第411話 地下トンネルの正体
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ひかりの父・遠野光太郎は城南大学文学部歴史遺産学科の教授である。自らの研究室を主宰しているが、年齢はまだ47歳だ。日本の大学教授の平均年齢がおよそ60歳であることを考えると、非常に若いと言えるだろう。髪もまだ黒々としており、ぱっと見はアラフォーと言っても通じてしまう。おかげで学内での人気も高く、彼の助手の希望者は後をたたない。だが、実際に彼の助手を務めているのはたったの二人。大学院生の安藤隼人24歳と牧田陽子23歳。彼女も院生だ。
隼人は今風の若者で、偏差値の高い城南大学の男子学生にしては小洒落ている。男性向けファッション雑誌から飛び出てきたような服装の上から、いつも白衣をはおっていた。髪型は爽やかなツーブロックで、その色はほんの少しだがブラウンに染めている。
一方の陽子は、判で押したように真面目な女子大学生である。黒髪ロングがサラサラと美しい。隼人のリクエストで、たまにツインテールにすることもあるが、普段はそのまま流すか、ポニーテールにしていることが多かった。
ちなみにツインテールの語源をご存知だろうか?
実はその名は、怪獣の名前から付けられたものなのだ。ツインテールは、1970年代に放送された特撮ヒーロードラマ「帰ってきたウルトラマン」の第五話と第六話に登場した怪獣である。その怪獣「古代怪獣ツインテール」は巨大な頭が下にあり、逆立ちをしたような格好で、二股に分かれた尻尾が上についている。その形がヘアスタイルのツーテールと似ているため、そう呼ばれるようになったという。その他「ボブ」は、英語で「馬の尾をカットする」という意味の単語「bob」から、「リーゼント」はロンドンのウェストエンドにある繁華街「リージェント・ストリート」の緩やかなカーブに似ていることからこの名がつけられた。物の名前の語源には、意外なものも多いのである。
「これ、どう思います?」
隼人は、目の前のパソコン画面に表示されたデータをじっと見つめていた。
その隣で陽子が首をかしげている。
「どうしてこんなに色んな年代なんでしょう?」
そのデータは、対袴田素粒子防衛線中央指揮所から送られてきたものだ。東京都民の足の下に存在する、謎の地下トンネルに関する地質の年代測定結果のデータである。
東京の地盤は、おおまかには深いところから下部東京層、東京礫層、上部東京層、関東ローム層となっている。これらが、武蔵野台地から東京湾の底に向けて斜めに傾くような層を作っている。例えば、高層ビルを建てる場合ここまでパイル・杭を打ち込む必要のある東京礫層は、新宿副都心付近では10mの深さあたり存在する。だが、東京スカイツリーのある東京墨田区の押上・業平橋駅周辺では、深度50mまで掘らないと出現しない。つまり地層は、東京の高地から低地に向けて傾斜しているのだ。
そのため、場所によりその地層の年代は予測が可能だ。例えば東京礫層は、約20万年前の更新世中期に形成された地層なのである。
だが、トンネルが掘られた時代の特定には少々骨が折れる。掘削に使われた機材などに付着していた有機物が必要なのだ。それが発見できた場合、放射性炭素年代測定のAMS法で年代の特定が可能だ。ありがたいことに最近のAMS法では、非常に微量のサンプルさえあれば測定が可能になっている。
「つまり、長い年月をかけてトンネルが掘られたってことじゃないかなぁ?」
隼人が首をかしげながらそう言った。
そんな彼に視線を移して陽子が言う。
「でもそれじゃあ、何千年も前からずっと掘ってたことになるよ?」
「うーん、俺に言われてもなぁ」
そんな二人に、この研究室の主宰者・遠野教授が後ろから声をかけた。
「それに、そうなると掘り始めはメソポタミア文明やインダス文明の頃になる。日本だとまだ縄文時代だな」
そう言った教授に、陽子と隼人が振り返る。
「竪穴式住居に住んで狩猟してた頃ですよね?」
「まさか、石器で地下トンネルを掘ったのかぁ?」
うーんとうなったまま、沈黙してしまう三人。
あまりにも現実味のない結果である。
隼人が大きくため息をついた。
「しかもですよ、これまで誰にも気付かれずに掘り続けてきたってのが、もうどうにも信じられないですよ」
遠野研究室に、再び重い沈黙が流れた。
その頃、対袴田素粒子防衛線中央指揮所では、別の事実が雄物川たちを驚愕させていた。
美咲がスクリーンを指差して、雄物川に視線を向ける。
「これ、ほぼ真円じゃないでしょうか?」
真円とは正円のことで、少しもゆがみのない完全な円のことだ。
東京の大規模地下調査で発見された各地下トンネルを、予測を混じえつつ繋いでみたのである。そこに現われたのは東京23区を囲むほどの大きさの真円と、それにつながる縦と横の直線が数本。
「確かに、真円だな」
雄物川も、驚きに目を丸くしている。
美咲が驚きながらも首をかしげた。
「こんなもの作って、いったい何をするつもりなんでしょうか?」
「見当もつかないな」
その時、美咲の向かうコンソールから、ピコンと言うメールの着信音が聞こえた。
コンソールのキーボードを操作する美咲。
「遠野研究室から、中間報告が届きました」
「読み上げてくれ」
雄物川は、東京のマップ上に浮かび上がる円を見つめたままそう言った。
「まだ最終結論は出ていませんが、あの地下トンネルは、縄文時代から数千年に渡って掘り続けられたものの可能性があります、と」
驚愕の事実である。
そんな昔に、人類に地下トンネルを掘るような掘削技術があったとは思えない。しかも完成形が真円である。いったいどんな測量技術を持っていたと言うのか。
美咲がメールの続きを読み上げる。
「一番新しい掘削跡は……」
そこまで読んで、美咲の目が驚愕に見開かれた。
「今年のものだと思われます……所長、これは?!」
「誰だかは分からんが、もしかすると現在進行形で掘り続けている最中なのかもしれん」
つまり、下手に調査班を向かわせると、その誰かと遭遇するかもしれないのだ。
しかも、すでにダスク共和国の特殊部隊・ブラックアイビスがトンネルに施設を建設している。その誰かがブラックアイビスと遭遇したらどんな事態になってしまうのか。
「陸奥くんたちが戻ったら、至急対策を考えないといかんな」
雄物川の重い言葉が、低く室内に響いた。




