第344話 すごいこと
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
学食チーフの福田幸代はひかりに手を引かれ、ロボット部一同の元へやって来た。
奈央が軽く頭を下げる。
「あ、福田さん、こんにちは」
「こんにちは〜!」
なぜか全員の声が揃っている。
この子たち、修学旅行から戻って以来、やけに声が揃うわね?
幸代が少し不思議そうな表情になる。
「今日はどうしたの? いつもより盛り上がってるみたいだけど」
幸代の問いに、全員が一斉に話し始めた。
しかも皆ハイテンションだ。
まぁまぁと両手でそれを制する幸代。
「はいはい分かったからちょっと待って。同時にしゃべられても聞き取れないわ。私、聖徳太子じゃないんだから」
今度は全員がピタリと説明をやめ、ポカンと首をかしげた。
あれれ? 聖徳太子って、今の歴史じゃ習わなくなったんだっけ?
えーと一万円札の絵柄も、もうずい分前から渋沢栄一だし。
どう説明したらいいのかしら?
幸代はふと悩んでしまった。
現在の歴史の教科書のほとんどで、聖徳太子は「厩戸王」または「「厩戸王(聖徳太子)」のような表記になっている。聖徳太子は本名ではなく、後にその功績をたたえて付けられた名前だ。しかも、 冠位十二階、憲法十七条、遣隋使などの功績についても、一人の手によってなされたとは考えにくい。つまり、複数人の実績を総合し、たたえた呼び名が聖徳太子なのではないかとの学説が有力となっている。推古王朝は当時の天皇、蘇我氏、厩戸王3者の共同による運営だ。その政治体制そのもののことを指すのではないか? 歴史の研究は日々進歩しているのである。
などと考えて幸代はハッとする。
今は聖徳太子の話じゃなかったわ。
私、すぐ話が横道にそれちゃうからなぁ。
「マグマ大使?」
ひかりが首をかしげた。
もちろん奈々が速攻で突っ込む。
「マグマ大使じゃなくて聖徳太子よ!」
奈々のツッコミを無視して、奈央がひかりにパッと顔を向けた。
「遠野さん、よくそんな名前知ってますわね?」
「うん、お父さんがよく言ってるよ」
「どう言ってます?」
ひかりが中空を見つめて考える。
「えーと、マグマ大使みたいに金ピカだ!とか、急がないとヤバい、マグマ大使みたいにお尻に火がついてきた!とかかな? マグマ大使って、お尻から火を吹くの?」
奈央がニヤリと笑う。
「マグマ大使は、地球をお創りになられたアース様が、地球侵略を狙う宇宙の帝王ゴアと戦うために生み出したロケット人間のことですわ。ロケットですから、火を吹いて空を飛ぶのです」
愛理が嬉しそうに言う。
「それ、私も見たことありますぅ!」
「マモル少年がロケット型の特殊な笛を3回吹くと、マグマ大使がやって来ます。ちなみに一回だとマグマの息子のガムが、二回だと奥様のモルが来てくれますわ」
ひかりの顔が嬉しそうに輝いた。
「それって、大使一家だね!」
再び奈々が突っ込む。
「台風一過みたいに言わないの!」
「台風一家?」
そうだった。
私だけじゃなくて、この子たちの話もすぐに横道にそれるんだった。
そう思った幸代は、話の方向転換を試みた。
「大使の話は後にして、いったい何がすごいことなの?」
一瞬、沈黙に包まれる一同。
そして再び全員が一斉にしゃべり始めた。
それを大声で制する幸代。
「はいはい分かったから!両津くん、代表して説明して!」
正雄がニヤリと笑う。
「俺じゃなくていいのかい、ベイビー」
もちろんこっちにも奈々が突っ込んだ。
「あんたが話すともっとややこしくなるから黙ってなさい!シャラップ!」
ひかりが両津を指差す。
「スクラップ」
それに合わせてマリエも両津を指差した。
「ポンコツ」
「スクラップとポンコツは違うでしょ!まぁ、両津くんは両方だけど」
なぜか奈々がうなづいている。
なるほど。
話がそれるのはたいてい遠野さんが原因のようね。
幸代は心の中でうなづいていた。
そんな皆の会話を聞いていたのかいないのか、少し考え込んでいた両津が口を開いた。どうやら説明がまとまったようだ。
「実は、ここにいるロボット部のメンバーの家族に、奇跡のようなつながりが発見されたんですわ」
「奇跡?」
聞き返した幸代に、ロボット部の全員がうなづいた。
両津の説明は意外にも分かりやすかった。
ひかりの母は、今からおよそ8年前に行方不明になった国連宇宙軍の調査船「ハーフムーン」でシステム部の主任を務めていた。その部下のひとりが、心音の姉・野沢結菜なのだと言う。そしてハーフムーンの船長は、大和の父・館山俊彦であると。
幸代の目は驚きに丸くなっていた。
「確かにすごいわね」
うんうんと激しくうなづくひかり、心音、大和の三人。
「それ、今まで誰も気づかなかったの?」
心音が両腕を広げて肩をすくめる。
「遠野さんの名前を聞いた時に、なんだか知ってるような気はしたんですけど、まさかこんな奇跡的なことになってるなんて思わないですよ」
「ボクも同じです」
その時、ひかりが何かを思い出したようにパッと顔を上げた。
「あ、もう一人いた!」
奈々がいぶかしげに聞く。
「もう一人って、どういうこと?」
「機動隊の女の人……えーとえーと、技術主任さんだっけ?」
奈々が付け加える。
「田中さん?」
「そう!田中さん!」
幸代が奈々に聞いた。
「田中さんて?」
「はい、機動隊のロボット部隊、キドロ部の技術主任の方です。以前ヒトガタが暴走した時に、助けに来てくれた」
「ああ、あの時の」
幸代が、なるほどとうなづいた。
「それで、田中技術主任さんがどうしたの?」
そんな奈々の問いに、ひかりが満面の笑顔で答えた。
「ハーフムーンに乗ってたもうひとりのお母さん助手さん、確か、田中正明さん!田中技術主任のお兄さんなんだって!」
「ええ〜!」
みんなの驚きの声が、学食に響き渡った。




