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第424話 未知の宇宙船

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 アイくんが調べている間、せっかくだから久しぶりに船内を歩いてみよう。

 そう思い立った美咲は自室を出た。

 だが、部屋のオートドアが開いた先には、見知らぬ廊下が広がっていた。美咲が知っているサン・ファン号の廊下ではない。分かるのは、ここが大型宇宙船の廊下であること。それは窓外を流れる星たちのきらめきが示していた。

「アイくん?」

 美咲は小さくつぶやいた。だがアイからの返事はない。

 おそらく調べ物に集中しているのだろう。

 何にしろ、ここは美咲自身の意識の中だ。脳の中と言い換えることも出来る。つまり何かが起こったとしても危険性は無いだろう。であれば、せっかくアイくんが見せてくれている未知の宇宙船である。探検しても問題は無いはずだ。

 美咲はまず、廊下の壁に取り付けられている船内案内図へと向かった。

 船名は……。

「ハーフムーン!」

 美咲の目は驚愕に見開かれた。

 ハーフムーンは今から9年前に行方不明になった国連宇宙軍の調査船だ。記録上はすでに「遭難」から「沈没」に書き換えられている。だが美咲にとって、この船名はもっと大きな意味を持っていた。現在彼女の教え子である生徒たちの多くが関わっているのだ。

 遠野ひかりの母・遠野あかりは、ハーフムーンの情報システム部の主任だった。

 その助手・野沢結菜は野沢心音の姉である。

 もうひとりの助手・田中正明は機動隊の田中美紀技術主任の兄だ。

 そしてこの船の船長・館山俊彦は、館山大和の父なのだ。

「どうしてアイくん、私をここに連れて来たのかな?」

 美咲は、今回ここへやって来てからのことを思い出す。だがアイは特に何も言ってはいなかった。

「またアイくんお得意の、人類は自ら気付かねばならない、ってヤツなのかな?」

 そうつぶやきながら美咲は、船内案内図でブリッジまでの道順を指で指しつつ確認する。そしてひと言。

「ブリッジ」

 すると案内板上に、ブリッジまでのルートが赤い点滅で示された。

 ふとその一番上に目をやると、日付け表示はしっかりと9年前を示している。

「行方不明直前、てことか」

 そうつぶやくと美咲は、ブリッジへと向かって歩き出した。

 ハーフムーンの内部構造や内装は、美咲が慣れ親しんだサン・ファン号ととてもよく似ている。まぁ、ここ10年の大型宇宙船の基本構造は量産が進んだこともあり、どれも似たりよったりなのではあるが。

 美咲は、星が流れる窓を横目に見ながら廊下を進み、エレベーターに乗り込んだ。

「ブリッジ」

 その声を聞いたエレベーターは返事もなく動き出す。大型宇宙船のエレベーターシステムは上下動だけの地上のものとは違い、上下左右、縦横無尽に動いて目的地へ向かっていく。やがて美咲を乗せた箱型の部屋は、慣性の法則による衝撃を人工重力を使って打ち消してピタリと止まった。

 シュッと小さな音を立ててドアが開く。

 ブリッジだ。

 広い半円形の部屋で、たくさんの人達が忙しそうに動いている。

「ああ、副長か。君もブリッジにいてくれると助かる」

 船長らしき貫禄のある年配の男性がそう美咲に言った。この男が大和の父・館山俊彦船長なのだろう。

 副長? 私をここの副長だと認識している?

 美咲は少し首をかしげつつ、ブリッジの様子を観察する。

 口々に何かを叫ぶ者。

 何かを持って右往左往する者。

 このあわただしさは普通ではない。どうやら非常事態の真っ只中のようだ。

 船長は、白衣を着た四人の男女と一緒に、食い入るように前面スクリーンを見つめている。そのスクリーンには、宇宙船ハーフムーンの断面図のような表示が映っており、その一部が真っ赤に点滅している。

 それには美咲にも見覚えがあった。美咲が乗っていた宇宙船サン・ファン号が袴田素粒子に感染した時に、船内のどこが感染しているのかを赤い点滅が示していたのだ。ただ、サン・ファン号では船内の1割ほどで食い止めに成功したその点滅が、ハーフムーンでは船内のほぼ8割近くになっている。

 そうか……この頃はまだ感染防止のシステムが開発途上だったんだ。

 思わず、自分が知っている「感染をくい止める方法」を口にしそうになる美咲だった。だが彼女はその言葉を飲み込んだ。

 今彼女が経験しているのは過去の事実なのだ。あくまでもアイが美咲に見せている映像にすぎない。今美咲が何を言おうと、どんな行動をしようと、過去を変えることはできないのだ。この船に袴田素粒子が蔓延し、その後行方不明になった事実を変更することは不可能なのである。

 美咲はパッと顔を上げる。アイがこの状況を彼女に見せていることには、何か意味があるに違いない。今はそれを考えるべきだ。それには、ブリッジで何が繰り広げられたのか、どんな会話がなされたのかを見極めなければならない。

 美咲は痛む心に蓋をして、まずは現在の状況に集中することにした。


 その頃、東池袋一丁目に駐車されたトクボ部のキドロ指揮車内で、部長の白谷と田中美紀技術主任は頭を悩ませていた。現在、アニメイト池袋本店直下の地下にあるダスク共和国のロボット特殊部隊「ブラック・アイビス」の施設に急襲をかけている真っ最中である。だがたった今、気になる情報が白谷の直電・スマホにかかってきたのだ。それは都営第6ロボット教習所、いや対袴田素粒子防衛線中央指揮所の所長・雄物川からの電話だった。

「今君たちがいる地下トンネルに、何らかの危険が迫っている可能性がある」

 だが、その根拠はあいまいで、確証のあるものではない。

 時間をかけて練り上げた作戦だ。そんなことで中止にするわけにはいかないのである。

「田中くん」

「はい、部長」

「ダイナレーダーの出力を上げて、何か気になることがないか、常に気を配っていてくれないか?」

 白谷の言葉に、美紀がうなづく。

「了解です」

 そう言うと美紀は、コンソールを操作した。

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