第361話 何か聞こえる
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
巨大な地下空洞を、二機のロボットが慎重に移動していた。
夕梨花と後藤が乗る新型キドロである。その後ろには、二台の工事用重機ロボットが付き従っている。先行するキドロと違い、その歩みは工事用らしい無骨さに溢れていた。要するにガシガシと大きな足音を立て、慎重さからはほど遠い歩き方なのだ。
神谷が乗る重機ロボットの右腕には、ブレーカーと呼ばれる油圧ユニットと大きなチゼルが付いたアタッチメントが取り付けられている。油圧でチゼルに打撃を与え、大きな岩などを破壊するために使用される掘削機の一種だ。一方、難波が乗る重機ロボットには、リッパーと呼ばれる一本のカギつめ型のアタッチメントが取り付けられている。ブレーカー同様、こちらも大きな岩や固い埋設物などを削る際に使用される掘削機である。
キドロの案内役として以外にも、何かの障害物に行き当たった時のための装備であった。
難波がこっそりと、宇奈月建設専用回線で神谷に話しかける。
「新型キドロってすごいね。あれじゃあシルエットはほぼ人間なんじゃない?」
神谷も専用回線のスイッチを入れてそれに答えた。
『うん。あれがロボットの最先端なんだろうなぁ。それに比べて俺たちのは、さすがに不格好だよね』
「いやいや、こいつらも捨てたものじゃないよ。工事用重機で言えば最先端だと思うよ」
『まぁ、そうなんだけどね』
二人は大きくため息をつく。
その時、一般回線からキドロパイロットの声が聞こえた。夕梨花である。
『神谷さん、難波さんはここで止まってください』
神谷があわてたように言う。
『何かありましたか?』
『わずかですが、おかしな音が聞こえるんです』
『俺たちがその正体を調べてから、異常なかったらまたお二人さんについて来てもらうって寸法だぜぇ』
神谷と難波が重機ロボットの足を止めた。
難波が一般回線に告げる。
『了解です。ボクたちはここでお待ちしてます』
夕梨花と後藤のキドロがゆっくりと足を進める。
夕梨花は、最新情報としてダイナレーダーのことは知っていた。だが、それをキドロに装備できるのはまだ先のことだろう。今キドロに装備されているのはこれまで同様、電波によるレーダーやセンサーだ。つまり地面の下、いやトンネルのまわり全ての向こう側に何かがあっても、事前に発見することは難しい。その上、都営地下鉄新宿線下のトンネルのように、この洞窟がゆっくりとカーブしているような形状だった場合も、あまり遠くのものを捉えることができない。頭部と肩に装備されているライトもそうである。光も電波同様に直進性が強く、障害物の向こう側を見ることは不可能だ。
だが、音は違っている。
音波は、光や電波とは違い、障害物を回り込んで伝わってくる。つまり音だけは聞こえてくるのである。
「ゴッド、注意して進みましょう」
『了解だぜぇ』
夕梨花の耳には、少し前から何かの音が聞こえていた。
それはキドロで進むにつれ、少しずつ大きくなっていく。
「これって、何の音かしら?」
夕梨花のつぶやきに後藤が答える。
『分からねぇけどよぉ、もしかしてまだ穴を掘り進めてんじゃねぇのかぁ?』
夕梨花の頭には、事前に聞いた宇奈月建設の二人の話が浮かんでいた。
『こんなに大きなトンネルを、地上に気づかれずに掘るなんて不可能ですよ』
『もちろん、シールド工法を使わずに、ボクたちが乗ってるような重機ロボットでコツコツ掘れば不可能ではないですけど』
『でもそれじゃあ何十年、いや何百年かかるか分かりませんよ』
夕梨花は口元をぐっと引き締めた。
相手は人間ではない。
何十年かけてでも、たとえ何百年かかっても、その目的を果たすためならやり遂げる可能性がある。彼らの寿命は、人間と比べるとほぼ無限とも言えるのだから。
夕梨花機が右腕を伸ばし、後続の後藤機を制した。
どうやらその音は、二機がさしかかった三叉路の向こうから聞こえてくるようだ。
夕梨花機は左手の人差し指を、キドロの口当たりに立てて当てた。
静かに、という意味を込めて。
夕梨花機がゆっくりと身を乗り出していく。
相手に存在をさとられないよう、細心の注意を払い音を立てずに動く。
そこはちょっとした広場のようになっていた。
そしてそこには、二機のロボットがいる。
その二機は、夕梨花たちに気づかぬまま何かの作業を続けていた。
「あれって、何をしているの?」
夕梨花のそんなつぶやきが聞こえたのか、その二機の頭部がぐるりと回り、こちらに顔を向けた。




