第391話 教習用ロボットたち
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「まるで東京ロボットショーみたいですね」
市ヶ谷警察総合庁舎内の警視庁特科車両隊にあるトクボの格納庫に、田中美紀技術主任の楽しそうな声が響いた。それに答えたのは南郷である。
「そうでっしゃろ。基本的にウチの教習車は、生徒自身の持ち込みなんですわ。もちろん補助金が出るんで、実質タダで自家用ロボットが手に入るシステムになっとります」
二人の目の前には九台の乗用ロボットが立っていた。現在会議室で事情聴取を受けているひかりたちロボット部の生徒たちの教習車だ。
「すいません、無理言ってしまって」
頭を下げる美紀に、南郷が大きく手を振る。
「いえいえ、無理なんかやありまへん。しかし、生徒たちのロボットに、そんなに興味あるんでっか?」
美紀がニッコリと笑う。
「ええ。暴走した重機やヒトガタと、どんな機体で渡り合ったのか、ちょっと見てみたかったんです」
南郷が右手を頭の後ろに当て、バツが悪そうに苦笑した。
「まぁ、機体が特別と言うより、あいつらが特別なんですわ」
「そうでしたね」
美紀の笑顔にも、ほんの少しだが苦笑が混ざった。
「ほな、順に説明していきましょか?」
「よろしくお願いします」
そう言うと二人は、並んでいるロボットに歩み寄る。
「まずこいつですけど、棚倉正雄くんの乗る教習車コバヤシマルです」
「アメ車ですよね?」
「ええ。グッドモーターズのMG5と言う機種です」
美紀が不思議そうに首をかしげた。
「コバヤシマルと言うのは?」
南郷が再び苦笑する。
「えーとですね、我が校では生徒たちに、自分の愛車に名前を付けるように指導してるんですわ」
「珍しいですね」
「そうなんですけどね」
「何か理由が?」
「はい、ロボットに名前を付けると愛着が湧いて、運転技術が向上するて説がありますねん」
美紀の顔がパッと明るくなる。
「その論文、私も読んだことあります!ジョージ・マンソン博士の」
南郷の苦笑が満面の笑みに変わった。
「知ってますのん?!」
「ええ。職業柄、ロボットに関する最新論文はできるだけ読むようにしてるので」
「この話が通じる人と初めて会いましたわ〜!」
「私もです」
笑い合う二人。
「でも、アメ車がいくら頑丈だと言っても、プレーンのままで飛び蹴りやパンチが可能なんでしょうか? 確か、棚倉キックとか?」
「最初は私もそう思ったんですわ。で、棚倉くん本人に聞いてみたら、あらビッくらポン!」
「ビッくらポン?」
南郷がニヤリと笑う。
「基本仕様から、けっこう大幅に改造して強化されとるんです、この機体」
「強化改造ですか?」
「棚倉くん、実はロボット格闘技の選手を目指してるそうで、愛機の装甲板を強化したり、ロボット筋繊維を太くしたり、色々とやってるそうなんですわ。もちろん車検に通るギリギリまで!と、本人は言っとりましたけど」
美紀が感心したような表情を見せた。
「それは確かにビッくらポンですね」
「でしょ?」
再び笑い合う二人。
「早く棚倉くんが、ロボット格闘技の選手として活躍できる時代が来るといいですね。ROBO-MMAとかで優勝する姿とか、ぜひ見たいです」
人々は変わらぬ日常を過ごしてはいるが、今地球は緊急事態宣言下にある。素粒子による侵略騒ぎが落ち着かなければ、彼がその道に進むことはできないだろう。それを思うと、二人の胸は苦しくしめつけられる。
「ほら、あの上腕の外側とか、すねの所とか、装甲板が普通より厚くなっとるでしょ?」
南郷は暗くなった雰囲気を変えようと、明るい声でそう言った。
「そうですね。確かにあの装甲なら、格闘戦も可能でしょうね」
そう言いながら、二人は歩を進める。
「次のロボットは……ご存知ですよね?」
「はい。泉崎さんの妹さんの愛車ですよね」
「名前はデビルスマイルで、棚倉くんが名付けましたんや」
「なんだか怖い名前ですね?」
南郷が急に正雄のモノマネ口調になる。
「泉崎くん、君は怒ると眉毛が怖いぜ……だからデビルスマイルだそうです」
プッと吹き出してしまう美紀。
「やっぱり姉妹は似るんですね」
なるほどと、南郷もニヤリとしてしまう。
「この車種なら格闘戦が可能、ということもご存知でっしゃろ?」
「はい」
奈々のデビルスマイルの車種はパンダG5。可愛い名前ではあるが、中身は実に高性能な機体である。なにしろ、機動隊のロボット部隊が使用しているロボット「キドロ」の旧タイプが設計のベースになっているからだ。ロボットの設計や製作には莫大なコストがかかる。日本政府としても警察にしても、予算の無駄遣いは許されない。そこで、キドロの武装以外の部分を民生機として量産に乗せたものがパンダG5なのだ。もちろんそれを奈々は知っている。姉の夕梨花に可能な限り近づくため、この機体を選んだのである。
「と言うわけで、我が校のツートップは最初から戦闘可能な機体に乗っていたっちゅーわけですねん」
もちろん愛車の性能だけで、暴走ロボットと互角以上に渡り合えることはない。彼らの操縦技術あってこそである。その才能を含め、都営第6ロボット教習所に集められたのだから。
「実はですね、私が一番興味があるのは次の機体なんですよ」
そう言って美紀は一台のロボットを指差した。
「遠野くんの火星大王さんですな」
「なぜにさん付け?」
「そうしないと遠野くんに怒られるんですわ」
そう言った南郷の表情は、苦笑ではなくあたたかな笑顔だった。




