第397話 ギブ・アンド・テイク
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ほんでよぉ、いったいどこまで掴んでるんだぁ?」
後藤は、もうひとつの磯辺餅を口に放り込むとそう言った。
「どこまでとおっしゃいますと?」
「おいよぉ、ここまで言っておいてトボけるのかぁ? そのロボットについてに決まってるじゃねぇかよぉ」
ドルジはフッと息をつくと、後藤に視線をむける。
「私どもをかいかぶられているようですね。これ以上のことは、まだよく分かっていませんよ」
ドルジの目をじっと見つめる後藤。そしてニヤリと笑う。
「お前ら、ダスク政府の悪事を暴いて、やつらにひと泡吹かせたいんじゃねぇのかぁ?」
「そう言われましても、知らないものは言えませんよ」
ドルジは苦笑すると、寄席餅と一緒に来ていた湯呑みを手に取った。
「いやぁ、寄席餅に付いてくるのが昆布茶と言うのも、なかなかイカシてますなぁ」
ズズッとすすると、美味そうにごくりと飲み下す。
「お? これ昆布茶かぁ、気づかなかったぜぇ」
ドルジが、えっと驚いた表情を見せた。
「マジですか?」
「マジだぜぇ」
ハァっとため息をつくと、ドルジが肩をすくめた。
「後藤さんの味覚、あまり信用できないようですね」
「だから、ニワカだって言っただろぅよぉ」
「まさか本当にコーヒーの味が分かっていなかったとは、驚きです」
苦笑しつつも、後藤らしいと少しニヤけるドルジである。
そんな彼に、後藤が煽るような声音で言った。
「じゃあよぉ、交換条件を出せば少しは教えてくれるかぁ?」
「交換条件ですか?」
「おぅよ、そっちが欲しい情報を教えてやるから、そっちも掴んでることを教えろって話さ」
ドルジの顔が興味深げに変わった。
「それって、どんな情報ですか?」
後藤はドルジを煽るような表情のまま、右の口角を上げてニヤリと笑う。
「あいつら以外にも、無人ロボット兵をすでに完成させてるヤツらがいるって言ったらどうだ? この話、もっと聞きたくねぇかぁ?」
ドルジの表情が一変した。
「それは本当のことですか?」
「もちろんだぜぇ、俺、直接そいつと殴り合ったから間違いねぇ」
「実物を見たのですか?!」
「だから戦ったんだよ、ついさっきな」
後藤一流のハッタリだ。後藤が戦ったのはブラック・アイビスであり、無人ロボとは一緒に戦った、というのが正解である。
ドルジの目が驚きに見開かれる。
昆布茶の入った湯呑みを握りしめながら、しばし考え込むドルジ。
ほんの十秒ほどの後、ドルジはフッと顔を上げ後藤を真剣な目で見つめた。
「いいでしょう。情報交換ということで」
「ああ、ギブ・アンド・テイクってやつだぁ」
ドルジはスマホを取り出し、何かを探し始める。
「では私から。後藤さんもiPhoneですよね? エアドロップは使えますか?」
「もちろんだぜぇ。最近、書類のやり取りで無理矢理に使えって言われてなぁ」
何かを見つけたのか、ドルジはスワイプしていた指を止めた。
「送ります」
ピロンと音が鳴り、後藤のスマホに何かのファイルが届いた。
じっとスマホの画面を見つめる後藤。
「おめぇ、これって」
「はい。やつらの本部からの司令書です。ダスク語が読める人間は日本にはほとんどいないので、油断したのでしょう、あまり入手には苦労しなかったそうです。結構興味深いことが書かれてますよ」
後藤の表情も真剣なものに変わる。
「でも、後藤さんなら読めますよね?」
「あたりめぇだ。けどよぉ、これって本物なのかぁ?」
「証明はできませんが、本国の私の仲間から届いたので、信用していただいていいかと」
再び後藤がそのファィルに目を落とす。
「それで、そちらからいただける情報は?」
「そうだったな。おめぇ、黒き殉教者は知ってるだろぉ?」
ドルジの目が見開かれる。
「まさか?!」
「そのまさかだぜぇ」
二人の間に、重い沈黙が流れていた。




