第401話 警察学校
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
警察学校は、警察官や警察職員を育成するための教育機関であり、職業訓練学校とも言える。数か月にわたる全寮制での共同生活を通じて、警察職員として必要な教養・訓練を学ぶ場所だ。
なお、警察官にはキャリア・準キャリア・ノンキャリアの3種類が存在する。キャリアは警察大学校卒業者、準キャリアは管区警察学校の卒業者、ノンキャリアは各都道府県警察学校の卒業者であり、警視庁警察学校を卒業するとノンキャリアとなる。
また、各都道府県に採用される警察官には一類と三類の二種類がある。一類は大学卒業者か、大学卒業程度の学力がある者。三類は高校卒業者か、高校卒業程度の学力を有する者となっている。
つまり夕梨花は、本来三類となるはずが特例として一類となったノンキャリ候補生と言えるだろう。
金曜恒例、早朝の「駆け足訓練」という名のランニングを終えた夕梨花は、教場で一時限目の準備を始めていた。教場とは一般の学校で言うところのクラスのことであり、彼らはここで、警部補である教官と巡査部長である助教により職務遂行に必要な基礎知識を学んでいく。一時限目は座学である「講義」だ。憲法、刑法、刑事訴訟法、民法などの法律関係の授業はもちろん、事件や事故が起こった場合どのように対処すべきかについてなど、幅広く学ぶことができる。また、サイバー犯罪に対処するため、パソコンに関する知識の習得も重要視されている。
「しかし強化期間、まだ先は長いよなぁ」
夕梨花の隣の席で弱音を吐いたのは、同じ教場の同級生、倉敷春樹だ。歳は夕梨花と同じ19歳。髪型は警察官らしいスポーツ刈りだ。支度に時間がかからず、ドライヤーの必要もない。なにより帽子やヘルメットを被った時にも髪が乱れる心配がない。細身でスラリと背が高い、交番のお巡りさんがよく似合う好青年だ。
強化期間とは、警察学校に入校してからおよそ一ヶ月間の「指導強化期間」のことだ。この期間は携帯やスマホが禁じられたり、休日の土日であっても外出が認められなかったり、常に先輩が指導に巡回していたりと、特に指導が厳しい。つい先日まで普通の高校生だった春樹の嘆きも、理解できるというものだ。
「何言ってるのよ。強化期間が始まって、まだ一週間じゃない。音を上げるには早すぎるわ」
夕梨花が笑顔でそう言った。
「はいはい。お嬢様の言う通りです」
「そのお嬢様って言うの、いいかげんやめてよね」
春樹の言葉に、夕梨花は苦笑した。
まさかこの数年後に、同僚の警部補・ゴッドこと後藤から「お嬢ちゃん」と呼ばれるようになるとは、この頃の夕梨花には想像すらできなかった。
警察学校の授業は一時限が80分、一日に五時限が行なわれる。
一時限目は座学の「講義」。
二時限目は「教練」。警察官に必要な警察礼式、部隊行動などを学ぶ授業だ。直立した姿勢で合図が出るまで長時間動かない、敬礼を何度も繰り返す、速やかに装備の点検をするなど、警察官の心得を身につける。教練で学ぶ内容は、警察官として働き始めた後も必ず必要となる基礎と言える。
三時限目は「術科」だ。男性は柔道又は剣道、女性は合気道、柔道又は剣道から選択、心身両方の鍛錬を目指す。また、警察官の必修科目として男女共に、逮捕術の訓練も行なわれる。逮捕術は、被疑者や犯人などを逮捕するための技術であり、その目的は相手を無傷で取り抑えることにある。警察学校での必須科目で、卒業には逮捕術検定に合格する必要がある。
四時限目は「拳銃」。武器の使用が認められている警察官は、拳銃訓練や使用するための関係法令を学ぶ必要があり、非常に重要な必修科目と言えよう。
五時限目は「軽スポーツ大会」と呼ばれる体育の授業で、教場対抗の試合が行なわれる。様々なスポーツで競い合うことにより、教場内の団結力を高めるのが目的だ。ちなみに教場の数は四クラスあり、各教場の人数は30人前後。教練の時間に1個小隊を3個分編成する必要があるためにこの程度の人数が目安となっている。
そして夕食、入浴、自由時間の後、消灯は22時30分だ。この消灯時間も、ついこの前まで普通の高校生だった学生たちにとって、なかなか馴染めないもので、最初のうちは寝付けない者が続出する。だが、昼間の激しい術科で、数日で爆睡するようになっていく。そうやって皆次第に、警察官らしい人物に成長していくのである。
「疲れてるのになかなか眠れないんだよなぁ。ゆうべも寝不足だよ」
春樹はあくびを噛み殺しながらそう言った。
どうやら彼はまだその域には達していないようである。
「そう言えば泉崎さん、あのウワサ聞いたかな?」
急に小声になった春樹に、夕梨花は疑問の視線を向けた。
「ウワサ?」
「うん。どうやら来週、キドロの操縦訓練が入るらしいよ」
夕梨花の目がキラリと輝く。
「それ、本当?」
「多分ね。俺の情報網、バカにならないんだぜ」
自慢気にうそぶく春樹の言葉は、もう夕梨花の耳には届いていなかった。
夕梨花の心は、すでに機動隊のロボット部隊「トクボ」の正式採用機種「キドロ」のことでいっぱいになっていたのである。なにしろ彼女の目指すところは、まさにキドロのパイロットなのだから。




