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第386話 惨憺たる有様

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 箱根山一帯は惨憺たる有様だった。

 いや、国内では滅多に見ることの出来ないほどの惨状を呈している、と言った方がいいのかもしれない。中東やモンゴルあたりで見られるロボットテロの現場のような有様なのだ。

 ふもと辺りに転がる多数の真っ黒なロボットたち。その全ては、電磁手錠によって拘束されている。手錠と言っても、人間用のように両手首にかけるものではない。取り付け場所に関わらず、強力な電磁波と電気を発することでロボットの電気系統を狂わせその動きを止めてしまう、日本警察が誇る最新の警察装備である。暴走ロボット事案が頻発するようになってから開発されたものの中でも、最も有効で現場に人気の装備だと言えよう。犯人や容疑者を拘束可能であることから、手錠になぞらえて現場では通称「電磁手錠」と呼ばれている。

 そのおかげでピクリとも動けずにいる黒いロボットたちのまわりには、キドロ四機と葵たち二機のロボットが立っている。そして都営第6ロボット教習所の生徒たちは全員、箱根山頂上広場に退避していた。

 夕梨花のキドロが葵のロボットに正対する。

「さぁ一段落だ。葵、あなたの目的を聞かせてもらいましょうか」

 警察無線を受信可能な者たちに緊張が走る。

 葵たち二機のロボットは特に違法行為を行なってはいない。それどころか警察に協力して生徒たちを救助したとも言える。だが美紀の検索によると、葵たちのロボットは陸運局に登録されていない。

 ロボットを運転するには登録が必要だ。道路運送車両ロボット法に基づく手続きを行い、運輸支局または検査登録事務所に届け出をする必要がある。ロボットを登録することで、機体の所有者や識別番号、使用目的、税金などの情報が登録され、正規に運転するための許可を得ることができる。そして自動車同様にナンバープレートが交付され、それを機体に掲示する必要もあるのだ。だが、今夕梨花たちの目の前に立つ二機のロボットにナンバープレートは付いていない。そういう意味では違法ロボットと言えなくもないのだが、さすがにそれだけの理由で逮捕することはできない。可能なのは青切符を切り、罰金を支払わせることぐらいだろう。

 無線から、葵の軽やかな声が聞こえる。

「せっかく泉崎さんと再会したのです。正直にお話しましょう」

 何を言っている?

 正直な話なんて、これまでにも聞いたことがないぞ!

 夕梨花は心中でそうつぶやいた。

「今わたくしが乗っているこの機体ですが、我社の子会社が開発中の新型ロボットのプロトタイプなんです。名前は仮称ですが、P5(ピーファイブ)と呼んでいます」

 その言葉を聞いた指揮車では、美紀を筆頭にトクボ部員たちが一斉に、葵が所属する企業集団・霧山グループに関する情報の検索を始めた。

「今日は戸山公園の大久保地区の芝生広場で、これのテスト運転をしていたんです。もちろん、都の許可はとっていますわ」

 大久保地区は、箱根山のある箱根地区と明治通りを挟んだ向かい側にある戸山公園の一部だ。箱根地区同様に、広大な緑地が広がっている。

 無線から、別周波数で美紀の声がキドロ各機に届く。葵たちに聞かせないためである。

「許可の確認、取れました。ウソは言っていないようです」

 ワイプの葵がニッコリと笑う。

「確認していただけたようで、ありがとうございます」

 この周波数チャンネルも聞かれている?!

 これではうかつな話はできない。

 指揮車内の緊張が高まっていく。

「それで、これは偶然なのですが、ロボット標準無線で生徒さんたちの会話を聞きまして、微力ながら救助に来た、というわけです」

 指揮車から白谷の声が各キドロに届いた。

「今回は仕方がない。彼女らに手は出すな」

 唇を噛みしめる夕梨花。

「その代わりに……」

 美紀の声が続く。

「ダイナレーダーで、可能な限りのデータをスキャンしておきます」

 葵は霧山グループ総帥・霧山宗平の第2秘書であると同時に、国際テロ組織「黒き殉教者」のメンバーである可能性が高い。夕梨花と後藤が最初に葵と出会った時、彼女はマトハル教の巫女だったのだ。もちろんそれを、葵本人は否定しているのだが。

「それでは、わたくしどもはこれで失礼いたします。まだP5のテストが残っていますので」

 残念だがこの状況では、葵を尋問するどころかその後を追うことすらできない。

 苦汁をなめるような思いの夕梨花だったが、そこに後藤の呑気な声が聞こえた。

「美人のおねぇちゃんよぉ」

「わたくしのことですか? 美人という言葉に自分で反応するのは、いささかおこがましいですが」

 葵がフフッと笑った。

「あんたと一緒にいるもう一機だがよぉ、パイロットが無口すぎねぇかぁ? さっきからひと言も喋らねぇじゃねぇか?」

 葵の表情は変わらない。

「わたくしの部下は寡黙なのです」

「寡黙ねぇ。Tuesday、Thursdayってかぁ?」

「その火木ではありませんわ。ゴッドさんは、やはり不思議な方ですね。シャンバラに在籍していた傭兵だとは思えませんわね」

 後藤の顔がニヤリとゆがむ。

「俺のことをよく知ってるんだなぁ」

 一瞬の沈黙の後、葵が再び笑顔を見せた。

「我社の情報網をナメてもらっては困る、というところでしょうか」

「ナメたらどんな味がするのかねぇ」

「そうですね、多分、甘くはありませんわ」

 後藤と葵がそろって笑う。もちろん、心からの笑顔でないことは確実である。

 その時、指揮車で美紀が白谷に小声で報告した。

「部長、もう一機のロボットですが……」

「何か分かったか?」

「ダイナレーダーのデータを分析してみないと、まだハッキリとは言えないのですが……どうやらパイロットが乗っていないようです」

 美紀のその言葉に、指揮車内に驚愕が広がった。

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