第347話 謎の空洞
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
左肩からロープが出ていると言っても、キドロの場合「肩がらみ懸垂下降」というわけではない。肩がらみ懸垂下降は、ロッククライミングの下降技術のひとつで、懸垂ロープを肩がらみにして降下するものだ。股下から胸前、左肩から背中に回して右腰あたりにたらしたロープを右手で保持する。左手は股下から上に向かうロープをしっかりと握り、そのまま少しずつロープを緩ませながら下降する方法だ。だがキドロでは、左肩の電動モーターウインチからロープを伸ばし、ボディが壁に当たらないように両足を伸ばして支える。そのままモーターを回転させることで上昇も下降も可能となる。なお、この姿勢がキドロにとって有利なのは、両手がフリーになるので機関砲や特殊警棒が使えることにある。
夕梨花はゆっくりとモーターウインチを回し、トントンとリズミカルに壁を蹴って降下していく。
例のスーツ男なら、こんな状況でも体術だけで降下するのではないだろうか?
夕梨花は降下しながらそんなことを考えていた。
国際テロ組織黒き殉教者の幹部アヴァターラ。
夕梨花はこれまでに何度かその男と対決してきたが、まだその決着はついていない。それが、ノドに刺さった魚の骨のように、夕梨花の心にひっかかったままなのである。
地面まであと数メートルの距離まで降下すると、夕梨花はモーターウインチのロックをはずして飛び降りる。ズザッと軽い音を立て、夕梨花機はそこに降り立った。
先に到着していた後藤機にならい、両肩と頭のライトをオンにする。そして夕梨花はその光景に目を丸くした。明るい光に照らし出されたそこは、予想以上に大きな空間だったのだ。
「なんだここは?!」
夕梨花の驚きの声に、後藤も同意する。
『こんなでけぇ空洞、見たことねぇぜ』
夕梨花が指揮車に報告する。
「映像、見えていますか?」
即座に美紀からの返事が聞こえる。
『はい、こちらで01と04のメインカメラの映像をモニターしています』
夕梨花機がゆっくりと体を回し、空洞内の様子をカメラに捉えていく。
「ここ、ただの空洞では無いようです。もしかすると、巨大なトンネルなのかもしれません」
『素粒子のやつら、東京の下に地下鉄でも作ってるんじゃねぇのかぁ?』
後藤ののんきな声にも少しの驚きが混じっている。
指揮車から、美紀の冷静な声が二人に届いた。
『都営新宿線の下を垂直に横切っているみたいですね。どうやら南北に続いているようです』
後藤がキョロキョロと、ロボットの頭部を動かす。
『さっきのやつ、どっちへ行ったんだぁ?』
「指揮車、追跡を続ける許可を」
夕梨花の声に、美紀から不安げな声が聞こえた。
『分かりました。でも、バラバラになると危険です。二機で行動を共にしてください』
スクリーンのワイプの中で、後藤がニヤリと笑う。
『じゃあジャンケンしようぜぇ。俺が勝ったら北へ行く。お嬢ちゃんが勝てば南だぜぇ』
そんな決め方でいいのか?
そう思いつつ、指揮車から反対の声も無いので夕梨花は後藤に言う。
「分かった」
そして二機は南へと向かうことになった。




