第415話 内調の極秘情報
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
普通の事務室の扉に見えながら、実はしっかりとした防音になっている内調国際テロ情報集約室の会議室ドアが開き、一人の男が入ってきた。
高級そうなスーツで、いかにも高級官僚と言った感じである。年の頃なら50代前半ぐらいに見える。国家公務員らしく、国産のスーツに国産のシャツとネクタイだ。だが、おそらくその価格を聞いたら目玉が飛び出してしまうほどの額に違いない。見るものによっては、その上質な生地が分かるだろう。
佐々木が立ち上がって、その男を紹介する。
「私の上司です」
陸奥も立ち上がり、内ポケットから名刺入れを取り出した。
「都営第6ロボット教習所の教官、陸奥と申します」
その男も名刺を取り出し、陸奥に手渡す。
「国際テロ情報集約室室長の木村です」
名刺には、内閣情報調査室国際テロ情報集約室室長・木村康夫とあった。もちろん本名だとは限らない。佐々木も木村も、いかにも偽名っぽい名前ではある。まぁ陸奥にしたところで、肩書きに偽りありなのだが。
「ことがことなので、私も同席させていただきます」
木村はそう言うと、ていねいにおじぎをした。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そして木村は、陸奥と向かい合っている佐々木の左隣に腰を降ろした。
佐々木は、木村に目配せをすると話し始める。
「ブラックアイビスのことは、陸奥さんもご存知ですよね?」
「はい」
今回新宿の戸山公園で生徒たちを襲ったのは、ダスク共和国のロボット特殊部隊ブラックアイビスだ。それについては、陸奥を始め教習所の教官たちはすでに警視庁機動隊のキドロ部から聞いていた。
「その目的についても?」
「ええ、トクボから聞いています。まぁ、あくまでも予想だとは言ってましたが」
「そうですね。トクボの分析では、彼らの目的は生徒の一人、宇奈月奈央さんの確保ではないかと」
「そう言ってました」
陸奥の言葉に、佐々木は木村に目をやった。小さくうなづく木村。
「我々は別の可能性も視野に入れて捜査を行なっています」
「別の可能性、ですか?」
「はい。ですがその前に、ブラックアイビスがなぜ宇奈月さんを狙っているのか、その理由はどうでしょう?」
陸奥は少し考え込むと、スッと目を上げた。
「宇奈月工業のロボット技術では?」
「我々も最初はそう考えました。彼女の父親は宇奈月グループの総帥ですから」
「最初は、ですか?」
「ええ。実は今回の事件で、すでに彼らは無人ロボット兵の開発に成功していることが分かっています。つまり、彼らは独自の開発ルートか、技術の入手ルートを持っているのではないかと」
「では、わざわざ宇奈月くんを誘拐することはしないと?」
陸奥の言葉に、佐々木が肩をすくめる。
「いえ、それは分かりません。ですが、その可能性はあまり高くないのではないかと、我々は見ています。なにしろ無人ロボット兵の技術は、宇奈月ではなく霧山グループ傘下の花菱工業が第一人者ですからね」
なるほど。佐々木の言うことにも一理ある。
陸奥はふむとうなづいた。
その様子を見て佐々木が先を続ける。
「以前教習所内で宇奈月さんを襲った犯人は、反社組織の構成員でした。まぁ、チンピラってやつです。彼らとブラックアイビスとの接点は、今のところ見つかっていません。もちろん、彼らが金で雇われた可能性は捨てきれませんが」
そこまで言うと佐々木は、再び木村に目をやった。またもや小さくうなづく木村。
佐々木はすぐに視線を陸奥に戻した。
「次に宇奈月さんが襲われたのは東京ロボットショーでした。あの時の犯人の身元は、今でもほとんど割れていません。ですが……」
「ですが? 何か分かったんですか?」
「中のひとりの交友関係を深く探ると、黒き殉教者の影がちらつき始めたんですよ」
特殊部隊の次は国際テロ組織か?!
この日本は今どうなっているんだ?
陸奥の胸中に、不安と怒りが入り混じったものがこみ上げていた。
「そして……」
そう言って佐々木は少し言いよどむ。
「これからお話しすることは、特級の極秘事項です。まだ全く確証が取れていませんので、他言無用でお願いします」
「もちろんです」
陸奥がごくりとつばを飲み込んだ。
「詳細はまだ言えませんが、我々とトクボ部は、黒き殉教者と霧山グループに、何らかの繋がりがあるのではないかと睨んでいます」
驚愕に目を丸くする陸奥。
霧山グループと言えば、奈央の父が総帥の宇奈月グループと肩を並べる日本屈指の企業グループである。そんな巨大企業が、国際テロ組織と関係していると言うのだろうか?
「これはまだ、我々内調と、警視庁でもトクボ部しか知らないことですので、情報の取り扱いにはご注意願います」
「もちろんです」
その時佐々木がふうッと大きなため息をついた。
「ですが、もしそれが事実だとしても、宇奈月さんを襲った犯人や目的まで、いまだにたどり着けていないんですよ」
「と言いますと?」
「霧山グループは自社の傘下に、自動ロボット兵の技術を開発した花菱工業を持っています。それに他のロボット技術にしても、宇奈月工業に負けているわけではありません」
これまでの佐々木の話をまとめてみると、確かにどの組織も奈央を誘拐する目的が明確ではない。陸奥には、何か要素が足りないように感じられた。
佐々木が肩をすくめる。
「どうも、見つかっているパーツがうまくつながらないんです。すべてがそのように見えて、違うようにも見える。おそらく、まだ何かの情報が欠けているんだと思います。それが何なのかは、まだ分かりませんが」
会議室に、重苦しい空気が流れていた。




