第372話 大規模探査
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
窓一つ無い広いグレーの部屋。その四方の壁はズラリと並ぶ様々な機械やコンソールで埋め尽くされている。そしてその中央には大きな会議用のテーブルが据えられていた。ここは都営第6ロボット教習所の地下、ストラタム09にある対袴田素粒子中央指揮所だ。今現在、何かの作業の真っ最中らしく、室内では多くの白衣の所員達が忙しく動いている。
「そろそろデータが集まり始めています」
中央の会議用卓に着いている久慈教官が、その前面の空中に浮かび上がったスクリーン、80インチはあるだろうか、の表示を見つめながら言った。
「結果がまとまるのにどのくらいかかりそうかね?」
同様に中央卓に着いている雄物川が、久慈に視線を向ける。
テーブルの上に光を使って表示されたキーボードをトントンといくつか叩くと、久慈は再びスクリーンに目をやった。そこには様々な数字が映し出されている。
「そうですね……全てを解析するには数日はかかりますが、概要なら後一時間ほどでなんとかなるかと」
「了解だ。進めてくれ」
白衣の所員の他にここにいるのは所長の雄物川、教官の久慈、教師の美咲、そしてたった今学食から駆けつけてきた幸代である。陸奥と南郷の姿は見えなかった。
幸代が小声で美咲に尋ねる。
「あの、どこまで進みました?」
「もうすぐ、予定の場所は全て終わりそうです」
「それで、生徒たちは?」
美咲がニコッと笑って幸代に目を向けた。
「心配ですか?」
幸代が、ちょっと照れたような笑顔になる。
「彼ら、毎日のように学食で騒いでいるので、なんだか家族のように感じてしまって」
「私もです」
美咲が笑みを深めてそういった。
そんな二人を微笑ましげに見つめながら、久慈がスクリーンを指差す。
「両津くんと棚倉くん、宇奈月さんと伊南村さん、館山くんと野沢さん、そして泉崎さんと遠野さんとマリエさん、それぞれ担当の場所でうまくやってくれています。みんな、ここでの勉強がちゃんと身についているみたいですよ」
それは良かった。
幸代は安堵の息を漏らした。
今日は、警視庁と対袴田素粒子中央指揮所の合同による都内の大規模探査が実施されているのだ。東京23区内の多数の場所で発見された地下トンネルについて、その全体像を掴むための調査である。指揮所からは、生徒たち四組に加えて陸奥と南郷の乗るレスキューロボそれぞれ、合計六組が参加していた。警視庁からは機動隊のロボット部隊トクボの新型キドロ二機と旧型が二機、そして各所轄の汎用パトロールロボット10機が参加しており、総勢20機による大規模な調査が繰り広げられている。
その調査方法はそんなに困難なものではない。今回の参加機全てに、新型のダイナレーダーが装備されたのである。つまり、場所によっては地下に潜らなくても空洞やトンネルの位置が分かる。この新技術が確立できたからこその大規模探査なのである。
ダイナレーダーは通常のレーダーと違い、電波や電磁波の代わりに素粒子を用いている。ニュートリノなどの素粒子は、どんなものでも通り抜ける特性があるため、この方法なら地中深くの場所を地上から調べることが可能となる。電磁波のパルスと似た運動を素粒子の共振を利用して作ることに成功した、ダイナギガ開発陣の傑作センサーだと言えた。もちろん、地下鉄や地下街などの施設や、インフラの配管が多く通っている場所ではなかなか正確な反応をキャッチするのは難しい。その場合は実際に、発見されたトンネルに潜っての探査が必要になる。今回の作戦は、その両方を使って行なわれていた。
「なんだか、すごいトンネルですね。こんなにたくさん、東京の地下にあったなんて」
そう幸代がつぶやいた。
美咲がスクリーンから目を離さずにそれに答えるように言う。
「今まで誰も知らずに、この上で生活していたと思うと、ちょっと怖いですよね」
久慈もうなづいている。
そして再びトントンと机上のキーボードを操作した。
「まだまだ不完全ですが、やっと全体像が見えてきました」
その声に、一同がスクリーンを注視する。
そこには23区を中心とした、東京の全体マップが表示されている。そしていくつもの真っ赤な線がオーバーレイされていた。
幸代が、首をひねりながらつぶやく。
「これって……円になってません?」
そこに描き出されたのは縦横に走る数本の直線と、23区よりひと回り大きな円のような図形だ。これらがもしも繋がっていると仮定したら、都心をぐるりと囲むように円形の地下トンネルが走っていることになる。
「なんなのでしょうか?」
久慈の声が、指揮所内に低く響いた。




