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第352話 ファコムって何?

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 広末広報官はテーブルの上に、何枚かの書類を広げた。

「ファコムと言う装置をご存知ですか? FACMと書きます」

 鏑木が首をかしげた。

「いえ、聞いたことありませんね。村田くんは?」

 少し考えるように首を巡らしてから村田が言う。

「もしかしてそれって、ロボット関係の?」

「さすが、ロボット関連の情報に強いとのウワサがある村田さんですね」

 広末がフフッと笑った。

 書類をじっと見つめながら、村田が首をひねる。

「実は、あまりよく分かっているわけではありませんけど、ちょっと小耳に挟んだんですよ」

 鏑木が村田に顔を向けた。

「小耳に?」

「ええ。国内のロボット部品メーカーが……えーと、花菱工業でしたっけ? 大変なものを開発してるとか」

 広末が、ほぉっと感心したような目を村田に向ける。

「そこまでご存知なんですね。でも、状況はもう少し進んでいて、開発しているのではなく開発したというところまで来ています」

「あら、もうできちゃってるんですか。そりゃあ政府も大変だ」

 おどけたような口調になる村田。

 そんな村田に鏑木が問う。

「いったい何が大変なんだ? その前に、ファコムって何なんだよ?」

「それは私からご説明しましょう」

 広末が鏑木に視線を向けた。

「FACMは、フルAIコントロールモジュールのことです。花菱としては、将来的に全ての機械にそれを組み込むことで、AIによるフル自動コントロール社会の実現を目指しているようです。その第一段階として、彼らがまず最初に開発したのが自家用ロボットのフル自動運転に用いるためのユニットなんです」

 鏑木がいぶかしげに首をかしげる。

「自動運転の何が大変なんですか?」

 広末は、少し迷ったような表情を見せてから内調の佐々木を見た。

 佐々木がニヤリと笑い、口を開く。

「それについては私から。実は私ども内調と警察で、内々に調査していることがありまして。国内の某企業が、ファコムをテロ支援国家の疑いがある某国へ輸出しようとしているんです」

「はぁ」

 鏑木が、理解できないと言うような声を出した。

 村田が鏑木に視線を向ける。

「フル自動運転てのは、何も自家用に限ったものではないんですよ、カブさん」

「自家用じゃない?」

「ええ。その某国ってヤツは、たぶん軍用ロボットに転用しようとしてるんだと、俺は考えています」

「軍用で自動運転か? そんなの兵士には必要無いんじゃないか?」

「そうですね。兵士にはね」

「どういうことだ?」

 村田が肩をすくめた。

「操縦者の必要がない、無人の全自動ロボット兵のできあがりってことですよ。ほら、大変な事態でしょ?」

 鏑木の目が驚きに丸くなる。

「確かにそれは、戦争の様相を変えてしまうかもしれないが……でも、技術の進歩は止められないんじゃないか?」

 鏑木の言葉に、今度は佐々木が肩をすくめた。

「おっしゃる通りです。ですが、大量生産された無人ロボット兵が、袴田素粒子に感染してしまったらどうでしょう?」

 鏑木は、より一層の驚きに目を見開いた。

「その可能性があると?」

「私どもはそう考えています」

 だが、地球全体を対袴田素粒子防御シールドで包んでいる現在、そんなに簡単に感染するものなのだろうか?

「村田さんが、総理記者会見で指摘したこと、ご存知ですよね?」

 言われるまでもない。そのせいで、鏑木はワシントンの同業者に色々と問い詰められたのだ。

「もちろんです。インドの宇宙ステーション・センドラルの落下した奥多摩に、国際テロ組織黒き殉教者のアジトがあった。そしてセンドラルがそこに落下した結果、彼らが保有していた戦闘用ロボットが暴走した」

「その通りです」

 今回の話にも黒き殉教者が関係している?

 だから内調の、しかも国際テロ情報集約室のこの男がここへ来ているのだろうか?

「我々が掴んでいる情報では、彼らは袴田素粒子の武器化に成功したようなんです」

「武器化ですって?!」

「ええ。敵ロボットに素粒子を感染させ、暴走させる」

 最悪である。確かに、そんなものを無人ロボット兵の集団に使われたら大変なことになるだろう。一台の暴走ロボットにさえ、機動隊のキドロ数台で対処にあたっているのが現状だ。今の体勢では、ロボット兵の集団暴走に対応できるとは思えない。

 宇宙からの侵略と同時に、そんな事態が起こっているなんて。

 鏑木の額に、じわりと汗が浮いていた。

「状況は分かりました。それで、僕たちに何をしろと?」

 その言葉に、広末が背筋を伸ばして言った。

「それをこれからご説明します」


 重厚な木目調の室内装飾。その真ん中には、高級そうなマホガニーの机が置かれている。背景には数え切れないほど多くの本が並べられた書棚が広がっていた。その半数以上は、背表紙に日本語ではない文字が見える。

 机上には真っ白なカップ&ソーサーが乗っている。そこからは、香ばしいコーヒーの香りが立ち昇っていた。

「宇奈月さんはフォションのモーニングティーが好きだと言っていたが、私はやはりコーヒーの方が性に合っている」

 そう言って男は、カップを手に取るとその香りを鼻孔に吸い込む。

「いい香りだ。コーヒーは豆を粉砕するのがいい。何の躊躇も同情もなく粉々に破壊する。その感覚が私には合っているよ」

 彼の名は霧山宗平。奈央の父が経営する宇奈月グループに匹敵する巨大企業体、霧山グループの総帥だ。

「私も、紅茶よりコーヒー派です」

 そう答えたのは華奢な若い男。吸い込まれそうに深みのある黒のスーツを着ている。朱色に近いネクタイが無ければ、まるで喪服のようだ。

 霧山の第一秘書、佐藤・テムーレン・真司である。

「ファコムの件、どうなっている?」

「はい。我々の予定通り、順調に進んでいます」

 霧山はうむとうなづいた。

「いよいよだな」

「はい、戦争です」

 二人は、ニヤリとした笑顔を浮かべていた。

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