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第36話 ゴールデン・ハインド再び

「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

 部屋全体にブーンと言う、低いノイズが響いている。ここは都営第6ロボット教習所の医務室だ。とても広い室内に、用途の分からない様々な医療機器が並んでいる。その部屋の一番奥に設置されている、まるでCTスキャンかMRIのように見えるマシンに、一人の少女が寝かされていた。薄紫色の髪が美しい。

「マリエ、いつものようにリラックスしてね」

「はい」

 その少女はか細い声で返事をした。

 両津が試験勉強の一夜漬けに励み、正雄がプラモデルの部品をニッパーで切り、奈央が特撮トークで興奮、そして愛理の笑顔がはじけていたぼ同時刻である。。

 久慈は思っていた。

 マリエ、この教習所に来て、少し明るくなったわ。あの生徒たちと仲良くなったからかしらね。

 久慈の顔に優しい微笑みが浮かぶ。

 久慈がマリエと初めて会ったのは今から約三年前、都営ロボット教習所アムステルダム校を訪れた時だった。ここの所長、雄物川からの依頼での訪問だった。

 マリエはまだ14歳、とても幼い顔立ちでいつも下を向いていた。

 少女は心を閉ざしていたのである。

 久慈は、マシン横に設置されているタッチパネルを叩いていく。低いノイズの中に、ピッピッと高い音が混じる。

「じゃあ始めるわよ。目を閉じて……眠ってしまっても大丈夫よ」

 マリエが寝かされている細長いベッドがゆっくりとスライドして、大きな筒状の部分に入っていく。筒の内側がキラキラと輝いていて美しい。

 この検査マシンはMRIのように大きな音は出さない。なのでこの検査を受ける生徒のほとんどが、検査中にぐっすりと眠り込んでしまうのだ。

 マリエもゆっくりと目を閉じた。だが内壁のキラキラは、まぶたを通しても感じることができる。その不思議なまたたきのリズムで、まるで催眠術のように眠くなってくるのだ。マリエはそんなことを思いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。


「お母さん、宇宙で一番のお医者さんなんだもん、すぐに治してくれるよね?」

「もちろんよ、お母さんに任せなさい!」

 そんな会話が、マリエの頭をよぎる。

「お母さん、そう言ったじゃない……」

 欧州宇宙機関の調査宇宙船ゴールデン・ハインド号は、一路地球へ向かっていた。ダークマターとダークエネルギーに満ちた宇宙空間を必死で泳ぐかのように、最高速度で。

 医務室にはマリエの他に、アニカ・ヤンセン船長とナースのエリーネ・ペーテルスがいる。三人とも陰圧感染隔離室の大きなガラス窓の中を見ていた。そこには二台のベッドが並んでおり、それぞれ患者が眠っている。

 マリエの父と母である。

「ドクターの様子は?」

 船長がナースに振り向いて聞いた。

「そんなにひどい状態ではありません。でも、起きていると何をしでかすか分からないとのことで、自ら薬でお眠りになりました」

 船長が深いため息をつく。

「フランデレン博士の方はどうですか?」

 ナースの表情が深く沈んだ。

「博士なんですが、もう意識が戻らなくなりまして……」

「あれは睡眠薬で眠っているわけではないのですね?」

 ナースは残念そうにうなづいた。

「はい」

 4歳のマリエには、会話の内容がほとんど理解できなかった。でも、あまりいい状態で無いことは、二人の表情からよく分かった。

 ナースがしゃがんで、マリエの目線までやってくる。

「マリエさん、私達医療チーム全員でお二人を全力で治療しているので、あまり心配しないでね」

 ウソだ。マリエは思っていた。以前誰かが、宇宙病になったらもう治らない。そんなことを言っていた。テレビだったか?マリエはその話を誰に聞いたのかは思い出せなかった。

「マリエさん」

 美しい金髪を揺らして、船長がマリエを見る。

「すでに治療の手配はできています。地球に到着すれば、すぐに日本の医療チームが最先端の治療を行ってくれることになっています。それに期待しましょう」

 エメラルドグリーンの瞳が優しく揺れた。

「後は……時間との勝負です」

 船長はキリッと顔を引き締める。ゴールデン・ハインドが地球に到着するのは、まだ半年以上先なのだ。

 そして……マリエも感染した。

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