第41話 くじ引き
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
『おにいちゃん、ひかりです。
まだまだ寒い日が続いていますが、いかがお過ごしさんでしょう?
私はとってもファインせんきゅーさんです。あ、これはマイトガイくんが教えてくれた言葉です。意味は確か、とっても元気!だったと思います。あと、頭がピーカンて意味もあるって言ってた気がしますがよく覚えてません』
「遠野さん、また声に出てるわよ」
手紙を書いているひかりに奈々が言う。
「それにツッコミどころが多すぎるし」
「へ?」
ひかりが、何のことだか全く分からないという顔を奈々に向ける。
「お過ごしにもファインサンキューにも、さんは付けないの」
「でも、付けた方が可愛いよ?」
ひかりが小首をかしげる。
「それにファインサンキューの意味だけど、確かにファインにはお天気の晴れって意味もあるけど、頭がピーカンと言うのはあんまりいい意味じゃないと思うわ」
「そうかなぁ、ピーカンって元気って感じがしていいなぁって思うよ。ピカーンみたいに!」
そう言ってニッコリと笑ったひかりは、ピーカン、ピーカンと、歌うように言いながら手紙の続きを書き始めた。
『それからね、お兄ちゃん、この前とっても楽しい授業があったんです』
「今日の授業は南郷教官のクラスと合同で行う」
そう言った陸奥に、両津があきれたような顔を向ける。
「いやいや、南郷センセのクラス言うても僕一人ですやん」
「まんつーまん、ってやつや。両津くんは贅沢やなぁ」
陸奥の隣には南郷が立っている。
「そんな贅沢、いりませんわ」
両津は苦笑した。
都営第6ロボット教習所、今日は教室での授業である。
「これからみんなには、各自が乗っているロボットに名前を付けてもらう。統計的に見ても、ロボットを名付けると愛着がわくのか、運転技術が向上することが知られている」
マジか?!生徒たちは全員、そんな表情だ。
「ほんでそのやり方なんやけど、俺がめっちゃええ方法を考えてきたで!じゃ〜ん!」
そう言うと南郷は、商店街の福引に使用するような紙製の箱を教卓に置いた。
「この中に君らの名前を書いた紙が入っとる。それを引いて、出た名前の人がひいた人のロボットに名前を付けるんや。楽しいやろ!」
うわ〜、この人また変なことやり始めた。
両津は心のなかでつぶやいた。
「南郷さん、それではあまり愛着が……」
陸奥も苦笑気味だ。
「いやいや陸奥さん、仲のいい友達が付けてくれた名前や、絶対に愛着わきますって」
「そうですかねぇ」
陸奥も渋々だが、南郷のアイデアに乗ることにしたらしい。
「その前に、すでに自分の搭乗機に名前を付けているものはいるか?」
陸奥の問にひかりの手が挙がる。
「私のロボット、名前は火星大王さんです」
「それは商品名やろ?」
「いいえ、火星大王さんなんです」
この教室にいるほぼ全員が首をかしげた。奈々の手が挙がる。
「この子、何にでも『さん』を付けるんです。だから『火星大王さん』て言う名前を付けたんだと思います」
「なるほど」
陸奥がうなづいた。
「陸奥センセ、なるほどですか?」
両津のその声に、再び教室にいるほぼ全員が首をかしげた。その疑問には答えず、陸奥はマリエに目を向ける。
「確かマリエのロボットにも名前が付いていたな」
マリエの愛車はオランダのロボット会社スパイクの最新型、スパイク1000だ。流れるような曲線ボディが美しい高級ヨーロッパ車で、日本でも人気が高い。
マリエがゆっくりと立ち上がり、ひかえめな声で言う。
「リヒトパース、です」
その名前はマリエの髪色にちなんで付けられた。オランダ語で薄紫の意味である。確かにマリエのロボットには、紫系のラインが塗装されている。
「んじゃ、早速始めよか!」
そしてくじ引きの結果は以下である。
奈々ロボの名付けは正雄。奈央ロボは愛理、愛理ロボは奈央、正雄ロボは両津が名付けることになった。
「あれ?センセ、俺のロボットは誰が名付けてくれはるんです?」
南郷がニヤリと笑う。
「特別に俺が付けたろ」
「なんでやーっ?!」
両津の悲鳴が教室に響き渡った。