第34話 株式投資
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
明日はロボット交通法規の小テストがある。両津が勉強に励み、正雄がプラモデルに夢中になっている頃、愛理も交通法規の教科書に目を落としていた。伊南村愛理のルームメイトは宇奈月奈央だ。
「愛理さん、どうして教科書を読んでいるんですか?」
奈央がちょっと不思議そうに愛理を見ている。ほんの少し茶色ががった髪がサラサラと動いている。長さはミディアムと言ったところか。もう入浴を済ませたため、パジャマ兼用の部屋着に着替えている。コスパ重視の奈央らしく、価格がとびきり安いにもかかわらずとても機能的との評判が高い、有名ファストファッションのブランドマークが見える。
「明日の小テストに備えた一夜漬けです〜」
愛理が困ったように言う。
彼女の髪はほんの少し緑がかっていた。光の加減で、とても濃い緑に見えることもある。長さはショートだが、ワンカールで外巻きにしているため、全体的に外にはねている。その様子は元気な彼女によく似合っていた。服装はお気に入りの部屋着である。彼女はいつも、寝る直前にパジャマに着替えるのだ。
「あらあら、そうだったかしら?」
奈央が首をかしげる。
「今日の授業で陸奥教官が言ってましたよ〜、明日小テストするって」
愛理は少し驚いた。ずいぶんおっとりしてる先輩だなぁ、とは思っていたが、テストのことまで聞き逃しているとは。
「まあ大丈夫でしょう」
奈央はニッコリと愛理に笑顔を向けた。
まさかこの人も、泉崎先輩みたいな天才なのかなぁ?いつもテストは満点、なんて。
愛理はふとそんなことを思うと、急いで教科書に目を戻す。自分は凡人だと分かっているので、テストの前にはしっかりと勉強しないといけないのだ。
そんな愛理の隣で、奈央はノートパソコンを広げて何かを始めた。カタカタとキーボードを叩く音が響く。その視線は、いつになく真剣だ。
「パソコンで交通法規のお勉強ができるんですかぁ?」
愛理はとても興味を持った。本を読むのが苦手な愛理は、可能ならスマホやパソコンで勉強したいと、常々思っていたからだ。
奈央が顔も上げずに返事をする。
「もちろんそれも出来ますけど、今やっているのは勉強よりも、とってもとっても大切なことなんです」
「お勉強よりも?」
「その通りです」
奈央は手を止め、愛理にパッと明るい顔を向けた。
「私、株を始めたんです!」
愛理がぼ〜っと考える。
「お漬物とか作るお野菜の?」
「それはカブ!私が言っているのは、株式投資のことです!」
ほえ〜、私の全く分からない世界だぁ〜。
愛理は頭がクラクラした。
それからは、奈央には珍しいマシンガントークが始まった。
「私はずっとコスパを考えて人生を歩んで来ました。でも、それだけではいけないと悟ったのですよ、愛理さん」
「はぁ」
愛理はどうすれば良いのか分らず、とりあえず返事にもなっていない返事をした。
「コスパを考えるのは簡単に言うと節約することです。でも、これからは節約ではなく増やすこと、資産運用の時代なのですよ」
奈央の声音は力強い。
「しかし、私達高校生の財力はお小遣いやバイト代など、とっても少額です。通常の株式を購入しようにも、単元の100株なんてとうてい買うことはできません。ですが!」
そこで一拍あける。
「現在はミニ株という金融商品が販売されているのに気付いたのです。ミニ株ならどんなに高い人気の株でも、1株単位で購入できる……私達の強い味方がいたのですっ!」
やっぱり愛理にはチンプンカンプンである。知らない単語が当たり前のようにガンガン登場する。奈央の説明は、用語解説の無いコスパの良いものだった。
「そこで私は最初に、大好きで応援したい企業の株を1株だけ買うことにしたんです」
そこでゆっくりとうなづく。
「それが、角谷プロダクションなんです!」
あ、これは愛理も知ってる!あれ?もしかして宇奈月先輩って?!
「あ、あの……角谷プロダクションて、特撮の会社の?」
再び奈央の顔がパッと明るさを増す。
「そうです!我が国が誇る巨大ヒーロー、デラックスマンの制作会社です」
愛理の顔も明るくなる。
「宇奈月先輩て、もしかして特撮ファンなんですか?」
「もちろんです。特撮は日本が世界に誇る、スペシャルなコンテンツです。愛理さんは特撮は見ますか?」
うんうんと大きくうなづく愛理。
「見ます!見ます!どっちかと言うと私はアニメファンですけど、特撮も大好きです!」
いきなりの意気投合であった。これまで自分とは全く違う世界の人だと思っていた奈央が、まさに自分側の人間だと判明したのだ。
愛理の顔は、とびきりの笑顔になっていた。




