第35話 大好きな特撮
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「今年、角谷プロダクションの株はすごかったんですよ」
奈央の株トークに、いつの間にか特撮話が混ざりはじめた。
「二回もストップ高になったのです。あ、ストップ高と言うのは、急激に株の値段が上がりすぎて売買が制限されることです」
奈央のトークに解説が入っている。さっきまでより愛理のことを考えてくれるようになったのかもしれない。
「値幅制限と言うのがあって、えーと、株価の異常な暴騰・暴落を防ぐために、1日に変動できる上下の幅が制限されているのです。この値幅制限の上限まで株価が上がることをストップ高、下限まで下がることをストップ安と言うんです」
う〜ん、またよく分らなくなってきちゃった……。
愛理が小首をかしげる。
「宇奈月先輩って、どんな特撮が好きなんですか?」
愛理が無理矢理、話を自分のフィールドへ持ち込んだ。
「そうですねぇ、角谷プロのデラックスマンシリーズは全部好きですし、西映の仮面ドライバーシリーズとか、スーパー戦団シリーズも大好きです。映画なら西宝のゾジラシリーズも見ますねぇ」
うんうんと、愛理は目を輝かせながらうなづいている。
「なので西宝の株も1株だけ持っています。西映の株は1株でも結構なお値段がするので、まだ買えてないのですけど」
「すごいですね、本当に好きな会社の応援のために株やってるんだぁ」
「まさに、趣味と実益を兼ねるってことです」
奈央がニヤリと笑う。
「昔の特撮は見ないんですか?」
そんな愛理の質問に、奈央はぶんぶんと首を横に振った。
「そんなことはありません。昔の特撮にも素敵な作品はたくさんありますから。例えば……モノクロだと、日光仮面とかレインボー仮面なんかも面白いです。あと天使くんも」
愛理が聞いたことのないタイトルが並んだ。
「でもやっぱり、ロボットが出てくるものが好きですね」
「私もですぅ!」
愛理はスーパー戦団シリーズに出てくるロボットが大好きだった。合体する玩具をいくつも持っている。
「ジャイアントロボットは知っていますか?」
「あ、知ってます!配信で見たことありますぅ!」
やっと愛理が知っているタイトルが登場した。
「ウルトラロボットブルーバロンもいいですね。防衛隊のお姉さんの制服がミニスカートなのも最高です!」
奈央は普段あまり見せない、ちょっと興奮気味な面持ちでそう言った。
「じゃあこの教習所に来たのも、ロボットが大好きだからですか?」
「それはですね、ロボット免許を持っていると就職に有利だからです」
意外な答えが帰ってくる。
「まさに、趣味と実益を兼ねるってことです」
奈央がまたニヤリと笑った。
「愛理さんはどうしてロボット免許を取ろうと思ったんですか?」
「え〜とですね……」
何かを逡巡するように、愛理の瞳が揺れた。
「私、ロボット免許を取りにここに来たんじゃないんです」
奈央の顔にハテナマークが浮かぶ。
「でもここはロボット免許の教習所ですよ?」
「……泉崎先輩と一緒の時間を過ごしたくて、ここに来たんです」
ああなるほど、と奈央の顔からハテナマークが消えた。
「愛理さん、いつも泉崎さんのこと、褒めちぎっていますものね」
「はい」
「どうしてそんなに、泉崎さんのことが好きなのですか?」
愛理はちょっと迷ったような表情を見せたが、すぐに話し始めた。
「中学一年の頃なんですけど……私、クラスで浮いていたと言うか、みんなから無視されていたと言うか……」
さっきまでの明るい笑顔が消え、愛理の表情は暗くなった。
「伊南村さん、あなたがいるとクラスの雰囲気が暗くなるのよ。とっとと早退でもしていなくなってよ」
「アニメが大好きって、オタクってことでしょ?根暗ねぇ」
「え?伊南村さんてオタだったんだぁ、キモっ」
愛理を責めているのは同じクラスの女子5人。愛理をぐるりと取り囲んでいる。
「わ、私……何か悪いことした?」
愛理はか細くつぶやくだけで精一杯だった。
「え、何?聞こえない」
「クラスを暗くしてごめんなさいって言ったのよ」
「謝る時はちゃんと土下座しないとねぇ」
「土下座!土下座!土下座!」
5人の声が愛理の周りをぐるぐると回っていた。
「あんたたち、そこで何やってるのよ!」
「その時助けてくれたのが、泉崎先輩だったんです」
愛理はふぅ、と息をついて少し笑顔になる。
「それで大好きになったと」
「はい」
愛理ははちきれんばかりの笑顔になる。
「泉崎先輩天才なので、高校は違うところになってしまって、私たち離れ離れになってしまったんです。そんな時に先輩がロボット教習所に入るって聞いて、追いかけてここまで来ちゃいました」
奈央が優しい瞳で愛理を見ている。
「そんなに泉崎さんのことが好きなんですね」
「はい、大好きです!」
ふとした疑問が浮かんだ奈央が聞く。
「それって、恋愛感情ってことですか?」
愛理が驚いたように奈央を見つめる。
「お話を聞いていると、憧れだけとも思えないんですけど……」
自分でも意識していなかったことを言われて、愛理はとまどっていた。
「えーと……自分でもよく分からないんですけど……」
愛理は少し目を伏せた。
「もしかしたらそうかも……私、今までに男の子を好きになったこと、無いんです」
奈央がふっと笑う。
「応援しますわ」
「ありがとうございます!」
「あと、オタクはキモくないですよ。だって、私もオタクですから」
愛理の心に、温かいものが広がっていた。




