第416話 真円のメッセージ
「なぁ、ボクになんか伝えたいこと、あらへんか?」
両津は、愛機「なにわエース」のコクピットでそう語りかけた。だが、なにわエースは相変わらずのだんまりだ。
「やっぱりあかんわ、うんともすんとも言わへん」
肩をすくめる両津。
「明日も見てくれるかな?!」
「うんとも!」
「お友達を紹介してくれるかな?!」
「すんとも!」
無線から、ひかりとマリエの楽しげな声が聞こえている。
ひかりとマリエに起こった出来事の謎を探るべく、ロボット部の面々は格納庫へと足を向けた。もし、彼女たちの頭に浮かんだイメージが機械からのものだとすると、メッセージの送り主として一番可能性が高いのはそれぞれのロボットではないのか? そんな奈央の意見からである。
「遠野さんはどうや? 火星大王の声、聞こえとる?」
「火星大王、さ!ん!」
ひかりの怒りの声が、無線で全員に届いた。
「あ、すまん!火星大王さんやった」
ちょっとふくれたひかりだったが、すぐに機嫌をなおしてカメラに笑顔を向けた。
「うん、やっぱり火星大王さんだったよ!ここに座ると、まぁるいイメージが強くなった」
「マリエはどう?」
奈々の問いに、マリエもひかりに同意する。
「うん、円が……とても大切、て言ってる」
「それはそうだよマリエちゃん」
ひかりが自機のコクピットで、左手の人差し指をピンと立てた。
「この世で一番大切なのは円、つまりお金だよ!」
「遠野さん、えらいゲスいこと言うなぁ」
両津が呆れ顔をワイプ用カメラに向ける。
愛理がワイプの中で、可愛く小首をかしげた。
「げすいって何ですかぁ?」
再ひかりが、左手の人差し指をピンと立てる。
「それはね愛理ちゃん、きったない水を流す土管のことだよ」
「それは下水! ひかり、今それはいいから火星大王さんの声に集中して!」
奈々が短めにツッコミを入れた。
その時両津が、ハッとしたように無線に言う。
「そう言えば野沢さんも、ロボットと話できたんちゃうかったっけ?」
あ、そうだったとばかりに、無線から驚いたような心音の声が聞こえた。
「私も聞いてみるわ」
「忘れとったんかーい!」
そんな両津のツッコミを無視して、心音はメインスクリーンに表示されたバイタルメーターへ目を向ける。すると、心音の目の前で心拍の波形が少しずつ形を変え始めた。心臓の動きに合わせ、定期的な脈動を見せていたそれが、ある形へと変化していく。
「やっぱり丸だわ」
心音の声に、大和が問い返す。
「それって、円てこと?」
「そう。バイタルの波形が丸くなって、今円形になってる」
「他のみんなはどうや?」
両津の問いに、皆の間に一瞬の沈黙が広がった。
それを破ったのは奈央だった。
「あら……なぜかわたくしの頭にも、丸が浮かんでいますわ?」
そして次々と届く同様の声。
「私にも見えるですぅ!」
「ほんとだ、私の頭にも浮かんできたわ」
愛理と奈々だ。
「おっと!俺にも見えるぜベイビー!」
「うん、ココが言ってたのってこれかぁ」
正雄と大和にも。同様の円形が見えているらしい。
「ええ〜っ?! みんな見えてるん?!」
両津の悲壮な声が響く。
「おや? 両津くんには見えていないのかい?ベイビー」
「自業自得だ」
「ひかり、また両津くんにキツくなってるわよ」
「自暴自棄だ」
「マリエちゃん、それちょっと違う意味になってるわよ」
「大和にも見えてるの?」
「うん、キレイな丸だね。これ、真円かな」
「これで大和も私と同じになったわね。喜びなさい!」
「うん、嬉しいよココ」
「なんでじゃーっ!」
両津のそんな叫びが格納庫に響いたと同時に、彼の見つめるメインディスプレイにキレイな真円が現われた。
「これや!」
次の瞬間、両津の喜びの声が響き渡った。




