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第427話 無人機の武器

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「遅れたら置いてくぞぉ、お兄ちゃんよぉ」

 後藤は春樹にそう言うと、ご自慢のロボット用アーミーナイフを右手に飛び出した。

 アーミーナイフには巨大な千枚通しがセッティング、ロックがかけられている。材質はタングステンカーバイト、炭化タングステンだ。キドロの警棒にも使われている超硬合金の原料としても使われる非常に硬い金属である。超硬合金は、タングステンカーバイトの微粒子をコバルトやニッケルを結合材として焼結させ、より硬度を高めたシロモノだが、通常金属では炭化タングステンが最も硬いと言ってもいいだろう。

 その他のキドロは、専用の超硬合金製特殊警棒を右マニピュレータにドッキングさせている。

「遅れたりなんかしませんよ!」

 春樹は岩陰から飛び出しながら、手首を使って特殊警棒を振る。ジャキンと音を立て、それは倍以上の長さに伸びた。三段式だ。

「口だけじゃないといいんだけど!」

 沙羅から春樹に憎まれ口が飛ぶ。

 三機は、何が起こったのか分からずに混乱し、立ち尽くしているアイアンゴーレム三機に襲いかかった。

 ブン!と空気を震わせる音とともに、春樹の警棒がアイアンゴーレムの頭部に振り下ろされる。

 ガイン!と火花が散る。

 ゴーレムは春樹の警棒を、ロボット用の巨大なアックスで受け止めたのだ。

 その一瞬を狙い、後藤の千枚通しがゴーレムの右脇腹に突き立てられた。

 うまい!

 春樹は驚愕に目を見開いた。もしこの新型が旧型とシャーシが共通であれば、あの位置に動力回路があるはずだ。しかも腹部コクピットをかろうじて避けている。後藤の瞬時の判断とその動きに、春樹は舌を巻いていた。

 後藤が千枚通しを抜き去ると、アイアンゴーレムは糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。動力回路を遮断したのだから当然だ。

「ほい、まずは一機だぜぇ」

 後藤の、少しのん気な声が聞こえる。

 ガガン!

 二人のすぐ後ろでは、沙羅が二機のアイアンゴーレムと大立ち回りを演じていた。

「こっちのお姉ちゃんは威勢がいいなぁ」

 そう言うと後藤はきびすを返し、沙羅が相対している内の一機に躍りかかる。

 春樹も負けてはいられない。

 特殊警棒を握る右手にぐっと力を込め、もう一機に向かって走り出した。

「こいつら本当に無人なんですか?!」

 門脇の叫びに、指揮車から美紀の冷静な声が届く。

「ダイナレーダーで確認しました。キドロ01、02、03が対峙している三機は無人です」

 夕梨花も、そして沢村も門脇の驚きがよく理解できた。

 この三機にはスキが無いのである。

「そう言われたら、確かに人間ぽさが無いかもしれないな!」

 この状況で、無線から元気な声が響く。沢村泰だ。

 鍛えられた筋肉が、キドロ用搭乗スーツを内側から盛り上げている。真面目な彼は、全てのボタンやファスナーをしっかりと閉じているため、余計にその盛り上がりが目立っていた。

「まぁ、だからこそやりやすいって感じもする!」

 沢村の言う通りだ。

 無人機は人間特有の突発的な動きがなく、非常に洗練された近接格闘の身のこなしを見せている。まさに教科書通りってやつだ。そうであれば、次の動きや行動を予想しやすいということになる。

 美紀から、この状況による推測が聞こえる。

「恐らく、無人戦闘用のプログラムがまだプロトタイプか初期状態なのでしょう。ただ、今後AIの学習が進めば大変なことになる可能性があります。可能な限りそれを遅らせるためには、この三機を必ず撃破してください」

 そこでひと呼吸置き、美紀が付け加えた。

「ですが、研究のためのサンプルがぜひとも欲しいです。一機はなんとか電磁手錠での捕縛を期待します」

 電磁手錠は、ロボット用に開発された手錠だ。手錠と言っても、人間用のように両手首にかけるものではない。取り付け場所に関わらず、強力な電磁波と電気を発することでロボットの電気系統を狂わせその動きを止めてしまう、日本警察が誇る最新の警察装備である。暴走ロボット事案が頻発するようになってから開発されたものの中でも、最も有効で現場に人気の装備だと言えよう。犯人や容疑者を拘束可能であることから、手錠になぞらえて現場では通称「電磁手錠」と呼ばれている。

「了解した」

 夕梨花はそう無線に告げると、背中からまるで日本刀のような長物を抜き出した。

 ROGAだ。漢字では「狼牙」と書く。キドロ用に開発された格闘戦用の武器、まさに刀である。

 日本刀は通常、砂鉄を原料とした製鉄法「たたら製鉄」によって精錬された鉄で作られる。この鉄で作った鋼を何度も何度も折り返し重層化して鍛えることにより、不純物を取り除き炭素量を均一化させていく。時代劇などでよく見る、刀鍛冶が鉄を叩いているのがその工程だ。その後、比較的やわらかい鉄を包むように、硬い鋼である皮鉄を巻き付けて焼き付けていく。これにより、外側は硬く、内側はやわらかい構造に仕上がるため「よく切れるが、折れにくい」という一見相反する性質を持たせることが可能なのだ。

 狼牙は、この通常製法で作られた刀を内側に、超硬合金を被鉄として外側に焼き付けた史上最強の日本刀なのだ。仕上げにその刃は、ダイヤモンドで鋭く研磨されている。

 そんな夕梨花の構えを見て、無人ロボットたちも背中から刀のようなものを抜き放つ。

「何だあれ?」

 沢村が間の抜けたような声を漏らした。

 その剣は細身で妙に長く、先へ向かうに従ってゆっくりと湾曲していた。どうやら片刃刀らしい。

「シャムシールだぜぇ」

 その時、後藤ののんびりした声が無線から響いた。

「ダスク陸軍の歩兵の武器だ。伝統的に、やつらが一番得意としてる代物だから注意するんだなぁ」

 有人機との戦闘の合間にそんな声をかけてくる後藤には、まだまだ余裕があるようだ。

「ゴッド、ありがとうね!」

 そう言うと、夕梨花が無人機の間合いに飛び込んだ。

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