第43話 手紙を書こう
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
『おにいちゃん、授業に参加してたのに、ひかりにはみんなのロボットさんの名前がどうなったのか、サッパリさんです。なので、奈々ちゃんに聞いて、ここに書いておこうと思います!
まず、私のロボットさんの名前は火星大王さんです!
♪ボクのおうちに王者がやってきた〜!
その名は火星大王、正義のロボット〜!
マーズキングっ! おぅ、おぅ、おぅ!
の、火星大王さんです。』
ひかりは兄への手紙を書きながら、火星大王のコマーシャルソングを歌った。
「遠野さん、手紙で歌っても相手には聞こえないでしょ」
「ううん、きっとフインキは伝わるよ」
「それを言うなら雰囲気!」
「フインキ」
「雰囲気!」
「何が違うの?」
「もういいわ」
奈々は呆れ顔だ。
「で、私に何を聞きたいって?」
「みんなのロボットさんの名前!」
ひかりは悪びれもせずに聞く。
「最初はマリエちゃんの、あのキレイなロボットさんの名前は?」
「オランダ語でリヒトパース(lichtpaars)だったと思うわ」
「すご〜い、オランダ語だったんだ」
ひかりは素直に驚いた。
「じゃあ、奈央ちゃんのロボットさんの名前は?」
「えーと、機種名がトヨオカF20だからとか言ってたけど、結局決まったのはコストパフォーマンス略して、」
「ケチンボ!」
「だから違うって!コスパよ、コ・ス・パ!」
「こ…す…ぱ…、書き書きと」
ひかりが手紙に書き込んでいく。
「それから愛理ちゃんのロボットは……奈央ちゃんの暴挙で……」
「なんだっけ?」
ひかりが首をかしげたまま笑顔で聞く。
「えっと……ラブリーなな」
恐ろしく小声である。
「へ?聞こえないよ、奈々ちゃん」
歯を食いしばって大声を出す。
「ラブリーななよ!」
「奈々ちゃん顔が赤いよ」
そう言ってエアコンのリモコンに手を伸ばすひかり。
「もうそのくだりはいいから!私の顔色が変わっても無視して!」
不思議そうな顔で奈々を見るひかり。
「次行くわよ。両津くんのは南郷教官が名付けて、なにわエース。あの機種は確かマルビシ5000だと思うわ。メーカーは関西で、日本車の中でも高出力で有名よ」
ひかりが驚く。
「奈々ちゃんくわしい〜、ロボットのこといっぱい知ってるんだ」
「当たり前でしょ。私達はロボットA級ライセンスを取得しにここへ来てるのよ。単位の中には基礎ロボット工学もあるし、市販車基礎知識もある。ロボットのことを知らないと免許取れないわよ」
急に涙目になるひかり。
「奈々ちゃ〜ん」
「棚倉くんのロボットはアメ車だからよく分からないけど、多分モーターズゼネラルのヒラケーのどれかだと思うわ……ヒラケー・ガレオンか、マリコか」
ひかりの頭の上にハテナマークが浮かんでいる。
「それで決まった名前はコバヤシマル。いったいコバヤシって誰なのよ?」
奈々がフンと鼻を鳴らす。
「奈々ちゃんのロボットさんは?」
「え?私のは……いいわよ」
ひかりが不思議そうな顔になる。
「よくないよ〜奈々ちゃん、なんだったか教えて〜」
うぐぐっと、苦虫を噛み潰したような顔になる奈々。
「あのマイトガイのせいでこんなことになったんだわ」
「奈々ちゃん、また顔が赤、」
「デビルスマイルよっ!」
ひかりが言い終わる前に、奈々が叫んだ。ひかりはふ〜ん、と言って、
「それ、日本語でどういう意味なの?」
「悪魔の微笑み」
奈々の声音には、確かに悪魔のような凄みがあった。
「書き書き……」
ひかりが手紙に書き込んでいく。
『眉毛が三角のロボットさんの名前は、悪魔の微笑みに決まりました』
「眉毛が三角なのはロボットじゃなくて私よっ!」
そう叫んだ奈々だったが、何かが間違っている。
『あ!それから、今日授業の最後に発表されたんだけど、明日はまた特別授業があるそうです。それってとってもとっても楽しそうなんです!早く明日にならないかなぁ』
ひかりたち教習所の面々は、いつもの場所にはいなかった。
ここは相模湾の鎌倉と大島のほぼ中間地点に作られた広大な埋立地。東京湾にある教習所の数倍の広さはあるだろう。自衛隊の陸自で言うところの、富士総合火力演習場のようなもので、ロボットの機動力を生かした訓練が可能になっている。
ひかりたちは自分のロボットと共に、教習所の運搬船に乗せられてここへやって来た。
「ひろーい!」
ひかりが思いっきり両手を広げる。
「とっても広いですわ」
「泉崎さんのご実家みたいですぅ」
「こんなに広いわけないでしょ!」
「君はオデコも広い、」
「見たことないでしょ!」
「ほんでセンセ、俺ら今日ここで何しますのん?」
陸奥、南郷、久慈と、今日は教官も勢揃いだ。
「ロボットジムカーナをやりたいと思う」
そう陸奥が言うと、愛理が小首をかしげた。
「ジムカーナって何ですかぁ?」
正雄がニヤリと笑う」
「ジムかな〜?」
「ジムって誰なのよ!コバヤシに続いてどんどん人が増えていくじゃないの!」
そんな嘆きを無視して、南郷がいきなり大声を出した。
「第一回チキチキロボットバトルロイヤル飛んで走って底抜け脱線栄光のゴールへまっしぐら〜レース大会じゃーっ!」
「なんじゃそりゃーっ!」
いつもの両津の叫びが、今日は広大な埋立地に響いていた。