第423話 不潔なヤカン
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「陸奥さん、めっちゃ不吉な予感がしまっせ」
「そうですね」
陸奥と南郷が顔を見合わせる。
「これ、雄物川さんに知らせた方が良くないですか?」
久慈も不安げな表情を浮かべていた。
その時ひかりが、首をかしげて南郷を見つめた。
「不潔なヤカン?」
奈々がキッと目を吊り上げてひかりに突っ込む。
「予感だってば!」
「羊羹?」
「よ・か・ん!」
「い・よ・か・ん!」
「だから、不吉な予感なんだって!」
「不潔なおかん?」
両津がブッと吹き出しそうになる。
「それ、ボクんちのかーちゃんのことやんか!」
「両津くんのお母さんは不潔なのかい?ベイビー」
正雄が驚いたように両津に顔を向けた。
「そうやねん、手洗わへんままおにぎり握ろうとするねん」
「それは最悪ですわね」
「最悪ですぅ」
「まぁ、塩使わんでも塩味になるからお得やけどな!」
そう言ってガハガハ笑う両津に、他の全生徒が白い目を向ける。
だがひかりだけは、興味深そうに両津を見ていた。
「おにぎりが塩ジャケになるの?」
「塩味!」
「塩アジ?」
ひかりの言葉に、マリエが後を続ける。
「アジの塩焼き」
「だから、おにぎりの話だってば!」
「手を洗わないと、おにぎりの具がアジの塩焼きになるのかな?」
「うおーっ!もう、わけがわからなくなってきたわよ!」
そんなやりとりを気にもとめず、陸奥は学内無線で雄物川を呼び出していた。
山下美咲はベッドの中にいた。
だが、この場所に来たのはずい分と久しぶりに感じられた。
美咲は目を閉じたまま、ゆっくりと寝返りをうつ。
その時、ぶしつけな声が彼女の耳に響いてきた。
「お目覚めの時間です。美咲さん、そろそろ起きて下さい」
感情のあまり感じられない中性的な声である。
「あと10分だけ……」
美咲は枕に顔をうずめたままそう答えた。
「美咲さん、10分前にもそう言いましたよ」
あれ? 私、何してるんだっけ?
そう思いながら、美咲は窓の外に目を向ける。
漆黒の空間に、きらびやかな星たちの光が流れていた。
ここは宇宙船サン・ファン・バウティスタ号の美咲の自室である。略してサン・ファン号の目的は、太陽系の各惑星の調査だ。今は火星へと向かう途上にある。
「アイくん、紅茶が欲しいな」
「茶葉はどうしますか?」
「そうね……ダージリンのアールグレイをホットでお願い」
「わかりました」
ほどなくして、フードプロセッサーに真っ白なティーカップが現われた。そこからは、ベルガモットのいい香りが立ち昇っている。
美咲はベッドから立ち上がり、そのカップを手にテーブルにつく。
ふんわりと広がる香りを楽しみながら、彼女はひと口、紅茶を飲み込んだ。
アイくんのいれる紅茶、やっぱりおいしいわ。
あれ? やっぱり何か違和感を感じる。
私、何してるんだっけ?
「アイくん、私……何しにここへ来たんだっけ?」
「美咲さん、あなたはやっぱりサン・ファン号がとてもお好きだったんですね。もう何度目でしょう? ここに戻ってきてしまうのは」
美咲はハッと目を見開いた。
そうだ。美咲がここへやって来たのは、生徒たちが受け取ったメッセージについて、アイくんに質問があったからだった。
「アイくん、実はちょっと聞きたいことがあってここへ来たの」
アイの声に少し微笑みが混ざる。
「分かっています。美咲さんの目を通して、先程のやりとりは見ていましたから」
「うん。あれって、どういうことなんだろ?」
「今調べているところです。もう少々お時間をいただけますか?」
「どれくらい?」
「早ければ数分。長くても30分以内には分かると思います」
「ありがとう、お願いするわ」
「了解です」
アイはそう言うと、沈黙に落ちていった。




