第392話 スペシャルフォース
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「じゃあ、集合場所を戸山公園にしたのは偶然だったってこと?」
夕梨花の言葉に、ロボット部の面々は皆うなづいた。
だが、奈央がひとつの疑問を口にする。
「みんなが集合する場所を戸山公園にしたのは、わたくしの単なる思いつきでした。ですが、あの黒いロボットたちの目的がわたくしの拉致にあったとしたらどうなのでしょう?」
両津が何かを思いついたようにパッと顔を上げた。
「となると、宇奈月さんの地下探査の場所があそこやって、やっぱりバレとったんちゃうか?!」
奈々が右手をアゴに当てる。
「なるほど。そこに偶然私たちが集合したから、なんとか拉致を防げたのかもしれないわね」
両津が後を続ける。
「そしてそれを目撃した人たちからの通報でトクボの皆さんが到着、拉致作戦は大失敗、ということかもしれへん!」
夕梨花が、奈央付きメイド兼護衛の三井良子に視線を向けた。
「どう思います?」
良子は少し考えると、夕梨花を見返して小さく答える。
「その可能性はあるでしょう。今日の事件と関係があるかどうかは分かりませんが、少し前に我社の広報に匿名のメールが届いたのです」
この話は、夕梨花たち警察には伝えていたが、生徒たちには話していない。
「ある組織がお嬢様を狙っていると」
やはりそうだったのか。
生徒たちの顔に、納得した、という表情が浮かんでいる。
「ですが、それがどんな組織なのか、メールの差出人は誰なのか、全く分かっていませんでした」
「今回のことで、その組織がブラック・アイビスだということは分かった、と」
夕梨花の言葉に良子がうなづいた。
「はい。それを伝えてくれたのが誰なのか、敵なのか味方なのか、親切心からなのか誰かをおびき出すためなのか……その辺のことは、まだ全く分かりませんが」
「しかも、もし事前に奈央の居場所がバレていたとしたら、どこから情報が漏れたのかが気になるわ」
奈々の言葉に、皆がため息をつく。
そんな中、愛理が小さく手を挙げた。
「あのぉ、さっきから聞きたかったんですけど、そのブラックなんとかってどんな組織なんですかぁ?」
それを聞いた正雄の目がキラリと光る。
「それはね伊南村くん」
そして左手の人差し指を、勢いよくピンと立てた。
「ダスク共和国の、すぺっしゃるフォースだぜベイビー!」
なぜか奈央も、左手の人差し指をピンと立てる。
「メイ・ザ・フォース・ビー・ウィズ・ユー!」
愛理の顔がパッと明るくなる。
「それなら私も知ってますぅ!フォースと共にあらんことを!」
ひかりが愛理を見て首をかしげた。
「消防士さん?」
もちろん、奈々が即座に突っ込んだ。
「それはホース!愛理ちゃんが言ったのはフォース!」
「お馬さん?」
「それもホース!」
「野球の?」
「フォースアウト!」
「お酒の?」
「ホワイトホース!」
「確か西洋わさび?」
「ホースラディッシュ!」
その時、夕梨花が盛大に吹き出した。
「フォースのダジャレ大会ね!奈々、いつも遠野さんとこれやってるの?」
「うん!」
「それが運の尽きだぁ!」
ひかりが何故か満面の笑顔でそう叫んだ。
「運の尽きだー」
マリエが復唱している。
「スペシャルフォースというのは、軍の特殊部隊のことよ」
まだニコニコと笑いつつ、夕梨花がそう正解を告げた。
「そうとも言う!」
なぜか正雄も元気である。
「ブラック・アイビス、日本語で黒いトキは、ダスク共和国が誇るロボット特殊部隊だぜ。あまり表舞台に出ることはなく、影で暗躍するから世界中で恐れられているのさ。パイロットが皆、頭が黒くて両横にたれた部分が赤いトキの頭みたいな帽子を被っている上に、乗っているロボットが黒いからブラック・アイビスと呼ばれているんだぜベイビー!」
分かりやすい!
正雄なのに的確な説明に、生徒たち一同が拍手した。
両津が興奮して正雄に問いかける。
「そのブラック・アイビスが、なんで宇奈月さんを狙っとるんや?」
正雄がニヤリと、白い歯を光らせた。
「分からないっ!」
「分からんのかーい!」
両津が、右てのひらの裏側で、バシッと正雄にツッコミを入れる。
まるでお笑い芸人の漫才のように、実にいい音がした。
「火星大王、昔うちにもあったんですよ」
トクボ格納庫で、美紀は懐かしそうにひかりの火星大王を見上げていた。
「もう15年ぐらい前ですけど」
南郷がうんうんとうなづく。
「そうですなぁ、あの頃大ブームになりましたからなぁ」
そう言うと南郷は、当時のCMソングを歌い始めた。
「♪ボクのおうちに王者がやってきた〜!
その名は火星大王、正義のロボット〜!
マーズキングっ! おぅ、おぅ、おぅ!
なんてね」
笑い合う二人。
当時、全世界が火星基地の完成に湧いていた。大人も子供も、火星からのテレビ中継に胸躍らせた。一大宇宙ブームが巻き起こったのだ。「火星」や「宇宙」と言った言葉がその年の流行語大賞にノミネートされ、みんなが宇宙時代の到来に沸き立っていた。そんな時代の最新鋭マシンこそ火星大王に他ならない。世界的な大ヒット商品となったため、現在でもアメリカの現代文化博物館に常設展示されているほどだ。だが、今ではその栄光を知る者はほとんど存在しない。
「時の流れって、残酷ですよね。火星大王って、今じゃクラシックロボじゃなくて、ポンコツとか言われてますし」
南郷がため息をつく。
「そうでんなぁ。中古だとめっちゃ安く買えまっせ」
「そうなんですか?!」
「ええ。だから遠野くんがこいつを持ち込んで来た時、私らも驚いたんですわ。でも、ご存知の通り、彼女はこれで軍用ロボットのヒトガタにも立ち向かった」
美紀が大きくうなづいた。
「だからこそ、一度見てみたかったんです。彼女の愛車を」
二人が見上げる無骨なロボットは、物言うこともなく静かにたたずんでいた。




