第428話 シャムシール
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
無人機が構える刀剣・シャムシールは、12世紀頃に現在のイラン「ペルシア」で誕生した剣だ。「シャムシール」とはペルシア語で「ライオンの爪」の意味であり、この地域一帯で古代から「剣」を意味する単語として使われて来た。その後16世紀初頭に近隣国へも伝わり、インドの剣「タルワール」やアラブの「サイフ」、そして西洋の「サーベル」にも影響を与えたと言われている。
そんなシャムシールは、三機の無人ロボット兵の手の中で異様な美しさを見せていた。
手元から刃先にかけてゆっくりと湾曲した刀身が、施設を照らす光をさまざまな角度から反射し、美しい輝きを生み出している。またその刀身は、反りがあることで実に流麗なフォルムを形成し、視覚的な魅力を高めていると言えた。だがシャムシールは美しいだけの剣ではない。湾曲があることで、より効果的に敵を斬ることができる。曲がりの無い直刀と比較して、刀身が敵に当たる面積が広がり、切断力が増す。また、反りがあることで斬撃後の抜刀がスムーズになり、連続攻撃が可能となる。シャムシールは、美しさと機能性を兼ね備えた高度な武器だと言えるのだ。
「おいおい、何なんだありゃあ?」
沢村が呆れたような声を上げた。
夕梨花たちの前で、無人ロボットたちが不思議な光景を繰り広げ始めたのである。
無人機三機がそれぞれシャムシールを掲げ、向かい合いながらステップを踏んでいるのだ。剣を肩に乗せたり、向かい合って交差させたり、ときにはそれを掲げて円になる。まるで中近東の民族舞踊のように軽快な動きを見せている。
再び後藤からの声が届く。
「ありゃあズールハーネで見たことあるぜぇ」
夕梨花が聞き返す。
「ズールハーネ?」
「イランの道場みたいなところだぁ。あの動き、踊ってるように見えるけどよぉ、戦闘能力を高める訓練になってるんだぜぇ、油断したら痛い目に合うから気をつけるんだなぁ」
「すげー」
春樹から思わず感嘆の声が漏れた。
「ゴッドさん、さすがダスクの砂漠をさまよってただけはありますね!すげー知識だ!」
「さまよってなんかねぇわ!」
ダスクの特殊部隊もナメられたものである。
後藤も春樹も、有人ロボットとの戦闘を繰り広げなからのトークだ。
「砂漠の戦闘で必要なものって何なんですか?」
「そりゃああれだぁ、コブ、だな」
「こぶ?!」
「理想はふたコブだけどよぉ、まぁひとコブでもいいぜぇ」
「それラクダじゃないですか!」
「戦闘が、楽だ、なんつってなぁ」
まるで漫才である。
沙羅のツッコミが入る。
「いいかげん真面目に戦いなさいよ!」
その声に、後藤がニヤリと笑った。
「ほんじゃあこれでおしまいだぁ」
春樹の警棒をアックスで受け止めていた有人ロボに、後藤の千枚通しが襲いかかる。
グサッ!と嫌な音を立て、千枚通しがアイアンゴーレムに深々と食い込んだ。
ビクッとひと痙攣し、すぐさまガクンと地面に突っ伏すアイアンゴーレム。
その時二人の後ろでは、沙羅が電磁手錠によりもう一機の拘束に成功していた。
「よし。ほんじゃあお嬢ちゃんたちの加勢に行くとするぜぇ」
そう言うと後藤機は、北側へと自機を向けた。
そこではキドロ三機が無人機と対峙している。
無線から門脇の愚痴が聞こえた。
「図面も何もないと、どこを攻撃すべきか、サッパリ分かりませんね」
それに答えるように沢村が、そのまま無人機の一機に突っ込んだ。
「そういう時は、とりあえずドタマを狙うんだよ!」
瞬速で、伸び切った特殊警棒を無人機へ突き出す沢村。
無人機は同時にシャムシールを突き出す。そしてそれを手首を使ってフェンシングのように回転させ、警棒を巻き取り上へと受け流した。だがキドロの警棒は右手のひらとドッキングシステムで接続されているため、取り落とすことはない。
「やるじゃねぇか」
沢村のドスの利いた声が無線から聞こえた。
「部長」
「何だ田中くん?」
その頃キドロ指揮車では、美紀が不安げな表情を見せていた。
「先程の雄物川所長からの連絡が気になりまして……」
「ふむ。確かにそうだが、あの情報では何を備えるべきか、分からないからな」
美紀が白谷に視線を向ける。
「あの、念の為ですが、キドロ各機の対袴田素粒子防御シールドをオンにしてはいかがでしょう?」
対袴田素粒子防御シールドは大食らいだ。あっという間にバッテリーを消耗させてしまうため、感染の危険がない場合の戦闘ではオフになっている。
「それは、君のカンかね?」
「はい。根拠はありませんが、この戦闘中の感染は致命的だと思うので」
一瞬の逡巡を見せた白谷だったが、すぐに美紀に視線を向けうなづいた。
「いいだろう、シールドの起動を許可する」
「ありがとうございます!」
美紀はすぐに警察無線に向かって叫んでいた。
「キドロ各機!ただちに対袴田素粒子防御シールドをオンにしてください!」




