第394話 ダイナ通信システム
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「こちらキドロ02沢村、現在03と共に地下トンネルを北上中」
沢村が無線で、本部に現状を報告した。
通常の電波は地中を進むことはできない。携帯電話はもちろん、警察無線であっても例外ではない。電波は光とよく似た性質を持っており、障害物があると反射されてしまい、その先に届くことはけしてない。だが今回の作戦に当たり、キドロにはプロトタイプではあるがダイナギガ技術を用いたダイナ通信システムが組み込まれている。おかげでこうして地下であっても、地上との連絡が取れるのである。
ダイナ通信システムは、地中を探索可能な新スキャナー「ダイナレーダー」の副産物として生まれた。通常の地中レーダーは建築現場でもよく見られる大して珍しくもない機材である。電磁波(パルス波)を地表から地中に向けて放射し、その反射波を計測することで地中の物体や構造を把握する探査手法だ。地中レーダーを使えば土や岩を通してのスキャンが可能であり、建築現場の強い味方だと言える。だが土質や使用周波数によっても異なるが、一般的には道路の陥没等の調査に使われるレーダーは深度1.5~2メートル程度の探査が限界だ。コンクリートなどでは1,000MHz等の高周波機器を使用するが、計測可能なのは1メートル程度に下がってしまう。埋設物や空洞、緩みなどの探査の場合は300MHz程度の周波数のものが使用されるが、それでも探査深度限界は4〜5メートル程度と言われている。しかも地下水の水位より下のものは探査ができないという弱点を持つ。それらを克服したのがダイナレーダーである。
技術者たちは素粒子に目を向けた。ニュートリノなどの素粒子は、土どころか大抵のものを通り抜けてしまう。その特性を利用すれば良いのではないか?
そこで彼らは素粒子の共振を利用して、電磁波のパルスと似た運動を作ることに成功、それをスキャン波として使うことにした。作られたパルスは地中を通り抜けて物体にぶつかりすり抜ける。その時に、その物体を構成する素粒子との衝突により生まれ放出される新しい素粒子を観察することで、物体自身の位置や材質が判別できるのである。そしてそのスキャナー波に、音声等の通信データを乗せることに成功したのがダイナ通信なのだ。ダイナレーダーは、放出された素粒子の観測が必要なため地上でほぼ100キロ前後、地中では地質にもよるが数キロ先までのスキャンが限界である。だがダイナ通信の場合は、素粒子パルスが一直線に進むだけである。理論上は、ほぼ無限に近い距離間での通信が可能となる画期的技術なのだ。ただ、なぜか1000キロ前後の距離でしか通信がつながらないのが現状だ。その理由は、現在の所まだ判明していない。
「生徒さんたちのスキャンで発見されたのは、このあたりまでだよな」
沢村が門脇に向けて、ダイナ通信で話しかけた。
「そうだな。花の広場を越えて、そろそろ戸山公園を出るあたりだ」
門脇の言葉に、沢村も前面スクリーンのマップを確認する。
今回の大規模地下探査で、奈央と愛理の組は戸山公園の地下に、南北に走るトンネルが存在することを発見していた。キドロ02と03は、その発見されたトンネルの北端にまで到達しようとしていた。
「部長、沢村機と門脇機が戸山公園から出ます」
美紀はすでに、トクボ部の指揮所に戻っていた。
「この様子では、このまま明治通り沿いを北上していく可能性が高いと思われます」
「早稲田大学と明治通りの中間あたりを抜けていくようだな」
白谷部長が、スクリーンに映されたマップを見つめながらそう言った。
「このまま進むと……池袋か」
池袋の地下に特殊部隊の地下施設が?
誰もがそんな事態だけは避けたいと考えていた。
もし地下で戦闘になったら、地上への被害は避けられないだろう。しかも自爆も辞さない相手である。最悪の事態を想定しての対処が必要となる。
トクボ部メンバーの酒井弘行理事官が白谷に視線を向ける。
「被害も心配ですが、相手は一国の軍事部隊です。下手に手を出すと、外交問題になる可能性も考慮しておかないと」
その通りである。だが、何の予告もなく他国に軍事部隊を送り込んで来ているのはダスク共和国の方だ。しかも極秘裏に作戦行動さえ行なっている。最初から外交問題化は避けられないと言えるのかもしれない。
「内調は?」
白谷の問いに、酒井理事官が腕時計に目をやる。
「まもなく佐々木さんがここにお見えになることになっています」
「沢村と門脇がやつらと接触する前に、内調の意見を聞いておきたいものだな」
キドロは標準で30mm機関砲を装備している。相手が飛び道具を装備していない場合、近接格闘戦のための特殊警棒のみを装備する場合もある。だが今回の相手は特殊部隊だ。その危険性を考慮し、キドロ02、03共に機関砲を持参している。地下で戦闘になればトンネル、そして地上に大きな被害が出る可能性もあるだろう。
「ダイナレーダーに反応!」
無線から沢村の緊迫した声が、トクボ部指揮所に響いた。
指揮所のメインスクリーンに映されているキドロのメインカメラからの映像には、まだ大きな変化はない。だが、ダイナレーダーは地中の先の変化をキャッチできるのである。
「やつらか?」
白谷のつぶやきに、指揮所の全員が息を呑んでスクリーンを見つめた。




