第341話 宇宙に行ったことある?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
時刻はすでに放課後になっているというのに、学食では相変わらず修学旅行の話で盛り上がっていた。メンバーはもちろんロボット部の面々だ。調理部はすでに閉まっているのだが、テーブルの中心には誰かが持ち込んだ大量のお菓子が並んでいる。そして各自の手元にはそれぞれが買ったペットボトルのドリンク。コーヒー、紅茶、オレンジジュース、ミネラルウォーターと、バラエティに飛んでいる。
なんや大学生の宴会みたいやなぁ。
両津は、ドラマで見た知識からそんなことを思っていた。
奈央が立ち上がる。
「皆さん、ずっと暴走ロボットのお話をしていますが、わたくし基本的なことを聞きそびれていましたわ」
一同が奈央に注目する。
「今回初めて宇宙に行った人、手を挙げてください」
一斉に手が挙がった。その中で、たった一人手を挙げていないのは正雄である。
ひかりの目が丸くなる。
「ジョニー、宇宙初めてじゃなかったんだ!すごい!」
正雄がフフッと不敵に笑う。
「当たり前じゃないか。このマイトガイ様は宇宙なんて何度も行ったことあるぜベイビー」
「何度も?」
奈々が何かに引っかかったのか首をかしげた。
「何度もってどういうこと?」
「言葉の通りだ、何回も行ったことがあるのさ」
白い歯を見せた笑顔は、正雄が言うところのマイトガイスマイルだ。
「いつよ?」
「子供の頃からこの前のISSまで、俺は大好きな宇宙によく行くのさ」
「よく行くって? 例えば?」
正雄は、中空を眺める仕草をしながら何かを思い出しているようだ。
「あれは、アメリカ時代のことだった……宇宙への憧れを実現させようと、俺はフロリダのケネディ宇宙センターへと向かったのである」
こくっと首をかしげるひかり。
「ケネディ宇宙なんちゃら?」
奈々がひかりに説明する。
「人類初の月面着陸を成功させたアポロ11号とか、最初のスペースシャトルなんかを打ち上げたロケット発射場よ」
「ふへ〜」
ひかりがすごいなぁ、と言う表情になる。
「で、そこから宇宙へ行ったの?」
奈々の問いに、正雄がニヤリと笑顔を浮かべた。
「観光さ!」
「宇宙に行ってないじゃないの!」
宇宙に一番近い場所と言われるケネディ宇宙センターは、シャトル組立工場やスペースシャトル発射台、滑走路、開発基地がある本物の宇宙港だが、一般ゲストが入園可能な見学エリアもとても充実している。ビジターコンプレックスと呼ばれるその場所には、宇宙にまつわる展示会場、I-MAX映画館、ギフトショップ、レストランなどがあり、広大な敷地を見学するバスツアーも、毎日ここから出発している。
「他にもあるぜベイビー。」
正雄は指を折りながら、自分が訪れたことのある宇宙にまつわる場所をあげ始めた。
「水道橋のTeNQ (テンキュー)宇宙ミュージアムだろ、さいたま市宇宙劇場とか、JAXA宇宙航空研究開発機構の筑波宇宙センターにも行ったなぁ。あ、石川の宇宙科学博物館にも行ったことあるぜベイビー!」
奈々がハァっとため息をつく。
「それ、名前に宇宙って言葉が入ってるだけじゃないの」
正雄がよりいっそう笑顔になった。
「だから宇宙に行ったことがあると言っただろ?ベイビー」
奈々のため息が深くなる。
ひかりはひたすら感心した目で正雄を見つめていた。
「ジョニーはやっぱりすごいね。私なんか、お母さんに宇宙の話聞いたことあるだけだもん」
おや?
そう言えば、ひかりの話に兄や父はよく登場するが、母親については誰も聞いたことがない。
たまたまなのか?
それともひかりにとって、あまり話したくないことがあるのか?
奈々がおずおずとひかりに聞いてみる。
「ひかりのお母さん、何をしてる人なの?」
ひかりがパッと笑顔になった。
「宇宙船でパソコンのお仕事してたんだよ」
してたって、過去形に何か意味があるんやろか?
そう思った両津だったが、他の皆もそこにひっかかっていた。
そんな中、奈々が勇気を出して聞いてみる。
「そのお仕事はもうやめて、転職でもなさったの?」
ひかりが明るい笑顔で首を横に振った。
「ううん。お母さんの乗った宇宙船、宇宙のどこかで行方不明になっちゃったの」
静まり返る一同。
奈々が小声で言う。
「悪いこと聞いちゃったわね。ごめんなさい」
ひかりがてへへと笑顔を見せた。
「大丈夫だよ奈々ちゃん。それにみんな、暗くならなくていいよ。もうずい分昔のことだから、私ぜんぜん平気だよ。私が小学三年生の頃だもん」
それを聞いた心音が突然大声を出した。
「小学三年生の頃?! ねえ大和、それって?!」
「うん、そうかもしれない」
心音と大和の突然の反応に戸惑いを見せる一同。
愛理が不思議そうに聞く。
「小学三年生に何かあるんですかぁ?」
顔を見合わせる心音と大和。
心音がひかりの顔をじっと見つめる。
「え? ココちゃん、そんなに見つめられたらちょっと恥ずかしいよ」
大和もひかりをじっと見つめていた。
奈央も愛理同様不思議そうに首をかしげる。
「野沢さんも館山くんも、どうなさったんですの?」
奈央のその言葉を聞いて、ひかりも何かに気付いたようにハッとした。
「そっか、ココちゃんは野沢さんで、大和くんは館山くんだったっけ」
おい、友達の名字忘れとったんかい!
両津が心中でそう突っ込んだ。
心音がひかりを見つめたまま、驚いたような声音で言う。
「私、遠野さんの名前聞いた時、なんだか知ってるような気がしたのよ!ねえ、大和もそうでしょ?!」
「うん、ココにそう言われた時は思い出せなかったけど、今の遠野さんの話を聞いて確信が持てたよ」
心音が何かを決心したように、ひかりに訪ねた。
「ひかりのお母さんが乗ってた宇宙船の名前は?!」
誰かの、ごくりとつばを飲み込む音が聞こえた。
「ハーフムーン!」
ひかり、心音、大和、三人の声が揃って学食に響いた。




