もあれば、ISSを意図的に攻撃してきた侵略者も同じ袴田素粒子である。これは思想信条による分類と言えるかもしれない。

 一方、意志のある素粒子を生命体と考えた場合、その進化や発達による分類も可能だ。例えば人類は猿から進化を始め、猿人、原人、旧人、新人と変化し、現在の人間にまで発達を遂げてきた。袴田素粒子にもそんな進化が存在すると仮定すれば、これまで不思議だった様々な点の説明がつくことに袴田教授が気付いたのである。

「進化の過程における様々な袴田素粒子が存在している」

 素粒子が感染したロボットを観察すれば、その行動により、多くのパターンに分類できる。

 本能の赴くままに動く個体。

 集団で何かの目的に向かって同一行動をとる個体。

 意志を持ち、理性により行動する個体。

 ただ暴れるだけの暴走ロボットは、おそらく本能だけで動いているまだ未進化の個体なのかもしれない。

 これまでは、素粒子感染によるロボットの行動がなぜ違っているのか、なかなか説明することができなかった。だが袴田のこの仮説を適用すると、そんな全ての謎が解けてくる。簡単に言うと、猿が操縦するロボットと人間のそれでは行動自体が同じではない、と言うことだ。そこでこの研究室では、数多くの暴走ロボット事案の記録を体系立てて整理することで、袴田素粒子の進化を立証しようとしていた。

 だが、そこへ二発の爆弾が飛び込んできたのである。

 まず最初は、袴田素粒子のアイからのメッセージだ。

「円と素粒子の関係に注目すべき」

 おそらく、最高に進化した個体であるアイから、この研究室へ告げられた言葉である。

 そして二発目は、現在東池袋で作戦行動中の警視庁機動隊のロボット部隊、トクボ部からのものだった。

「対袴田素粒子防御シールドに【over capacity】の文字が表示された」

 その報告をもたらした田中美紀技術主任によると、地下トンネル内の素粒子濃度が上昇しこの表示が出たため、キドロ各機はトンネル外へ退避したと言う。

 対袴田素粒子防御シールドは、袴田素粒子よりも小さな素粒子をネット状に配置して作られている。つまり、袴田素粒子が通り抜けられない壁になるのである。その強度は、地球上に存在する、あるいは地球に飛来する通常のエネルギー量の素粒子では破れないように設計されていた。そのため【over capacity】の表示が出ることは想定外なのだ。

 アイからのメッセージ。

 そして【over capacity】の表示。

 そのふたつから導き出されるものを、この研究室のメンバーはよく知っていた。

 それは、ハリントン大学のノア・マルティネス教授が論文の形で予言していたことである。

 ノア・マルティネス教授は、アメリカを代表する素粒子物理学者であると共に、袴田にとっては学生時代からの友人でもある。袴田、ノア・マルティネス、そして対袴田素粒子中央指揮所所長・雄物川の三人は、学生時代に交流を持ちいくつもの研究を共にした、いわば戦友のようなものである。その思い出はすでに40年ほども昔のものだが、三人にとってはつい先日のように感じられる大切なものだ。

 そんなマルティネス教授の新論文は驚くべきものだった。

「高エネルギーの袴田素粒子であれば、対袴田素粒子防御シールドを突破できる」

 円と素粒子。

 over capacity。

 高エネルギー。

 この三つが導き出す答えは、たったひとつしか無いだろう。

「あの地下トンネルは、粒子加速器の可能性が高い」

 袴田の低い声が、研究室に響いた。

 粒子加速器はその名の通り、粒子を加速させる装置である。

 二つの電極を用意し、それぞれ+と-の電気を帯びさせる。その電極間に、例えば+の電荷を持つ素粒子を入れると、-電極の方に引きつけられ飛んでいく。つまり、負の電場によって加速される。その加速した粒子の軌道を曲げて円運動させ、ぐるっと1周させてもう一度同じ加速空洞の入り口に戻せばどうなるのか? 粒子は再び加速され、どんどんエネルギーが上がっていく。この形の加速器は、電磁石を粒子の軌道に沿って円を描くように置くことで、運動する荷電粒子の軌道を曲げるため「円形型加速器・シンクロトロン」と呼ばれている。ただ、高エネルギーになると粒子を曲げる事が難しくなるため、円形の曲率を小さくする必要がある。つまり巨大なリングが必要になるのだ。だが東京地下の大トンネルなら、そのサイズに不足はないだろう。

「危険ですね」

 拓也が暗い声音でつぶやいた。

 粒子加速器の中では、人の致死量の数百倍の放射線を浴びることになる。

「危険性について、至急トクボに連絡してくれ」

 珍しく慌てたような袴田の声に、舞は急いでトクボへの直通回線を開いた。

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