第356話 スキャナーの圏外?!
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
真っ赤なボディにRescueの白文字。二機のレスキューロボが、真っ暗な地下トンネルを北へ進んでいた。パイロットは陸奥と南郷である。
陸奥機のコクピットに、南郷からの無線が入った。
『陸奥さん、壁をよう見てみ』
陸奥は頭部のメインライトを南郷機のいる方向、左側へ向ける。トンネルの壁面に、まるでステージのスポットライトのように明るく丸い輪が描かれた。
「やはり、人工的に作られたトンネルのようですね」
『そうでんな。ほれ、この溝みたいなの。どう見ても何かの工具で掘った痕跡でっせ』
指揮所のスクリーンでその様子を見ていた悠真と陸斗が顔を見合わせる。
悠真が不思議そうに首をかしげた。
「トンネルの直径が大きいよなぁ。やっぱりシールド工法で掘ったと考えるのがいいんだろうけど」
陸斗も同様に首をかしげる。
「うん、ここには十年以上前から都営第6ロボット教習所があったんだし、振動や音を誰も感じないなんてありえないよ」
シールド工法のやり方は単純だ。円柱型のシールドマシンの先端、円の部分に非常に硬い金属の刃「カッタービット」が数百個取り付けられている。それを回転させながらシールドマシン自体をジャッキで押すことにより、前面の土を掘っていく仕組みになっている。なお、掘った部分が崩れてこないよう、リング状のブロック壁を組み立て設置しながら進むことになっている。道路や鉄道のトンネル掘削時に主に用いられる工事方法である。
「まさかこの規模を、ドリルジャンボとかブレーカーとかの重機でコツコツ掘ったのかな?」
悠真の言葉に陸斗が首を横に降った。
「そんなことしたら何十年かかるか分かんないよ」
「そうだよなぁ」
黙り込んでしまう二人。
この謎のトンネルがどんな方法で掘られたのか、建築の専門家である二人ですら想像できないのだ。
その時、忙しく動いていた白衣の所員の一人が沈痛な面持ちで報告した。
「レスキュー01、02、共に電波スキャナーの圏外に出ます」
ぎょっとする悠真と陸斗。
スキャナーの圏外ということは、二機のレスキューロボは、その現在位置さえ不明になってしまう。もちろん、無線による連絡も不可能になる。だがトンネルがゆるくカーブを描いているのなら、やむを得ないことではある。なにしろ電波は地中を進めない。障害物の無い空洞のトンネル内でしか使用できないのは当然だ。
悠真と陸斗が、そんな思いで不安げに顔を見合わせていた時、指揮所内への入室を求める音が数度、室内に響いた。
「入室を許可する」
雄物川の指示に合わせ、所員の一人が入口ドアの電磁ロックを解除する。シュッと静かな音をわずかに響かせて開く扉。入ってきたのは教習所整備センターのロボット整備士、蒲田健太、勝浦亮平、中尾久美子の三人だ。
久慈が三人に向き直る。
「いきなりの実戦で悪いんだけど、例の新技術、使ってくれないかしら?」
健太が満面の笑顔を見せた。
「もちろんですよ、久慈教官!こんな機会を待ってました!」
悠真と陸斗が目を丸くする。
「カマケンさんじゃないですか?!」
悠真の叫びに、健太はニッコリと笑顔になった。
「ああ、草野さん!それに朝比さんも!お久しぶりです!」
雄物川が若者たちに視線を向ける。
「君たち、知り合いかね?」
悠真が明るく返事をした。
「いつも、地質調査用のロボットを整備してもらってるんですよ」
陸斗は三整備士に顔を向けると首をかしげた。
「えっとそれで、新技術って?」
亮平がぐっと胸を張る。
「僕たちが開発した新しいレーダーシステムだよ」
久美子も、無い胸を思いっきり張っている。
「名付けてダイナレーダー、ちょっとダサい名前だけどねぇ」
「そんなことないよ!カッチョいいでしょ!」
肩をすくめた久美子に健太が抗議した。亮平もうんうんと、健太にうなづいている。
悠真が不思議そうな顔をした。
「ダイナレーダーって、カッコいいような悪いような……」
「カッコいいって!僕が付けた名前だからね」
亮平がちょっとふくれた顔を見せる。どうやらその名付け親は亮平のようだ。
陸斗が肩をすくめながら三整備士に向き直った。
「カッコ良くても悪くてもいいけど、それってどんな技術なんですか?」
健太がニヤリと笑う。
「お二人とも、地中レーダーはご存知ですよね?」
悠真と陸斗がうなづく。
地中レーダーは建築現場でもよく見られる機材である。通常のレーダーは、電波を発射してその反射波を捉えることで、相手の距離や方位を測定するセンサーシステムのことだ。飛行場の管制塔や、敵機を捉えるために戦闘艦艇などで使用されているのを、映画などでよく見るに違いない。だが地中レーダーは、電波の代わりに電磁波(パルス波)を地表から地中に向けて放射し、その反射波を計測することで地中の構造を把握する探査手法なのである。つまり、地中レーダーを使えば土や岩を通してのスキャンが可能となる。
その説明を聞いた悠真が再び首をかしげた。
「でも、地中レーダーって、深くても4メートルか5メートルしか届かないですよね?」
その通りだ。
土質や使用周波数によっても異なるが、一般的には道路の陥没等の調査に使われるレーダーは深度1.5~2メートル程度が限界だ。コンクリート探査などでは1,000MHzくらいの高周波の機器を使用するが、計測可能なのは1メートル程度に下がってしまう。埋設物や空洞、緩みなどの探査の場合は300MHz程度の周波数タイプのものが使用されるが、探査深度限界は4〜5メートル程度と言われている。しかも地下水の水位より下のものは探査ができないという弱点を持つ。はたしてそれをどう利用しようというのか?
「まぁ見ててくださいよ!」
健太がそううそぶいた。
コンソールに向かった三整備士が、何かの作業を進めていく。いくつものボタンを操作、タップし、様々な画面を呼び出していく。そんな作業を進めながら、亮平が説明を続けた。
「僕たちは電波や電磁波の代わりになるものとして、素粒子に目を向けたんです。ご存知の通り、ニュートリノなどの素粒子は何でも通り抜けてしまいますからね」
久美子が続ける。
「ちょうど私たち、素粒子の共振や共鳴を調べていたところだったので」
そして健太がしめくくった。
「つまり、電磁波のパルスと似た運動を素粒子の共振を利用して作ることに成功したと、で、こうなります!」
最後に健太がトンとエンターキーを押すと、スクリーンに二つの光点が表示された。
健太が誇らしげに言う。
「これがレスキュー01と02の現在位置です」




