第346話 暴走エーアイロボット
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
「ゴッド、そこで止まって」
夕梨花は後藤が乗るキドロに司令を伝えた。
「ここからはゆっくり迫るわ。絶対に取り逃がしたくないから」
『了解だぁ』
後藤からの返事が、相変わらずのんきに夕梨花機のコクピットに響いた。
地球をすっぽりと覆う対袴田素粒子防御シールドのおかげで、ここ最近は暴走ロボット事案が激減している。そんな中で起こった今回の暴走だ。可能なら捕縛して、感染の状態を調べたい。
「ゆっくり行くわよ」
『へいへ〜い』
前面スクリーンには、通報のあった暴走ロボットの姿がしっかりと見えている。
その画面には暴走ロボットから出ている発信電波の位置が、赤いマークでオーバーレイされていた。視認できているのだから逃すことはないだろう。だが万が一を考え、赤いマークからも目を離さない。
『あと10メートルだ。あいつ、ぜんぜんこっちに気づかないなぁ』
後藤が不思議そうな声を出した。
「工事用ロボットだから、外敵へのセンサーなんて付いてないのよ」
そんなことは、出発前のブリーフィングで見たロボットの図面で分かっている。
まぁ後藤はいつものように、自販機で買ったコーヒーを楽しそうに味わっていたので気付いていないのだろう。
本当に仕方のない人。
だが、いざと言う時の彼の信頼度の高さは驚くべきものだ。現場の状況を瞬時に把握し、最善の策を取る。世界中の紛争地帯で命のやり取りをしてきた経験が、彼をそうさせるのだろう。夕梨花にとって後藤は、頼もしい相棒なのである。
暴走ロボットは、四本の腕に取り付けられている様々な工事用アタッチメントを、まるで試しているかのように動かしている。
『あいつ、何してるんだぁ?』
後藤が、スクリーンを見つめてそう言った。
「何か作業をするつもりか?」
夕梨花も首をかしげる。
その時である。暴走ロボットの姿が、かき消すように消えたのだ。
『おい!消えたぞ!そっちからは見えてるのか?!』
「いや、こちらからも見えなくなった!」
発信電波の位置を示す赤いマークは、姿が消えた場所で、今もしっかりと点滅している。あの場所にいるはずだ。では、どうして姿が見えなくなったのか?
「ゴッド!行くわよ!」
夕梨花はそう叫ぶと、ロボットが消えた場所にダッシュで駆け寄る。後藤機も、同様にガシガシと足音を響かせてやって来た。
「これだわ」
夕梨花機が指差す先には、ぽっかりと真っ暗な穴が口を開いていた。線路脇の結構広い場所である。
『あいつ、ここから下に落ちたのかぁ?』
赤いマーカーをよく見ると、たしかにその海抜が低くなっている。
夕梨花が警察無線に叫ぶ。
「田中主任!都営新宿線の下に、ライフラインなどのトンネルは通っていますか?!」
もしあのロボットの目的が、送電網などの切断にあったとしたら、それは都市機能の破壊を招く可能性がある。
二、三秒の間があって、美紀からの返事が届いた。
『いいえ。今、東京都のデータベースで調べましたが、この周辺にはトンネルも、地下施設もありません。上下水道なら通っていますが、それはもっと上の層です』
では、これはいったい何なのだろう?
夕梨花は、左手指先のライトをオンにする。その手を下に突き出し、足元で口を開いている大穴に向けた。
『結構深いみたいだなぁ、まさに奈落の底って感じだぜぇ』
だが、夕梨花は何かに気付いたのか、それを否定する。
「いえ、あれを見て。これってただの縦穴じゃないみたい」
ライトの丸い光が移動すると、その穴の先に、再び空間があるように見えた。
「空洞?」
夕梨花の言葉に、後藤がニヤリと笑う。
『こりゃ、行ってみるしかねぇぜ、お嬢ちゃんよぉ』
一瞬の逡巡の後、夕梨花が無線に問う。
「縦穴の先に空洞らしきものを発見。調査に進むことを進言します!」
トクボ部指揮車の中では、美紀が隣の白谷部長の顔を見上げていた。
「部長、危険かもしれません」
ううむと、うなる白谷。
「だが、準備を整えて再びここに来た時には、あの穴がふさがっている可能性もある。もしあれが、やつらによる何らかの作戦絡みであるのならな」
「確かにそうですが」
美紀の顔が不安に曇る。
何の調査も準備もなくあの穴に降りて大丈夫なのだろうか?
今のキドロは、標準装備の30mm機関砲を装備していない。
もしこの先に強大な敵がいたらどうなるのか?
だが、そんな美紀の心配をよそに、白谷が無線に指示を告げた。
「よし、許可しよう」
『お嬢ちゃんよぉ、俺が先に行くぜ。こういうのは戦場で慣れてるんだよなぁ』
「慣れてるって?」
『崖から降りたり上がったり、ダスクの戦場じゃ日常だったんだぜぇ?』
後藤はそう言うと、左肩に装備された軍事用のミリタリーロープを引き出した。金属製のワイヤーを編んだ、実に丈夫な代物だ。それを線路にしっかりと固定する。
『じゃ、行ってきま〜す』
後藤機が真っ黒な闇の中にその機体を踊らせた。
ロープがぐんと引っ張られ、後藤機の重量を支える。
「私もすぐに後を追う」
夕梨花はそう言うと、自機のロープの準備を始めた。




