第343話 学食のおばちゃん
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
放課後の学食に、カチャカチャという音が響いている。その音の出どころは、業務用の巨大なシンクにビルトインされた食洗機だ。その中では、水流に洗われている食器たちがひょこひょこと踊っていた。
その前に立つ女性が一人。
調理場を見渡しながら、あちこちを指差し確認していく。
「コンロの安全スイッチでしょ、オーブンのスイッチ、炊飯器、換気扇はオートモードと……これで大丈夫ね」
学食のチーフを務める福田幸代だ。彼女はここの食品衛生責任者でもある。
ひかりから「おばちゃん」と呼ばれている彼女だが、年齢はまだ28歳だ。
「食堂のおばちゃんかぁ。せめてお姉ちゃんて呼んで欲しいんだけどなぁ」
幸代はいつもの愚痴をつぶやく。
日章大学先進工学部ロボティクス科を卒業して5年、研究室OBの陸奥に誘われてここへ来た彼女だったが、食品衛生責任者の資格を買われて今では食堂のチーフである。
「まぁアラサーだし、あの子たちから見ればおばちゃんなのも仕方ないかぁ」
あきらめたようにため息をつく。
ここのシメが終わったら、中央指揮所で陸奥たちのアシスタントだ。学食のおばちゃんと指揮所での助手。同じ所属場所で2足のワラジと言う少し変わった勤務形態ではある。だがそれを幸代は気に入っていた。実家が食品製造会社を経営しているため、両親の手前取得した食品衛生責任者の資格がここでは生きている。頑張った自分の結果がちゃんと役に立っていることと、食品関係の仕事をしていることを両親が喜んでくれていることの両方が嬉しいのだ。
「あら? なんだか騒がしいわね」
放課後の学食はいつも騒がしい。お馴染みロボット部の面々が、毎日のようにお喋りに花を咲かすからだ。まぁ彼らによると、単なるダベリではなく部の活動とのことではあるのだが。
「それにしても、いつもよりにぎやかみたいだけど?」
幸代は調理場から、ひょいと顔を出した。
「あ!おばちゃ〜ん!」
それを見つけたひかりが、テケテケと幸代の元へ駆けてくる。
お姉ちゃんて言って欲しいなぁ。
苦笑してしまう幸代。
ひかりがエプロン姿の幸代にとびついた。
「どうしたの? 何かあったの?」
幸代に抱きついたまま顔を上げたひかりの目がキラキラと輝いている。
「すごいの!とってもすごいことがあったの!」
目を上げて、ロボット部の面々に視線を向ける幸代。
確かに、彼らもいつも以上に盛り上がっているようだ。
「何があったのか、お姉ちゃんにも教えてくれるかな?」
やった!さりげなくお姉ちゃんと言ってやった!
幸代は心の中でガッツポーズをとった。
ひかりの顔に疑問が浮かぶ。そしてパッと明るい笑顔になった。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
とても嬉しそうである。
「どうしたの? そんなにはしゃいで」
「私ね、ずっとお姉ちゃんが欲しかったの!おばちゃんのこと、これからはお姉ちゃんて呼んでいい?!」
いやいや、そこは素直におばちゃんじゃなくていいでしょ。
お姉ちゃんと呼びたいというその言葉に嬉しさを感じながらも、幸代は心中で苦笑していた。
「いいわよ、お姉ちゃんで」
「じゃあそうする!」
幸代、再びのガッツポーズである。
「じゃあおばちゃんのお姉ちゃん、こっちに来て!」
ひかりは幸代の手を引き、ロボット部の面々が集っているテーブルへと歩き出した。
おばちゃんのお姉ちゃんて、どっちやねーん!
幸代は心の中で、なぜか大阪弁で突っ込んでいた。




