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第350話 冥王星軌道の影

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 冥王星軌道はあまりにも遠い。

 地球からの距離は約50億km。地球と太陽の距離の30倍以上も遠い。仮に時速1000kmの飛行機で向かったとしても、500年以上かかる計算となる。あまりの距離に、その姿はハッブル宇宙望遠鏡をもってしてもぼんやりとしか見えない。

 そんな冥王星に、人類は探査機を送ったことがある。NASAの惑星探査機「ニュー・ホライズンズ」だ。ニュー・ホライズンズは遠くを目指すために、それまでの宇宙船より遥かに高速飛行が可能となっていた。2006年1月に打ち上げられた直後の速度は秒速16km。時速に直すとなんと5万kmを超える。地球から約38万km離れた月の軌道を、史上最速のわずか9時間後に突破した記録を持っている。その後ニュー・ホライズンズは、2007年に木星の軌道を通過し、その後は1日160万km近いスピードで飛び続けた。だが、そんなに高速の宇宙船であっても、冥王星軌道に達したのは、2015年の7月14日だ。実に9年半の歳月を要したのである。

 そこまで遠い冥王星軌道だ。そこに存在する影の正体を探ることは、現代科学をもってしても困難を極めていた。

 そんな遠距離だと言うのに、何か新事実が判明したと言うのだろうか?

 幸代は驚きを隠しきれなかった。

「何か新しいことが分かったんですか?!」

 幸代の言葉に、南郷がうなづく。

「調査船ハーフムーンは、袴田素粒子に感染して行方不明になったんや。そやからこの指揮所、ほんでダイナギガプロジェクトも無関係やないっちゅーことで、最新情報が共有されとる」

 息を飲む幸代に、陸奥が視線を向けた。

「君も知ってるだろ? 伊南村くんのお母さんがISSにいること」

「はい。伊南村博士ですね」

「ああ。ISSの彼女と連絡を取りながら、ここでもハーフムーンの可能性を分析してるんだよ」

 そして南郷が、ひと息ついてから重々しく言った。

「その影やけど、実はこの三年の間にどんどん地球に近づいて来とるんや」

 驚きに目を見開く幸代。

「それってどういう?!」

 肩をすくめる南郷。

「分からへん。第一、影がハーフムーンかどうかもまだ分かってへんからなぁ」

 指揮所内が沈黙に包まれた。

 その静けさに耐えられないように、幸代が混乱したように聞く。

「あの、どんどんって、今どこまで近づいてきてるんですか?」

 それには陸奥が答えた。

「地球から約10億キロ、土星軌道と木星軌道の間あたりだ」

 幸代が再び目を丸くする。

「それって、早くないですか?!」

「ああ。この速度だと、あと一年ちょっとで地球圏に到達するだろう」

 陸奥の声が暗く、重々しくそう告げた。

 だが、南郷が明るくそれを否定する。

「でもや、その影がホンマに地球を目指しとるんかどうかも分からへん。太陽系をシュシュっと通り過ぎていくだけかもしれへんで。しかもハーフムーンやなくて、ただの小惑星の可能性だってあるんや」

「まぁ、そうですけど」

 南郷のおどけたような声にも、幸代の不安は晴れなかった。

 幸代が、ハッとしたように顔を上げる。

「あの、探査機は飛ばさないのでしょうか?」

 彼女の質問はもっともだ。すでに冥王星軌道ではなく、より近づいているのならその手も可能なはずだ。

 幸代の質問に、雄物川がうなづいた。

「木星軌道への探査機の打ち上げには時間も予算もかかる。探査機自体の設計も、そんなに簡単ではない。だが実は今、その可能性を探っているところだ」

 最先端のスリップストリーム航法が使えれば、片道二ヶ月あれば木星軌道に到達できるだろう。そこからの電波受信は八分程度で可能だ。だが、巨大な宇宙船ではなく探査機程度の大きさの船にスリップストリーム航法が可能なのかどうかを幸代は知らなかった。

 確かに難題なのだろう。

 雄物川は、一同を見渡して重々しい声で言う。

「何にしろ、何も分かっていない段階で生徒たちに知らせるのは危険だと思う。混乱する者も出るかもしれない。彼らに伝えるのは、ハーフムーンかどうかがハッキリしてからにしたい」

 その場にいる全員が静かにうなづいた。

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