第417話 久しぶり!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
トクボ部が所属する警視庁機動隊の特科車両隊は、地下鉄の曙橋近く、自衛隊市ヶ谷駐屯地と隣接する警察総合庁舎にある。この建物に設置された自販機スペースには、結構な数の自販機が並んでいた。朝晩の関係もなく、泊まり込みの分析や調査、会議が繰り返されているここでは、この場所が唯一コンビニの代わりだとも言える。ドリンク系はもちろん、菓子、パン、天ぷらうどん、ハンバーガー、焼きそばなどの軽食までが販売されていた。カップラーメンの自販機など、全自動でお湯が注がれ、完成された状態で出てくる。まるでひと昔前の、高速道路のサービスエリアを思わせる風景だ。
「ここのメニュー、すごく充実してるじゃん。いいなぁお嬢様」
「だからその呼び方、やめてって言ってるでしょ」
夕梨花が苦笑して肩をすくめた。
「夕梨花のその文句、何年ぶりかしら。なんか懐かしいわね」
そう言った女性は、二人の横で紙コップでホットコーヒーを飲んでいる。
倉敷春樹と押坂沙羅だ。
二人とも、夕梨花の警察学校時代の級友である。
春樹と沙羅の二人は、警察学校卒業後に警視庁機動隊に配属、夕梨花と同じキドロのパイロットとなった。
夕梨花が春樹に笑みを向ける。
「でも、春樹がパイロットを続けてるなんて、ちょっと意外よね」
「私もそう思う」
「俺もそう思う」
「あんた、自分のことでしょーが!」
キョトンとしてそう言った春樹に、沙羅が思い切り突っ込んだ。
実は春樹は、警察学校卒業時に交番勤務を希望したのだが、大越大二郎教官の推薦でキドロパイロットに任命されたのだ。あれから数年、春樹は今もパイロットである。
「あの頃春樹、交番のお巡りさんになるって言ってたもんね」
「確かに似合うと思う」
夕梨花の言葉に沙羅も同意した。
「どうして転属願い、出さないの?」
夕梨花の問いに、春樹が首をかしげる。
「なんでかなぁ。パイロットとしての才能があるとは思えないもんなぁ」
「それ、自分で言う?」
沙羅は半笑いだ。
「でも、キドロが好きって言うか、まぁ男の子はみんなロボットが好きなんだよなぁ」
春樹も沙羅も変わらないなぁ。
夕梨花はそう思い、心中が暖かくなるのを感じていた。
「それで夕梨花、状況はどうなってるの?」
沙羅の目が急に真面目モードに変化し、夕梨花にそう問いかけた。
「結構厳しい、って感じかな」
ついにトクボ部は、池袋の地下に施設を構えているダスク共和国のロボット特殊部隊「ブラックアイビス」の掃討作戦に乗り出すことになったのだ。だが、相手は一国の軍事組織である。自衛隊が出てしまっては国際問題になりかねない。そこでトクボに白羽の矢が立った。今回の掃討作戦は、あくまでも警察権の行使であり、相手も「謎の武装集団」もしくは「テロリスト」ということになっている。だがその場合、警視庁機動隊の四機のキドロだけでは心もとない。そこで春樹と沙羅にお呼びがかかったのである。
警察学校卒業後、警視庁機動隊に配属された二人はすぐに、他県への出向となっていた。その目的は、他県で経験を積ませることで優秀な人材を育成すること。そして、他県ではまだまだ定着していないキドロの運用を手助けすることの二つである。
沙羅は神奈川県警機動隊のキドロ部隊へ。
春樹は埼玉県警機動隊のキドロ部隊へ出向していた。
警察学校を卒業した警察官は、基本的にはその学校が存在する都道府県警での採用となる。だがキャリアアップのためなどで警察庁など別の組織に一時的に勤務する場合も多い。中には、地方警察から中央の警察局に出向し国の治安行政に携わったり、県庁や県内主要市の幹部職員としての出向や、世界各地の大使館や総領事館で外交官として勤務する場合なども存在している。そして大災害などが起こった場合に、現地へ応援に向かうことも広義での出向と言えるのかもしれない。
「でも相手は戦争のプロでしょ? 俺なんかじゃ足手まといになるんじゃないかなぁ」
そう言って不安げな表情を見せた春樹に、沙羅が冷たい声で言う。
「そうならないようにせいぜい頑張りなさい」
「沙羅って、いつもひどい言い方するよなぁ。ねぇお嬢様」
夕梨花がフフッと笑った。
やっぱりこの二人は全然変わってない。
「おいよぉ、やっぱりお嬢ちゃんはお嬢様だったのかぁ?」
その時三人の背後から、後藤のニヤニヤとした声が響いた。
「いつもお嬢ちゃんて呼ぶなって言ってるけどよぉ、俺以外もお嬢様って呼んでるじゃねぇか」
夕梨花の顔がちょっと赤くなる。
「だから、昔からずっとそう呼ぶなって言ってるの!」
少し不安げだった春樹の顔がパッと明るくなった。
「夕梨花、ここじゃお嬢ちゃんて呼ばれてるのか!」
「ここでじゃなくて、そう呼ぶのはこの人だけよ!」
「で、この若者たちは誰なんだぁ?」
沙羅と春樹が姿勢を正し、上半身を約15度の角度に傾けて礼をした。
「神奈川県警機動隊に出向中の押坂です!」
「埼玉県警機動隊に出向中の倉敷です!」
「二人とも、私の警察学校時代の同級生よ。こちら、警視庁トクボ部付きの後藤警部。みんなゴッドと呼んでるわ」
後藤が軽く右手を挙げる。
「よぉ、よろしく頼むぜ、お二人さんよぉ」
「ゴッドもコーヒー?」
「ああ、それもあるが、そろそろみんな揃ったんでブリーフィングルームに集まれって、白谷のオッサンが言ってるぜぇ」
夕梨花が苦笑して沙羅と春樹に目を向けた。
「オッサンじゃなくて、うちの部長ね」
「ほんじゃ、行きますかねぇ」
そう言うと後藤は、ブリーフィングルームへと歩き出した。




