第429話 離脱命令
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ゴッドさん、あの剣……シャム猫でしたっけ? とてもキレイですね」
春樹の間の抜けた声に、後藤が呆れたように言う。
「シャムシールだぜぇ、あんちゃんよぉ」
「あれ? お兄ちゃんじゃなくなった!」
「おめぇがうるさいからだぜぇ」
春樹の言う通り、無人機が使うシャムシールはとりわけ美しかった。恐らく、開発したダスク人たちにとってこの機体には、並々ならぬ思い入れがあるのだろう。だからこそ、まるで宝飾品のようなロボット用シャムシールを作ったに違いない。
後藤は心中でそう思っていた。
世界的に見ても、確かにシャムシールは豪華な剣だと言える。だが今目の前で振るわれているそれは、後藤の常識以上の美しさを持っていた。柄の先端部、つまり柄頭の部分「ポンメル」は獅子の頭になっており、その両眼には何かの宝石が埋め込まれている。また、指を保護するために柄の下側につけられたガード「ヒルト」には、象眼装飾に色とりどりのエナメルが贅沢に盛り込まれている。象眼装飾は、金属や木材などの表面に模様を彫り、その中に金や銀、貝、エナメルなどの異なる材料をはめ込んで模様を表す工芸技法で非常に美しい。日本にも6~7世紀頃、シルクロードを経て仏教と共に大陸から伝わっている。
「連中の文化を考えるとよぉ、俺を倒せばこのお宝が手に入るぜ、って言う意味を込めてあんなもんを作ったんだと思うぜぇ」
つまり、倒されないだけの自信の現われなのである。
「ほんじゃあ、お宝をいただきに行きますかぁ」
後藤の呑気な言葉に、春樹が即座に反応する。
「公務中の拾得物をいただいちゃったら業務上横領ですよ!」
「面倒くせぇあんちゃんだなぁ。冗談に決まってるだろーがぁ」
後藤はとても器用に、ロボットで肩をすくめて見せた。
「なんだその動き?! そんなのどの教本にも載ってなかったです!どうやったんですか?!」
「えーとだなぁ、まず右のレバーの三つ目のスイッチを……」
後藤の講義が始まろうとした時、沙羅の怒りが無線から響いた。
「そんなの後でいいいでしょ!今は戦闘に集中!」
再び肩をすくめる後藤機。
「へいへーい」
「ごめんなさい!」
春樹は即座に謝罪した。
「あのおねーちゃん、うちのお嬢ちゃんに似てるぜぇ。特に怒りっぽいところがよぉ」
「言えてます」
「いいから行くわよ!」
後藤たち三機のキドロは、夕梨花たちと無人機の戦闘区域へと駆け出した。
「何事だ?!」
突然指揮車内に鳴り響き始めた警報音に、白谷が問う。
一人のトクボ部員が、すかさずそれに答えた。
「袴田素粒子反応です!」
驚きに顔を見合わせる白谷と美紀。
「君の不安が当たったようだが……この素粒子はいったいどこから?」
「事前のスキャンで、ブラックアイビスの施設内に袴田素粒子反応はありませんでした」
美紀の顔にも、困惑の表情が浮かんでいる。
その時、素粒子反応を観測していた部員が、再び大声で報告した。
「袴田素粒子、濃度が上がっています!」
白谷が美紀に、疑問の視線を向ける。
「濃度が上がるだと? どういう意味だ?」
「おそらく、施設内を通過する素粒子の数が増加しているのではないかと」
「素粒子濃度の上昇、止まりません!」
こんな事態を予想してはいなかったが、事前にキドロ各機の対袴田素粒子防御シールドのスイッチはオンになっている。
良かった。
美紀がそう思い、フッと息をついた瞬間だった。
アラーム音がひときわ大きくなったのだ。
「防御シールドに、危険表示が出ています!」
「どうなっている?!」
白谷の問いに、美紀はうまく答えられなかった。
「私も、こんな状況は初めて見ます!」
対袴田素粒子防御シールドに危険表示が出るなんて、この場にいる誰もが体験したことのない事態である。いったい何がおこっているのか?
その時である。ブラックアイビスの無人ロボット兵に変化が起き始めたのは。
「敵無人ロボットに感染の兆候!」
トクボ部員の叫びに、食い入るようにスクリーンを見つめる白谷と美紀。
そこでは、三機の無人機がガクガクと痙攣を始めていた。
「部長、危険です!キドロ各機の離脱を具申します!」
「離脱だと?!」
美紀の視線が、白谷をキッと見つめる。
「このままだと防御シールドが破られるかもしれません。そうなれば、キドロまで感染してしまいます!」
そんなことになれば前代未聞の事態である。これまでに、新型と言われる現在の対袴田素粒子防御シールドが破られたことは一度もない。だが、けたたましいこの危険表示が現われたのも初めてである。大事をとるにこしたことはない。
そう判断し、白谷は無線に向かって叫んだ。
「キドロ各機!ただちにトンネルから離脱しろ!」




