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第342話 壮行会

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

 東京都の東側、隅田川と荒川に挟まれる墨田区は「ものづくりのまち」と呼ばれている。江戸時代には材木や鋳物などの地場産業が発達し、明治時代には皮革やレンガなどの製造が始まった。つまり、日本の近代産業の先駆けだったと言えるだろう。そんな墨田区の発展を支えてきたのは、区内に多数存在する「町工場」と言われる比較的規模の小さい会社だ。しかし、高度経済成長期には1万社以上もあった町工場は、現在では2000社弱と、約5分の1ほどに減少してしまっている。だが、そうした不況のなかでもとびきり元気な町工場がここにある。

 心音の実家、野沢工業だ。

 心音の父・野沢一郎が経営するこの町工場は、工員7人、経理1人、そして心音の母・典子が事務を担当する、社長を含めたった10人の零細企業である。だがその技術力は大変高く、旋盤で何でも作る町工場として海外メーカーの人気も高い。ちなみに奈央の父が経営する巨大ロボット製造メーカー「宇奈月工業」からの下請けで、陸自の軍用ロボット通称ヒトガタの部品のひとつを製造しているのは軍事機密である。

 野沢工業のすぐとなりには、地元で人気のそば屋が古くから店を構えている。

 大和の母がきりもりしている「ともえ庵」だ。

 曳舟駅から水戸街道を目指して歩くと、入り口にピンク色のアーチが架かった商店街が見えてくる。「鳩の街通り商店街」だ。ともえ庵はこの商店街随一の人気そば屋なのだ。

 早朝から起きて手打ちするその蕎麦の人気は高く、遠くからわざわざ食べに来る客が後をたたない。だが、お昼時には隣接する野沢工業の工員たちに占領される。そして大和の幼馴染の心音にとって、世界で一番美味い蕎麦がともえ庵のかけそばなのだ。

 時刻はすでに夕刻を過ぎ、そのノレンはしまわれている。そして入り口の引き戸には「貸し切り」の貼り紙が貼られていた。そこには「壮行会のため」の文字が見える

「へい、おまち!」

 家の手伝いで配膳をしている大和が、心音の前に天ざるを置いた。揚げたての天ぷらから、食欲をそそる香ばしい香りが立ち登っている。

「うわぁ!おいしそう!」

 心音が喜びの声を上げた。

 今日のともえ庵には、心音と大和の家族が集っていた。

 心音の父、野沢一郎と母の典子。そして年の離れた姉、結菜だ。

 大和の方は父の館山俊彦、母の奈保子である。

 大和の母・奈保子が、のれんをくぐって調理場から出てきた。

「お蕎麦とビール、みんなのところに行き渡ったかしら?」

 大和が勢いよく返事をする。

「大丈夫!僕が全部配膳したよ!」

 心音の父・一郎が感心したような声を上げた。

「大和くん、しっかりしてるなぁ。心音と同じ9歳だとは思えんなぁ」

 心音がちょっとふくれる。

「お父さんひどい!私だって、おうちのお手伝いできるもん!」

「そうだな。でも、旋盤は回せんけどな!」

 一同が笑いに包まれる。

「もう!」

 再びふくれる心音。

 奈保子がパンパンと手を叩いた。

「はいはい、そろそろ乾杯にしましょう。みんなビールを、大和と心音ちゃんはオレンジジュースのコップを持ってね。じゃあお父さん、お願い」

 大和の父・俊彦が、今にもビールの泡がこぼれそうな中ジョッキを手に立ち上がる。

「え〜、今夜は私と結菜ちゃんのために、こんな会を開いてくれてありがとう。数日後に、私と結菜ちゃんは調査船ハーフムーンで、木星の第4衛星カリストへと旅立つ。これから約半年、家族とは会えないようになるが、みんな元気でいて欲しい」

 結菜がスッと手を挙げた。

「私からも」

 皆を見渡しながら立ち上がる。

「えーと、私、国連宇宙軍のシステム情報部で働いていて、今回初の宇宙任務となりました。ちょっと緊張してますが、私を引っ張ってくれる主任がとてもいい人なので、心配はしなくて大丈夫です。遠野主任、本当に優しくていい上司なんです」

 それは良かったと、皆の顔に笑顔が広がった。

 調査船ハーフムーンの今回の任務は、カリストの地質や大気などの調査である。木星の月と言っても、その大きさは水星に匹敵する。これまでに行なわれた無人探査機による調査で水の存在や、薄いとはいえ酸素と二酸化炭素の大気の存在もハッキリしている。木星からの距離も離れているので、母星からの電磁波の影響も極めて少ない。太陽系の天体の中で、人類が住める可能性が高い星のひとつだ。

 そんなハーフムーンの船長こそ、大和の父・館山俊彦だ。そして心音の姉・野沢結菜は、ひかりの母・遠野あかりの部下なのである。

 心音の父・一郎がジョッキを持つ手をぐいっと上に上げた。

「では、二人の無事を祈って、乾杯!」

「乾杯!」

 ともえ庵に、全員の声が大きく響く。

 一郎が、ぷはーっと息を吐いた。

「俺はやっぱりこの一杯のために働いてるんだよなぁ」

 オレンジジュースを一口飲んだ心音が、一郎にパッと目を向けた。

「え? お父さん、私のために働いてるんじゃないの?!」

「いやぁ、まぁそれもある!」

「大和はどうなのよ?!」

 心音が大和に顔を向ける。

 え? と、少しあわてたように目を泳がせる大和。

「ボクはもちろん、心音のために働くに決まってるじゃない」

 奈保子が呆れ顔を大和と心音に向けた。

「まだ9歳なのに、やっぱり二人は仲いいわね」

 典子も二人に顔を向ける。

「とりあえず、許嫁ってことにしておく?」

「それ、いいわね」

 奈保子と典子が笑い合う。

 心音が二人をキッとにらんだ。

「勝手に決めないでよね!ねぇ大和!」

「心音、ボクじゃいやなの?」

 予想外の大和の返しに、今度は心音があわててしまった。

「え? その……いやだなんて、言ってないもん」

 真っ赤になる心音と大和。

 そんな二人を見て、また盛り上がる大人たち。

 俊彦がまたジョッキを上げる。

「先のことは分からんが、今はこの二人に乾杯だ!」

「乾杯!」

 まだまだ盛り上がる壮行会なのであった。

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