第425話 防御シールド
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「素粒子の感染、船内の83%!」
ハーフムーンのブリッジに、オペレーターの震える声が響き渡った。
スクリーンの赤い点滅が、じわじわと増加していく。
「ドクター?」
船長が白衣の男に顔を向ける。
あの人がドクター。ということは、ドクター竹田ね。
美咲はそう思い、その男を見つめた。
「このペースで広がると、おそらく後一日もかからずに、全デッキが感染することになるでしょう」
ブリッジに、重い空気が流れる。
「遠野主任、何かアイデアはないかね?」
船長は次に、同じく白衣の女性に視線を向けた。
遠野主任?!
と言うことは、あれが遠野ひかりさんのお母さん!
「素粒子の感染を防ぐ方法は分かりませんが、試してみたいことがあります」
船長と白衣の三人があかりに注目する。
「各デッキを閉鎖するシャッターにはビーム兵器を通さないシールド機能がありますよね? とりあえずそれを起動してみてはどうでしょうか?」
なるほど。さすが情報システム部の部長である。
この時代に採用されていた防御シールドには波長のコントロール機能がある。それを微調整すれば、ある程度の大きさがある素粒子を防御できる可能性がある。だが美咲は知っていた。それは対袴田素粒子防御シールドのように完全なものではないことを。だが、感染を遅らせることはできるかもしれない。だとしても、時間稼ぎにすぎないのだが。
「よし、やってみよう」
船長が重々しくうなづいた。
「もうひとつ、試してみたいことがあります。田中くん、さっき言ってたアイデアを船長にお伝えして」
あかりが助手の田中正明に視線を向ける。
正明は少しあわてたように目を泳がすと、手にしていたPadに視線を落とし、何事かを確認する。
「えっと……船外防御シールドを使えないかと」
「船外のかね?」
船外防御シールドは、通常外敵からの攻撃やデブリ、小惑星の激突などから船を守るためのものだ。昔アニメ等でよくあったバリアのようなものである。
「どう使うのかね?」
「なんと言えばいいのか……船の周りじゃなくて、縦に起動するんです」
船長の顔に疑問が浮かぶ。
「縦に?」
「はい。船を輪切りにするように、ズバッと」
美咲にとっても、それは驚きのアイデアだった。通常船をくるむようにして張られるシールドを、船の中を突っ切るように起動しようと言うのだ。だが確かにそうすれば、船内を通過しようとする素粒子をある程度防げるかもしれない。
この人、田中技術主任のお兄さんだっけ? なかなかのアイデアマンだ。
「遠野主任、それで素粒子の感染拡大を防げると思うかね?」
「防御シールドでどの程度の素粒子を防げるのかが分からないので何とも言えませんが、やってみる価値はあるかと」
ふむと、船長はひとつうなづくと正明に顔を向けた。
「ではシールドの設定変更を頼む」
「了解です!」
そう言うと正明はその場を離れ、パイロット席横のコンソールへ向かった。戦術士官用の武器コントロールセクションである。そこには武器だけでなく、防御シールドをコントロールするコンソールも設置されている。
「よし、まずは各デッキ間のシャッターのシールドを起動だ!」
船長の号令に、一斉にパネルを操作するオペレーターたち。
スクリーンの船内マップの各シャッターに、シールド起動の青文字が浮かび上がる。
「船長!」
その時オペレーターの一人が、悲鳴のような声を上げた。
「どうした?!」
「これを見てください!」
コンソールの操作で、メインスクリーンにワイプが開く。そこには、閉ざされたシャッター前で何かをしている数人の人物が映し出されていた。
「彼らは……何をしている?」
「恐らく、手動でシャッターを開けようとしているのではないかと」
オペレーターの言葉に、あかりのもうひとりの助手・野沢結菜が声を上げる。
「どうしてそんなことを?!」
感染者だ!
美咲にはよく分かる。
その脳内にアイという素粒子が同居している彼女にとって、感染者たちの行動の理由が手にとるように分かるのだ。
脳をコントロールされている!
美咲は、これから始まる地獄絵図を想像して、思わず震えていた。




