第400話 質問返し
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
ひかりたちが集められている会議室の扉が「トントトン、トントコトン」とリズミカルにノックされた。
「どうぞ」
夕梨花の答えに扉が開く。入ってきたのは南郷だ。
「やっぱりや」
両津が苦笑しながらため息をつく。
さっきの、調子をとったようなノックの仕方で、生徒たちのほとんどは扉が開く前にそれが南郷の仕業だろうと気づいていた。
「なんやなんやその顔は? せっかく南郷様が来てやったのに、お前ら不服か?」
両津が肩をすくめて言う。
「センセ、ここは警察でっせ? ふざけてる場合やないと思いますけど?」
「俺はふざけてへんで、俺の人生はいつでも真面目一直線や!」
再び両津が大きなため息を漏らした。
夕梨花が少しばかり苦笑交じりの笑顔を南郷に向ける。
「田中主任の方は、もう大丈夫なんですか?」
「ええ。なんや、戸山公園でなんか見つかったとかで、急いで指揮所の方へ行きはりました」
夕梨花は一瞬テーブルのスマホに目をやるが、特に変化が無いのを見て取ると再び南郷に向き直った
「主任、見たいものは見られたようですか?」
「それはもう!あの人、遠野くんの火星大王に一番興味があったとかで、じっくりご覧になっとりました」
その言葉にひかりがパッと反応する。
「火星大王、さ!ん!」
南郷は直立不動になり、キリッと30度のおじぎをする。
「遠野はん、すんまへん!火星大王さん、でした!」
ひかりが少しふんぞり返り、右手の人差指を伸ばして鼻の下をこすった。
「分かればよろしいで、どってんばってん」
その時両津が、悲鳴のような声を上げた。
「それ、ぜんぜん大阪弁やあらへん!大阪弁なめとったらあかんわ!どってんばってん? もしかして、九州弁? ばってんそんな言葉、おいどんは知らんですたい!」
一斉に首をかしげる生徒たち。だが、奈央だけが冷静に考察を口にした。
「確かに『ばってん』は熊本や長崎など九州の方言ですが、『どってん』は秋田などの津軽弁でビックリと言う意味ですわ。ですが、『どってんばってん』になると鳥取版の『どちらの神様』に似た表現が出てきます」
愛理が奈央に視線を向ける。
「どちらの神様?」
「ええ。『どちらにしようかな、天の神様の言う通り』って、愛理ちゃんも子供の頃にやったことあるでしょ?」
ひかりの顔がパッと明るくなった。
「それ、私今でもよくやる!」
「その鳥取版に『どちらにしようかな、天の神様の言う通り、どってんばってんヒヨコのお散歩』というのがあるのです。なので、厳密に言うと鳥取弁なのかもしれませんわ」
へぇ〜と、会議室の全員が感心の視線を奈央に向けた。
だがひかりだけは、両津に向き直って言い放つ。
「両津くんはだらずだけぇ、たいぎぃだで!」
「両津くんはバカだから退屈です!」
すかさず奈央が翻訳した。
「なんで鳥取弁しゃべれるねーん!」
両津の叫びで一連のこのくだりは一段落したと判断したのか、夕梨花が全員を見渡して言った。
「これで終了です。色々と聞かせてもらって、ありがとうね」
生徒たちは一斉に声を揃えて返事をする。
「ありがとうございました!」
修学旅行以来、せーので一緒に返事をすることが、彼らにとってすでに習慣となっていた。
「じゃあ次はこっちの番だぜ!」
正雄がニヤリと、マイトガイスマイルで白い歯を見せる。
「機動隊のお姉さん、俺たちからの質問にも答えてくれないかい?ベイビー」
生徒たち全員が、正雄よく言った!とばかりに、これも揃ってうんうんとうなづいていた。
「いいわよ。何が聞きたいの?」
夕梨花が優しく微笑むと、ひかりが勢いよく質問を投げかける。
「奈々ちゃんのお姉さんは、どうやって機動隊に入ったんですか?!」
再び生徒たちがうんうんとうなづく。
夕梨花は昔を思い出すように少し中空を見つめると話し始めた。
「警察に入るには何種類か方法があるんだけど、私は警視庁の警察学校に通ったの」
夕梨花は警視庁警察学校を抜群の成績で卒業していた。通常、警察学校のカリキュラムは、大卒の場合6か月、それ以外の場合は10か月で終了する。だが、高校入学と同時に、すでにロボット免許のA級ライセンスを取得していたこともあり、彼女は特例として大卒と同じ6ヶ月での卒業となった。
ひかりが奈々に顔を向ける。
「奈々ちゃんも、教習所を卒業したら警察学校に入るの?」
「私は……」
奈々が少し下を向き、言いよどんだ。
「私は?」
「まだ迷い中かな」
「そうなんだ。でも、決めたらちゃんと私にも教えてよね!」
奈々が顔を上げ、ポカンとした顔でひかりに聞いた。
「どうして?」
「だって、私ずっと奈々ちゃんについて行くんだもん!」
「行くんだもん」
なぜかマリエが復唱した。
そしてひかりが首をかしげる。
「でも、警察学校って何をする学校なのかな?」
まるでコントのように、一斉にズッコケル一同。
「ひかり、そんなことも知らないでついて来るって言うの?!」
「だって奈々ちゃんが行くなら、きっといい場所でしょ?」
「でしょ?」
プッと吹き出してしまう夕梨花。
「奈々、本当に遠野さんに慕われてるわね」
その時両津がマリエに問いかけた。
「まぁ遠野さんはそれでええとして、マリエちゃんもついていくんか?」
何を当たり前のことを聞くのか?
という表情を両津に向けるマリエ。
「私、ひかりが行くならついて行く」
「こっちは遠野さんを慕ってるんかーい!」
もうほとんどお約束になりつつあるやりとりが、トクボの会議室に響いていた。




