第369話 敬礼の意味
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「わらび餅、おいし〜い!」
ひかりの声が学食に響く。それに全力でうなづく生徒たち全員。
ロボット部の面々は、学食チーフの幸代が振る舞ってくれたわらび餅に舌鼓を打っていた。いや、生徒たちだけではない。スペシャルゲストの美紀も、奈央の護衛の良子も一緒に食べている。
ひかりが満面の笑顔を幸代に向けた。
「おばちゃん!じゃなくてお姉ちゃん!これ、最高に美味でありまするっ!」
なぜかサッと敬礼するひかり。それに続いてマリエも敬礼した。
ちょっと苦笑してしまう幸代。
「どうして敬礼なの? 私、田中さんと違って警察官じゃないわよ」
「えーと、ありがてぇって意味でありまするっ!ね?奈々ちゃん!」
奈々が呆れたようにひかりを見る。
「まぁ間違ってはいないけど、敬礼にはちゃんと意味があるわよ。ねぇ?田中さん」
「確かにそうだけど、相手に敬意を払うってことだけ分かっていればいいんじゃないかしら」
奈々の実家は警察一家だ。おそらく敬礼の意味などを、両親から聞いているのだろう。
「そうですね。でもお父さんが言ってたのは確か、普通武器を扱うのは右手だから、右手で敬礼することで相手に対して敵意が無いことを示す、って意味だって」
奈々の言葉に奈央がうんうんとうなづいてから、説明を少し追加した。
「中世ヨーロッパの騎士が自分が仕える主君の前で、兜の前のプレート、顔面の鎧とでも言う部分を上げて、自分が何者なのかを見せる行為から来ているという説もありますわ。右手の敬礼が、その時の動きに似ているでしょう?」
ひかりがパッパッと、何度も敬礼する。
「ホントだ!鎧のフタを開けてるみたい!パカパカって!」
「ぱかぱか」
マリエが復唱した。
「でもね、ひかり」
奈々がひかりに視線を向ける。
「前にも言ったけど、その敬礼は制服とか軍服を着ていて帽子を被っている時のものなのよ。私服での敬礼は体を30度ぐらい傾ける、会釈よりもちょっとフォーマルなお辞儀なの。まぁ最敬礼は45度ぐらいまで傾けるけどね」
あ、そうだった!前に奈々ちゃんから聞いたことがあった!
そう気付いたひかりは直立不動の体勢になり、カクっと体を90度傾けてお辞儀をした。
「しっつれいいたしました!最敬礼でありまするっ!」
「ありまする」
マリエもお辞儀している。
よし!この話もいち段落やな!そろそろ例の話に移ろうやないか!
そう思い両津が口を開きかけた時、愛理が再び首をかしげた。
「ワラジのことはよく分かりました。でも、わらび餅のわらびってなんですかぁ?」
うわっ!またや!
両津がポカンと口を開けた。
もちろんひかりがすぐに左手の人差し指をピンと立てる。
「それはね、愛理ちゃん。今、愛理ちゃんがかしげたやつだよ」
「それは小首!愛理ちゃんが聞いてるのはワラビ!」
「両津くんと彼女の関係は」
「遊び!」
「彼女なんかおらへん!」
「両津くんがいつもしてる」
「背伸び!」
「背伸びしてもちっこいわ!」
「両津くんのギャグは」
「間延び!」
「してへんわ!」
「あなたが噛んだ」
「小指!」
「そんなん古すぎて誰が分かるねん?!」
「私がかきたいのは両津くんの」
「寝首!」
「かかんでええわ!」
「私が両津くんにしてほしいのは」
「おわび!」
「なんでじゃーっ!」
なぜか両津も、奈々と一緒に突っ込んでいた。
両津が息を切らしながらひかりの方を見ると、なぜか両津の胸のあたりを指差している。
これは分かるで!両津はパッと顔を上げて叫んだ。
「これはワラビやなくて乳首じゃーっ!」
沈黙に包まれる学食。
奈々がボソッと言った。
「セクハラ野郎」
「なんでじゃーっ!」
また話が進まないまま、両津の悲鳴だけが学食に響き渡った。




