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第378話 箱根山

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「あと三段!ジャ〜ンプ!」

 ひかりの火星大王は階段の最後を飛び上がり、箱根山の頂上広場に降り立った。

「すっごーい!とっても見晴らしがいいよ、マリエちゃん!」

 その広場はとてもこじんまりとしていた。乗用ロボットなら四、五台が立つのがせいいっぱいだろう。だがひかりの言う通り、たった45メートルほどの標高とは言え、そこからの眺めは絶景である。

「私もジャンプ」

 マリエのリヒトパースも、ぴょんと跳んで広場に到着した。

「ホントだ、とても眺めがいい」

「でしょ!昇って良かったぁ。さすが天下の険だよ」

 ひかりとマリエは、ロボットの顔をぐるりと回しながら360度のパノラマを楽しんでいた。

 ひかりが何かに気づいたのか、無線に声をかける。

「奈々ちゃんも上がっておいでよ!それに、愛理ちゃんと宇奈月さんも!」

「すぐに上がるわ」

 奈々から了解の声が届いた。

「私もすぐにそっちに向かいますぅ!」

「わたくしもですわ」

 愛理と奈央もここへ来るようだ。


「あれは、ボクがまだ中学生の頃やった……」

 両津はためにためてから、そう語り始めた。

 だがそれに水を差すように、無線機からけたたましく呼び出し音が鳴る。

「またかいな!せっかくボクのヒストリーを語ろうとしとるのに!」

 無線からは正雄のニヤケた声が聞こえた。

「両津くん、どうやら他のみんなは一箇所に集結してるみたいだぜ」

「ほんまかいな。ほんならボクらも行こか?」

「それがいいぜベイビー」

 正雄と両津は、急いで箱根山へ進路を向けた。


「すごいですぅ!とっても眺めがいいですぅ!」

 奈々と愛理、そして奈央はすでに箱根山の頂上広場に到着していた。

「ホントね、とても気持ちがいいわ。大和もそう思うでしょ?」

「ああ。東京にこんな場所があったなんて、全然知らなかったよ」

 心音と大和のロボットも到着してはいたが、全員が上がれるほどこの場所は広くない。二人は階段を数段降りたあたりに立っていた。

 しかし今日は実に天気がいい。雲ひとつ無い青空が広がっている。おかげでここからは、北に池袋のサンシャイン60ビル、北東に霞ヶ浦、東に国技館、南東に東京駅、皇居、東京タワー、さらに房総半島、南西に新宿新都心のビル群、丹沢山、富士山、西に奥多摩、北西に赤城山までが、薄いもやの向こうに見えている。

 ひかりが陽気に言う。

「どこがどこかさっぱり分かんないけれど、とにかく見晴らし最高だね!奈々ちゃん!」

「分かりなさいよ!」

「てへぺろ」

 ひかりがペロッと舌を出した。

「テヘペロ」

 それを真似てマリエも舌を出す。

 自機のスクリーンに表示されたそんな二人を見て、心音が大和に突っ込んだ。

「大和!今、遠野さんとマリエちゃんを見て可愛いって思ったんでしょ!」

「え?!」

 意表を突かれた大和が絶句する。

 思ってないなんて言ったら遠野さんとマリエちゃんに失礼だし、思ったと言ったら多分心音の機嫌が悪くなってしまう。ここは何と答えるのが正解なのだろうか?

「えっと……ココもやってみてくれない?」

「え?!」

 今度は心音が意表を突かれてしまう。

「じ、じゃあ……てへぺろ」

 心音のてへぺろを見た一同が同時に叫んだ。

「可愛い〜!」

「あ、ありがとう……でも、もうやってあげたりしないんだからね」

 そんな心音の反応に、再び一同が同時に叫ぶ。

「可愛い〜!」

 その時、奈々が自機の換気スイッチを操作し、外気取り込みモードに変更した。

「ここ、空気もキレイみたいよ。みんなも深呼吸してみるといいわ」

 皆が一斉に外気取り込みスイッチをオンにする。

「ホントですぅ!都会の真ん中なのに、空気がおいしいですぅ!」

「そうですわね。これだけ緑地が広いと、内燃機関自動車の排気も浄化されるのかもしれませんわね」

 愛理と奈央も深呼吸している。

「さすが箱根山!さすが天下の険だよ!」

 ひかりがうんうんとうなづきながらそう言った。

 それに奈々が突っ込む。

「だから、ここはその箱根じゃないのよ」

 いつものパターンで愛理が首をかしげた。

「てんかのけん、って何ですかぁ?」

 ひかりがスクリーン越しに左手の人差し指をピンと立てる。

「それはね愛理ちゃん、お前はもう死んでいる!アタタタタタタ!」

「それは北斗の拳!愛理ちゃんが聞いてるのは天下の険!」

 愛理が再び首をかしげた。

「カムイの剣なら聞いたことありますけど、その剣ですかぁ?」

「愛理ちゃん、それは1985年に公開された 、りんたろう監督による劇場アニメーション映画のタイトルですわ」

 さすが愛理のオタク師匠、奈央である。アニメと特撮ネタには即座に反応するのだ。

 箱根の山は天下の険。

 それは明治34年に発表された唱歌「箱根八里」の歌い出しの歌詞である。「箱根八里」は、江戸時代初めに徳川幕府が整備した東海道の一部だ。標高約10mの小田原宿から標高846mの箱根峠を登り、標高約25mの三島宿まで下る8里(約32km)の街道を言う。この道は非常に険しく、東海道で一番の難所と言われていた。だからこそ「天下の険」と唄われたのである。


「お!みんなこの丘の上に集まっとるやん!」

 箱根山のふもとにやって来た両津が、その頂上を指差した。

「よし。俺たちも登ろうぜベイビー」

「よっしゃ!」

 両津が無線に呼びかける。

「こちら両津機と棚倉機、今から箱根山に登りまっせ!」

 だが、返ってきたのは奈々の冷たい言葉であった。

「ここはもう満員だから昇って来なくていいわよ」

「なんでじゃーっ!」

 両津のいつもの叫び声が、戸山公園の広大な緑地に響いていた。

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