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第377話 お前かーい!

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 東京の中心地に広がる13万6000坪もの広大な緑地。約449,587平方メートル、東京ドームひとつ分の深い森が広がっている市民の憩いの場所、それが戸山公園だ。

 戸山公園は元々、江戸時代の大名屋敷跡である。大名屋敷とは、参勤交代により江戸に参勤する大名のために江戸幕府が与えた屋敷のことで、主なものに上屋敷、中屋敷、下屋敷がある。

 明暦三年、1657年に江戸を大きな火災が襲った。明暦の大火めいれきのたいかと呼ばれるその火災は、1657年1月18日文京区本郷の本妙寺から出火し、その炎は丸二日間燃え続けたと言う。そして江戸の町のほとんどを焼きつくし、焼死者も10万人以上を数えたと言われている。

 幕府は、江戸のほとんどが焼け野原になったことで、一から町を作り上げる都市計画に乗り出した。そこで、江戸城内にあった御三家の尾張、紀伊、水戸をはじめ、幕府の重臣たちの屋敷を城外に移し大名屋敷を作ることになる。それが上屋敷、中屋敷、下屋敷だ。

 上屋敷は居屋敷ともいい、大名とその妻子を住まわせることになった。そしてその場所は、江戸城への登城に便利なように、西の丸ノ内や外桜田に集められた。逆に中屋敷は外堀の内縁に沿った範囲に配置、下屋敷は新しく四谷、駒込、下谷、本所など、江戸近郊に作られた。中屋敷は大名の跡継ぎの子・大名世嗣の邸宅であり、下屋敷は別荘や市中で頻繁に起こっていた火事の際の避難所としての役割を果たすことが多かった。

 そんな大名屋敷だが、その跡地は明治以降国有地となり、行政施設や国立大学キャンパス、各国大使館、公園などに活用されることになる。例えば東大の本郷キャンパスは、加賀藩前田家の上屋敷跡。日比谷公園は、萩藩毛利家や佐賀藩鍋島家など8つの大名上屋敷跡地である。

 戸山公園はそんな中の、尾張藩の下屋敷跡地だ。

 尾張藩は東海、北陸地方の藩で、現在の愛知県西部である尾張国や三河、美濃の一部を領地としており、藩主は名古屋城を居城としていた。その尾張が、参勤交代のために使った下屋敷跡が、今の戸山公園なのだ。

 尾張藩がここに下屋敷を持ったのは四代将軍家綱の時代、江戸幕府が提供した土地に周辺を買い足して作られた。ちなみに上屋敷は今の市ヶ谷陸上自衛隊のあたりにあった。つまり警視庁機動隊のロボット部隊、トクボの本部は元尾張藩の上屋敷跡にあるとも言える。なお中屋敷は、今の上智大学あたりになる紀尾井町に存在していた。

 江戸の当時は、各大名が庭園の美しさを競い合った庭園文化の時代だ。多くの大名屋敷が庭園を持っていたように、尾張もここに広大な庭園を作っていた。その他にはない特徴としては、その庭園の中に東海道五十三次の9番目の宿場「小田原宿」を再現、宿場町を作っていたことだ。お屋敷の中に宿場町と街道を作り、まさに江戸のテーマパークの様相を呈していた。宿場町には酒屋や植木屋など37軒の町の店舗が並び、屋敷への来客が訪れると、その店に商品を並べて買い物を楽しめる趣向になっていた。そして広大な庭には、道や橋、五重の塔なども作られ、ひと回りすると旅の気分に浸れたと言う。中でも人気だったのは箱根山だ。標高44.6メートル、現在でも山手線の内側で最高峰を誇る山である。二代藩主の徳川光友が、公園内に池を掘るために出た土で人造の山を作り上げた。その山頂広場は、現在でも非常に見晴らしのいい高台となっている。

 そして明治維新後土地の所有者が政府に移ると庭園は壊され、陸軍戸山学校が設けられる。射撃場、軍医学校などが作られ、軍事面で近代日本を支える拠点となったのだ。その後、第二次世界大戦が終わると、GHQ(連合国軍総司令部)による接収を経て、一部が都立公園として整備された。春から夏にかけてはサクラやツツジ、秋は紅葉が見ごろとなる。なお箱根山は、山頂まで登ると「登頂証明書」をもらうことができる人気の観光地でもある。

 江戸の大火、大名の江戸屋敷、広大な庭園、戦中の軍事施設、そして戦後作られた広大な団地や都立公園と、波乱万丈な歴史をたどりながら、戸山公園は今も豊かな緑が広がる都民憩いの場所である。なお、都内でカブトムシを見つけることができる珍しい場所として、マニアの間で有名なのはここだけの秘密である。

「そこにいるのは誰だ?!」

 奈央と愛理が待つ戸山公園に、他のメンバーの中で一番に到着したと思った両津に、茂みの奥から低い声が問いかけた。

 驚きに目を丸くする両津。

「誰やって言われても、高校生ですわ」

「そんなことは分かっているぜ!」

 その声はそう叫ぶと、茂みから勢いよく飛び出した。

「棚倉キーック!」

「お前かーい!」

 両津が乗るなにわエースは、顔の前で両腕をクロスさせて正雄機のキックを受け止めた。

 ガイン!と轟音を響かせて正雄のコバヤシマルが反転ジャンプ、器用に宙返りするとスチャッと着地した。

「と言うわけで、一番乗りは両津くんではなかったというわけだぜベイビー!」

 正雄がニヤリと笑ってそう言った。

「残念や〜!次は負けへんからな!」

 正雄が首をかしげる。

「次って何だ?」

「分からへんけど次や、次!」

「よし、いつでも受けて立つぜ!」

 二人共、次が何かも分からず爆笑していた。


「えっほ、えっほ」

 小高い丘を登る階段を、無骨な乗用二足歩行ロボットが駆け上がっていた。ひかりの火星大王だ。その後を追うのはマリエの乗るリヒトパースである。

「エッホ、エッホ」

 マリエもひかりを真似て復唱する。

 箱根山の山頂はもうすぐだ。

 そのふもとで、とは言っても箱根山の標高はたったの45メートルほどなのだが、両手を腰に当て、呆れたように二人を見上げているのは奈々が乗るデビルスマイルだ。

 この丘が「箱根山」という名前だと知ったひかりは突然、

「箱根の山は、天下のけ〜ん♪」

 と歌い出すと、いきなり駆け上がっていったのだ。

「ひかり!いきなりどうしたのよ?!」

 そんな奈々の問いに、ひかりは明るい笑顔でこう答えた。

「だって、箱根の山を昇ったら大涌谷とか見えるでしょ? 温泉タマゴ食べたいもーん!」

「それは私も食べたい」

 マリエもそんなひと言を残し、ふたりは駆け上がっていったのである。

「その箱根じゃないんだって!」

 そんな奈々の叫びは、ひかりとマリエには届いていなかった。

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