第409話 暴走ニンギョウ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「退避だ!三機とも、すぐにこの場から避難しろ!」
大越教官の声が無線から響いている。
「こいつの対処は、俺たち教官に任せるんだ!」
すでに数人の教官たちが、彼らのキドロに向かって駆け出していた。
だが夕梨花と沙羅に、その声は届いていなかった。
なぜなら、暴走しているニンギョウが、警視総監を始め来賓のいる観覧席に向けて走り出したのだ。
今引いたら、どんな被害が出るのかは想像に難くない。
ならば、こいつを止めるのは私たちだ!
沙羅の緊迫した声が、夕梨花と春樹のコクピットに響く。
「私たちで止めるわよ!」
「了解!」
「いやいや、教官が退避しろって!あんな危ないの、どうしたらいいかオレ分かんないよ!背中のボタン押しても、絶対に止まらないよね?!」
「大丈夫、春樹にもちゃんと役に立ってもらうから!」
そう言うと沙羅は、春樹の乗るキドロの腰に両腕を回した。
「へ? こんな時にラブシーン?!」
春樹の間の抜けた声を無視して、沙羅が両手のハンドルを思い切り引く。そして右足でペダルを踏み込むと、春樹のキドロを抱え上げた。
「ええっ?! 何するんだ?!」
「こうするのよっ!」
そのまま春樹のキドロを、思い切りぶん投げる沙羅。
「うぎゃー!」
春樹機は、彼の悲鳴を響かせながら観覧席に向かっているニンギョウの足元に転がった。足をすくわれたニンギョウが、轟音を立てて転倒する。
「今よ!」
沙羅の叫びを聞くよりも早く、夕梨花のキドロが大きくジャンプした。その手には、キドロ標準装備の特殊警棒が握られている。空中で右腕を振り、三段式になっているそれをジャキンと伸ばす。
「もらった!」
夕梨花はそう叫ぶと、転がっているニンギョウに飛び乗り、カメラや外部センサーが集中しているその頭部に、特殊警棒を振り下ろした。警棒の材質は超硬合金だ。鉄やステンレスよりも強く、ダイヤモンドに次ぐ硬さを誇っている。超硬合金は、炭化タングステンや炭化チタンなどの金属炭化物の粉末に、コバルトなどを加え焼結して作られる。しかもキドロ用警棒は、そんな超硬合金の中でも通常より弾性変形しにくく、熱変形が小さい微粒子超硬で作られていた。並大抵の物なら、これの一撃を受けて平気ではいられない。
だが、夕梨花の一撃は、ガインと言う音とともに跳ね返された。もちろん無傷ではない。衝撃を与えたあたりに、大きな凹みができている。
「止まらないか!」
夕梨花の顔が苦しげに歪んだ。
大越教官からの無線が三機に届く。
「ニンギョウの装甲は頑丈だ!そう簡単には破壊はできない!」
ニンギョウの足元に転がっている春樹が、悲鳴のように質問を投げた。
「じゃあどうすれば?!」
「泉崎くんの狙いは正解だと思われる。ヤツのメインカメラとセンサーを破壊できれば、恐らく動きが止まるだろう」
「でも、あの装甲じゃ!」
その時スクリーンにワイプが開き、沙羅の顔が映し出された。その表情は、なぜかニヤけている。
「夕梨花が凹ませたあの場所を、何度も攻撃すればいいのよ!」
そう言うやいなや、沙羅は夕梨花同様に大ジャンプした。そしてまだ転がっているニンギョウの上に落下、特殊警棒を夕梨花がつけた凹みに振り下ろす。
ガイン!
轟音を立てて、その凹みが増した。
「春樹!」
「もうやけくそだーっ!」
そう叫ぶと春樹は、右手の警棒を両手に持ち直し、下から思い切り突き上げる。
ぐぎゃん!
と、嫌な音を響かせて、春樹の警棒はニンギョウの頭部に食い込んだ。
「やった?!」
メインカメラとセンサーを破壊されたニンギョウは立ち上がると、目標を失ったようにその場でぐるぐると回転するように足踏みを始めた。
「よし!観覧席がどこだか分からなくなったようだ!」
大越の声に明るさが戻る。
「一ノ瀬教官!今です!」
その声に合わせるように、大越の後ろに一ノ瀬教官のキドロが到着、30ミリ機関砲をニンギョウに向ける。
連射だ。
その正確な射撃で、夕梨花のつけた凹みから銃弾が食い込み、ニンギョウの頭部全体を吹き飛ばした。
ガクンとヒザを着くニンギョウ。
バタリとグラウンドに倒れていく。
「やった!」
春樹の歓喜の声が無線で聞こえた。
だが、ニンギョウは倒れたまま、ガクガクと震え続けていた。
「気持ち悪っ!」
沙羅が顔をしかめてそう言った。
「なんか……生き物みたいだ」
春樹も気味悪そうな声をあげる。
原因はいったい何なのだろう?
こんな暴走は、ロボットが関係した事件記録でも目にしたことが無い。
夕梨花は、授業で習ったニンギョウの図面を思い出していた。
どこに故障が起これば、こんなことになるのだろうか?
だが、その原因が素粒子であることを、この時の夕梨花は知る由もなかった。
「それって、袴田素粒子による暴走ちゃいますのん?!」
両津が目を丸くしてそう言った。
他の生徒たちも、うんうんとうなづいている。
「そうね。でもあの頃の現場は、まだその原因を詳しくは知らされていなかったの。しかも私たちは警察学校の新入生よ。まだまだ知識も無いから、理解を超えた暴走だったわ」
夕梨花はそう言うと、当時を思い出すかのように、中空を見つめていた。




