第387話 あとひとつだけ
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「パイロットが乗っていないだと?!」
白谷が美紀に驚きの顔を向けた。
「はい。まだ細かい調整が終わっていないのですが、この指揮車に搭載されているテスト版ダイナレーダーによると、あのロボット内に生命反応はありません」
白谷が大きなため息をつく。
「なるほど……霧山重工と花菱工業は、すでに無人ロボット兵のプロトタイプの開発に成功している、と言うことかもしれないな」
じっとスクリーンのロボットを見つめる白谷に、美紀が問いかけた。
「花巻さんと佐々木さんにも、このデータを送った方が良いでしょうか?」
「そうだな。彼らの意見もぜひ聞きたい」
花巻は白谷の友人でもある公安外事四課の捜査員、佐々木は内閣情報調査室国際テロ情報集約室の職員である。まあ職員と言っても政府のお役人と言うにはほど遠い、まさに「日本政府のスパイ」ではあるのだが。現在トクボは、この二人を通じて公安と内調との協力体制を敷いている。
「恐らく公安と内調は、それぞれ独自のルートで霧山グループについての情報を得ているに違いない。我々の捜査情報とすり合わせをすれば、より正確なことが分かってくるだろう」
白谷は後ろを振り向き、一人のトクボ部員に指示を出す。
「公安と内調に連絡、ミーティングの調整を頼む。こちらの出席者は私と田中主任、パイロットの泉崎と後藤だ」
「了解!」
指示を受けた部員は早速端末に向かい、何やら操作し始めた。
「危なかったなぁ、キドロが来てくれへんかったら、ボクら危なかったで」
生徒たちは、まだ箱根山の頂上広場に集まっていた。安全が確認できるまでここにいてほしいと、キドロのチーフパイロットである奈々の姉・泉崎夕梨花から指示があったからだ。
ひかりの火星大王が、奈々のデビルスマイルに顔を向ける。
「奈々ちゃんのお姉ちゃんすごかったね!私たち全員でも防戦一方だったのに、キドロが来たらドーン!バーン!ドゴーン!て、どんどんやっつけてくれたもん」
「確かにそうだぜ。あの黒いヤツを、あっという間に撃退してここから下へ突き落としていったのには驚きだったぜベイビー」
「驚き桃の木山椒の木!」
そうひかりが叫ぶと、何かを考えていたような愛理が首をかしげた。
「あのぉ、ぼうせんって何ですかぁ?」
火星大王が左マニピュレータの人差し指をピンと立てる。
「それはね愛理ちゃん、ああ〜いいお湯だなぁ生き返るぜぇ、ってヤツだよ」
「それは温泉!愛理ちゃんが聞いてるのは防戦!」
危機的状況を脱したとはいえ、大立ち回りを演じた後でさえこのメンバーの日常は変わらない。
「いつも両津くんがお笑いオーディションに落ちることだよ」
「落選!」
「両津くんのギャグを聞いた時に欲しくなるものだよ」
「耳栓!」
「両津くんの人生は、」
「混線!」
「そして最後には」
「脱線!」
「なんでじゃーっ!」
そしていつものように両津の叫びでひとくだりが終わった。
「あ、そうそう、あとひとつだけ、お知らせしておいた方がいいことがございましたわ」
立ち去ろうとしていた葵のロボットは急に立ち止まり、肩越しに夕梨花のキドロに視線を向けた。まぁロボットの視線というものがあるのかどうかは議論の余地が残るところだが、つまりはそう見えたということである。
「あの下品な黒いロボットですが、恐らくダスクのブラック・アイビスでしょう?」
夕梨花機がうなづく。
「ああ、我々もそう判断している」
「だとすると……」
葵は少し間を開けて、衝撃的なひと言を夕梨花に告げた。
「自爆する可能性もありますわ」
「なに?!」
驚愕する夕梨花のコクピットに、後藤の呑気な声が響く。
「俺としたことが、すっかり忘れてたぜぇ。その美人さんの言う通りだ。ブラック・アイビスの正体がなかなか掴めないのは、捕らえても自爆してしまうからだって噂、聞いたことあるぜぇ」
「それって、電磁手錠では防げないのか?!」
「俺に聞かれてもなぁ」
後藤はひょうひょうとそう言った。
「そんなわけで、私たちは離脱します」
葵はそうにこやかに言い残し、いきなりロボットの速度を上げた。
その時、全キドロのコクピットに、無線から白谷の怒鳴り声が響いた。
「離脱だ!すぐにその場を離れろ!」
「生徒たちは?!」
「頂上まで、爆風は届かん!急げ!」
「了解!」
ダッシュで離脱する四機のキドロ。
その瞬間、六機の黒いロボットは轟音を響かせて爆発した。




