第385話 ブラック・アイビス
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「葵!いったい何をたくらんでいる?!」
夕梨花の問いに、葵が落ち着いた声で答える。
「人聞きが悪いですね。わたくしどもは何もたくらんでなどいませんわ」
その答えに、夕梨花が吐き捨てるように言った。
「白々しい!お前たちの崇拝する色は、黒き殉教者の名の通り黒だ!暴れているロボットたちも真っ黒じゃないか!仲間じゃないなんて言わせないぞ!」
だが葵は、フッと小さく笑う。
「皆さんには同じ黒に見えるかもしれませんが、わたくしどもの黒はあんなに汚れた色ではありませんよ。汚らわしい。紛争地経験の長いゴッドさんなら、あの姿を見て何かお分かりになるのではありませんか?」
突然話を振られた後藤がぎょっとする。
「いきなり俺かぁ? 紛争地と黒いロボットと、何の関係があるんだぁ?」
そう言いつつ後藤は、スクリーンで暴れている黒ロボを注視した。
「ゴッド!どうなんだ?!」
夕梨花の声を聞きながらゴッドが首をかしげる。
確かに何か違和感がある。
真っ黒に塗装された装甲板に、光の加減でほんの少し色の違うところがあるようだ。
目を細めるように黒ロボのボディを凝視していた後藤が、うめくような声を漏らした。
「マジかよ」
「ゴッド!何か分かったのか?!」
「お嬢ちゃんよぉ、あいつらはちょっとまずいぜぇ」
後藤の顔に、ニヤリとした笑顔が浮かぶ。まるで野生のどうもうな獣のようだ。
「あいつら、ブラック・アイビスかもしれねぇ」
夕梨花の目が驚きに見開かれた。
いや、この通信を聞いていたトクボ指揮車内にもざわめきが広がる。
美紀が白谷に視線を向けた。
「部長!日本にブラック・アイビスが?!」
白谷が苦笑する。
「ロボット部品の密輸の捜査で、ダスク共和国の関与がチラついてはいたが、まさかブラック・アイビスまで投入してくるとはな」
ブラック・アイビス、日本語では「黒いトキ」。
彼らはダスク共和国が誇るロボット特殊部隊である。
特殊部隊は、軍部の中で最も訓練され、最も恐れられる存在だ。他の部隊が出動をためらうような場所や事案の真っ只中へ出動し、敵を見つけ出して殲滅する。あるいは大胆な方法で救出作戦をやってのける。まさに、エリートの中のエリート部隊なのである。そんな彼らがなぜトキと呼ばれるのか? それはパイロットが身に付けている特殊な帽子に由来する。頭が黒く、両横にたれた部分が赤いその姿は、まるでトキの顔を彷彿とさせるのである。その姿を見た人々の間で呼ばれていたブラック・アイビスという名が、今では正式名称として使われていた。
「ブラック・アイビスだと?! どうして分かる?!」
夕梨花の問いに、後藤が再び目を細める。
「光の加減でよぉ、ボディにマークが描かれているのが見えるんだよなぁ。お嬢ちゃんもよぉく見てみな」
後藤にうながされ、夕梨花も目を細めて黒いロボットを見つめた。
「あれって……ウルジーヘーか?!」
「そうなんだよなぁ」
ウルジーヘーは、モンゴルではどこへ行っても見かける模様である。太古の昔にダスクへも伝わった文化であるこのマークは、結び目を用いた文様であり、その一筆書きで描くことができる特徴から、連続する無限を意味する。つまり、愛、調和、繁栄、長寿、多幸が終わりなく永久に続いていくことを表わすシンボルなのだ。このウルジーヘーが描かれている物を持っていれば、様々な幸運を授かることができると考えられており、ダスクでは数ある文様の中でも最も人気があり、国民の間で広く使用されている。
後藤が深い溜め息をついた。
「紛争地時代の俺の仲間たちも、みんなロボットのボディのどこかに、あいつを描いていたもんさぁ。黒ずくめでウルジーヘー、こりゃブラック・アイビスで決まりだぜぇ」
戸惑いを見せる夕梨花。
「だがゴッド、あんな違法ロボットをこんな東京のど真ん中に、どうやって六機も運んだんだ?!」
「俺に聞かれてもなぁ」
後藤のひょうひょうとした声が響く。
だが、それは葵たち二機に関しても同様だ。キドロでさえ、本部からキドロトランスポーターと呼ばれるトレーラー型の運搬マシンで運ぶしか移動手段はない。彼らはどうやって、誰にも見つからずに新宿区の戸山公園に現われたのか?
その時、葵からにこやかな声が届いた。
「と言うわけでわたくしどもは、あいつらの仲間でないことはお分かりいただけたでしょう?」
「じゃあ、貴様たちの目的は何だ?!」
夕梨花の叫ぶような声に、葵はニッコリと笑顔で答えた。
「それよりも、まずは生徒さんたちを助けるのが先ではありませんか?」
箱根山の頂上からは、相変わらずの乱闘音が聞こえている。
「そうだな……分かった!」
そう叫んだ夕梨花は、指揮車に無線で伝える。
「沢村と門脇もこちらへ回してください!全機の逮捕には手が足りません!」
「了解です」
無線から美紀の返事が返ったと同時に、夕梨花は山頂めがけてダッシュした。
後藤機も、そして葵ともう一機のロボットもその後を追う。
「こちら指揮車、キドロ02、03も箱根山のふもとへ向かってください」
美紀が沢村と門脇へ指示を出した。
それに白谷が続ける。
「泉崎とゴッドは頂上広場でブラック・アイビス各機を撃破、ふもとへ突き落とせ!沢村と門脇は電磁手錠でそれを確保、逮捕せよ!」
「了解!」
キドロ各機からキレイに揃った返事が返った。




