第431話 閑話・職員室8
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「まぁまぁ、みんな落ち着いて」
テレビ中継を見て騒然となっている職員室で、久慈がにこやかに微笑みながらそう言った。
「そうだ、お茶でも飲みましょう。山下先生が買ってきてくれた、おいしい紅茶があるのよ」
久慈は、まだ目を閉じたままピクリとも動かない美咲に目をやった。
どうやらアイとの会話がまだ終わらないらしく、美咲はまるで彫刻のように微動だにしない。
「それがええわ。ここで俺らが騒いどってもどうにもならん。暴走ロボットは泉崎のお姉さんたちにお任せや」
そういった南郷に、奈々がいぶかしげな視線を向けた。
「お姉ちゃん? 不発弾の処理にトクボのキドロが?」
久慈が南郷を睨みつける。陸奥は逆に呆れ顔だ。
しまった。
世間的には不発弾の処理と発表されているのだ。さすがにキドロが出張る案件ではないだろう。だが、暴走ロボットが出てしまっては、そろそろキドロも地下トンネルから姿を現わすに違いない。そう考えた南郷だったのだが、思わずそのまま口から出てしまったのである。
「いや、まぁアレや、暴走ロボットと言えばキドロやん!正義のヒーローみたいに、キドロ部隊が駆けつけてくれるんちゃうかなぁって思たんや!」
苦しい言い訳である。
「確かにそうですね!」
だが、奈々はすんなりと南郷の言葉にうなづいてニッコリと笑った。
助かったぁ。
そう思い安堵の息を漏らした南郷だったが、納得したのは自分の姉に心酔している奈々だけであり、他の生徒たちは皆首をかしげていた。
「じゃあ、みんな紅茶でいいわね」
だが久慈のその言葉に、生徒たちは全員コロッと明るく返事をする。
「お願いしまーす!」
声が揃ったいい返事である。
「私、手伝います」
奈々はそう言うと、キッチンスペースへと向かう久慈の後を追った。
「泉崎さん、いつも偉いわよね」
心音が感心した目を奈々に向けている。
それに大和が同意した。
「そうだね。いつも彼女、教官の手伝いを買って出るよね。きっといいお嫁さんになるよ」
そういった大和を、心音がじっと睨む。
「私はなれないって言うの?」
「そんなこと言ってないよ!」
ああ、いつものじゃれ合いが始まった。
残りの生徒たち全員が肩をすくめる。
池袋で起こっている大事件と違い、職員室はいたって平和だ。
久慈と奈々は、手分けして手早くお盆に紙コップを並べていく。
そしてティーバッグを落としてお湯をついでいった。
「アールグレイのいい香りがするでしょ?」
くんくんする一同。
「うん、これは確かにアールグレイだぜベイビー」
「棚倉くん、分かって言っとるんか?」
「もちろんだぜ。この鼻の奥をつくかぐわしい香りは、アールでグレイだぜ」
「なんやそれ?」
「100平方メートルの茶畑が一面灰色になるっ!それがアール・グレイっ!」
「お後がよろしいようで!」
正雄と両津の即席コントが終わり、二人は並んで頭を下げた。
それを不思議そうに見つめる愛理。
「それで、アールグレイって、本当は何なんですかぁ?」
ひかりの左手がぐっと突き上げられ、人差し指がピンと立てられた。
「それはね愛理ちゃん、雄物川所長のことだよ」
ポカンと口を開ける愛理。
少し離れたキッチンスペースから、奈々が大声でひかりに突っ込んだ。
「それはロマンスグレー!」
本当に平和な職員室であった。




