第370話 話を進めるで!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
あかん!こんなことしとったら全然話が進まへん!
両津はひとつの決心を決めた。
こうなったら自分が率先して話を進めるしかあらへん!
まずは愛理ちゃんの疑問を晴らすんや!
そうすれば話の障害物は無くなるはずや!
両津は、真剣な眼差しを幸代に向けた。
「福田さん!わらび餅のわらびって、植物ですよね?!」
「え、ええ、そうね」
両津の迫力に、少し戸惑いながら幸代が答えた。
だが同時に、ひかりが再び左手の人差し指をぴょこんと立てる。
「それってカンガルーの小さいやつだよ。ぴょんぴょんするやつ」
「ぴょんぴょん」
ひかりとマリエが、ぴょんぴょんする。
と同時に、両津が高速ツッコミを入れる。
「それはワラビーや!ボクが聞いてるのはワラビ!ね、福田さん!」
だが、幸代がそれに答えるより早く、奈央もなぜか左手の人差し指を立てた。
「ワラビーは、イギリスのクラークスが1966年に発売したロングセラーシューズの名前でもありますわ。軽登山用のアンクルブーツを街仕様にデザインしたもので、モカシンにヒモをつけたようなデザインと、天然ゴムでできたクレープソールが特徴となっていますわ」
両津が今度は奈央にツッコミを入れる。
「それはワラビーやろ?!ボクが言ってるのはわらび餅のワラビや!」
「そのワラビなら、日本全国に自生していて、あの「万葉集」でも取り上げられているほど古くから日本人に親しみがある植物ですわ」
幸代がニッコリとした笑顔を奈央に向けた。
「よく知ってるわね。代表的な山菜で、アク抜きしてから和え物やお浸しにすることが多いわよ」
よし!話が進み始めた!次の段階や!
「その山菜のワラビから、どうやって餅を作るんでっか?!」
すかさずひかりが早口でボケる。
「両津くんが下手なのは?」
「オチ!両津くんが言ってるのは餅!」
奈々のツッコミを聞いてすぐに、両津が話を進行する。そうしないと、またボケの嵐に突っ込んでしまいかねない。
「福田さん!」
「わらび餅は、わらび粉っていう粉を使って作るの。わらび粉は山菜として食べる地上の部分じゃなくて、根っこから取れるのよ」
よし!このまま話を進めて、さっさとわらび餅の話を終わらせるで!
「へぇ、ワラビの根っこから、粉が取れるんでっか?」
「ちょっと専門的になっちゃうけど、秋に収穫したわらびの根をたたいて砕くの。それに水を加えてでんぷんを洗い出す。白くなるまで水洗いと沈殿をくりかえしたら次第に固まってくるから、それを細かく砕いて乾燥すればわらび粉よ」
おおーっ!専門的すぎて、遠野さんがボケを入れて来ないやん!
こりゃ成功やで!
と両津が思ったのもつかの間、今度はボケとは真逆の方向に話がズレ始める。
「わらび餅は昔から日本に根づいてきた甘味ですわ」
奈央が、物知り博士としての知識を発揮し始めたのだ。
「わらび餅には岡太夫という別名があります。平安時代前期から中期の天皇である醍醐天皇がわらび餅が好きすぎて、官位の五位である「大夫」の位を与えたのです。そして、中国に古くから伝わる故事にならい「岡太夫」と名付けたのですわ。ちなみに岡はワラビのことです」
まずわらび餅の話を終わらせようとした両津の目論見は失敗し、わらび餅の話がより盛り上がってしまっていた。だがそれだけで事が収まらないのがロボット部である。
「たゆうって何ですかぁ?」
愛理ちゃん!それあかんて!
両津の焦りも知らずに、再び目を輝かせたひかりが左の人差し指をギュンと立てたのである。
「それはね愛理ちゃん、両津くんがさっぱり分からないことだよ」
「左右!」
「分かるわ!」
「両津くんはどっちなのか判別できないものだよ」
「雌雄!」
「オスやわ!」
「両津くんの人生に無いものだよ」
「自由!」
「開放してくれーっ!」
「両津くんの人生に無いものパート2!」
「武勇!」
「そんなもんぐらいあるわ!…たぶん」
「両津くんの人生に無いものパート3!」
「余裕!」
「まぁ、それはないかも」
今回のボケ大戦は両津の元気が無くなったところで終わりを告げた。
「まさにキュートアグレッションですわね」
奈央の言葉に、愛理がうんうんうなづいている。
だが、両津がげっそりとした表情でうなだれてしまった時、幸代が助け舟のような声を彼にかけた。
「それで、私に何を聞きたいの?」
「へ?」
ひかりが首をかしげる。
「いや遠野さん、何か聞きたいことがあるから私をここに連れてきたんでしょ?」
「あ、そうだった!両津くん、パトンタ〜ッチ!」
両津の表情がパッと明るくなった。
「実は今日は、ここの生徒たちの家族の奇跡的関係について、話し合っていたんですわ」
幸代がうなづく。
「ハーフムーンの関係者ってことね」
今度は生徒たちがうんうんとうなづいた。
両津が続ける。
「それで、ボク達が出した推論なんやけど……」
一瞬息を飲む生徒たち。
「洋服のシワを伸ばしたりするあっちっちな、」
「アイロン!」
今度は幸代の会話を邪魔しないように奈々が最高速で突っ込んだ。
両津が息を整えて、幸代に向き直る。
「ボク達、ダイナギガ技術のコントロールに関する素質を持っているんですよね? それがボク達の共通点なら、この奇跡にも、その素質が何か関係があるんやないかって思たんですわ」
驚きに目を丸くする幸代。
「それ、自分たちだけで考えたの?」
「はいっ!」
生徒たちの声は、いつも以上にキレイに揃っていた。




