第435話 ハーフムーンの真実
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「お茶、いれ直しましょうか」
職員室に、久慈の声が優しく響いた。
「あ、久慈センセ、すんまへん」
南郷が軽く頭を下げる。
職員室隅のキッチンスペースへ向かう久慈。
すでに生徒たちの姿はなく、今この部屋にいるのは四人の教官だけである。
「それで山下先生、どうでした?」
そう言うと陸奥が美咲に目を向けた。
美咲の話の内容によっては、生徒たちに聞かせない方がいいこともあるだろう。そんな陸奥の判断で、生徒たちには解散を命じたのだ。ただ彼らはすぐに学生寮に戻るのではなく、このまま全員で学食へと向かうらしい。両津が言うには、
「学食でロボット部の活動ですわ!」
まぁ本当のところは、みんなで一緒に学食のテレビで池袋からの中継を見ようということのようである。もし美咲の話に、彼らにも伝えるべき内容があった場合は学食へ行けばいい。そう陸奥は考えていた。
「カップを替えました」
そう言いながら久慈が三人のところへ戻ってきた。
少し前から使われている教職員用マグカップを、三人の前に置いていく。薄く美しい水色の外側に、溢れんばかりのフルーツや花々の束を縄でつないだ花綱が巻かれたデザインだ。表情豊かな凹凸の型押しで、立体感のある装飾が美しい。久慈と美咲のマグガップも同じデザインだが、色はアイボリーだ。どちらもイギリスの名門ウェッジウッドのフェスティビティマグである。
久慈に小さく頭を下げる美咲。
「実は至急、袴田教授に知らせたいことがあるんです」
陸奥と南郷が顔を見合わせる。
「それやったら、雄物川さんに頼むんがええんちゃうか?」
「そうですね。所長なら、直接教授の携帯に電話できる」
雄物川と袴田は、プライベートでも友人関係にある。教官たちは以前、雄物川が自分のスマホで袴田に電話しているのを目撃していた。恐らくそれが一番早く、袴田教授に伝えることが出来る手段なのだと思われた。
美咲が三人を見渡す。
「私には、何のことかサッパリ分からないんですが」
少し首をかしげながらそう言った美咲だったが、その後の口調はとても強かった。
「アイくんが言うには、円と素粒子の関係に注目すべき、だそうです」
顔を見合わせる三教官。
彼らも一応素粒子関連の研究者である。現在の仕事のメインはダイナギガプロジェクトではあるが、それとて素粒子関連だと言えなくもない。
「なるほど」
陸奥が少し考え込むような声音でそう言った。
「少し、見えてきたような気がしますね」
久慈も、何かに気付いたような表情だ。
「ほんなら、俺が今雄物川さんに電話しますわ」
そう言うと南郷は、上着の内ポケットを探ってスマホを取り出した。それをいくつかタップした後、左耳にあてる。
「あ、所長でっか? 南郷です。アイさんからの伝言を伝えまんので、急いで袴田教授に伝えてください」
南郷は勢いよくそう言うと、ふうっとひと息ついた。そして一気に言う。
「円と素粒子の関係に注目すべき!以上です!」
トンと電話を切った南郷が、陸奥と久慈に顔を向けた。
「雄物川さんも、察しがついたみたいですわ。ふむってうなづいとりました」
美咲が驚いた目を三人に向ける。
「皆さんも、アイくんが言った意味が分かるんですか?」
「いえ、それにどんな意味があるのかは分かりまへんけど、地下トンネルが何なのかは分かりかけてきたんですわ」
南郷が苦笑しながらそう言った。
「ところで」
陸奥が再び美咲に目を向ける。
「袴田教授への伝言以外に、何かありましたか? 随分と時間がかかってましたけど」
「はい。でもこれは、急ぎというわけではないんですけど」
美咲が少し言いよどむ。
「実は、ハーフムーンに関することなんです」
ハーフムーンは、今から約九年前に袴田素粒子に感染し消息を絶った宇宙船だ。つい最近、その船影とよく似た物体が発見され、ISSだけでなく国連宇宙軍などでも観測を続けている。
「アイくんが、素粒子たちが把握している過去ログを発見したらしいんです……」
美咲はそこでひとつ深呼吸した。
「ハーフムーンは、現在地球で記録されている遭難日時から数年先まで、全滅してはいなかったみたいなんです」
教官たちの目が驚愕で見開かれる。
「私、遠野さんのお母さんたちに会ってきました」




