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第339話 再検査の日

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「山下さん、目を閉じてゆっくりと深呼吸してください」

  MRIのようなマシンに横になっている美咲に、彼女の主治医・牧村陽子の声が聞こえてきた。マシンの中は筒状になっていて、美咲の全身がその中にすっぽりと収まっている。何だか分からない光線を発し、キラキラと輝いている壁が目にまぶしい。

 美咲の耳に、再び陽子の声が届く。

「ちょっと時間がかかりますので、寝てしまってもいいですよ」

 その声に誘われるように、美咲はゆっくりと眠りの中に落ちていった。


「お目覚めの時間です。美咲さん、そろそろ起きて下さい」

 感情のあまり感じられない、優しそうな男性の声……いや、中性的と言ったほうがいいのかもしれない。

「あと10分だけ……」

 美咲は枕に顔をうずめたままそう答えた。

「美咲さん、10分前もそう言いましたよ」

 あ、そうだった。

 仕方ない、起きてやるか。

 気持ちのいい眠りをさまたげられたのはちょっとムカつくけど、目覚ましの時間を決めたのは私だしなぁ。

 ゆっくりとベッドで体を起こす。

 大きなあくびをひとつ。

「おはよう、アイくん」

「おはようございます、美咲さん」

 そこで美咲は、ハッと何かに気付いたように顔を上げた。

「なんかこれ、懐かしいわね」

「そうですね、美咲さん」

 アイの声に、少し笑みが含まれている。

 そうだった。

 私はこうしてアイくんと一緒に約2年の間、隔離された病室で眠っていたんだった。

 確か今は、再び国連宇宙軍総合病院を訪れて素粒子センサーで再検査中のはず。

 そうか、私眠ってしまったのね。

「アイくん、お部屋を少し明るくしてくれる?」

 照明がスッと明るくなる。

 ここは宇宙船サン・ファン・バウティスタ号の美咲の自室である。

 とは言っても、それは美咲の脳内にアイが作り出した仮想空間なのだが。

「そうだ、久しぶりにアイくんがいれた紅茶が飲みたいな」

「茶葉はどうしますか?」

「そうね……やっぱりダージリンのアールグレイがいいな」

「ホットですよね」

「もちろん!」

 アールグレイといえば、喫茶店やカフェなどではアイスティーにすることが多い。だがアールグレイこそホットのストレートだと、美咲は自信を持って言える。しかしその理由は、大好きなドラマの主人公の定番セリフ「アールグレイをホットで」が、海外ドラマで一番カッコいいと美咲が思っているからに過ぎないのだが。

「美咲さん、紅茶です」

「ありがとう」

 フードプロセッサーに現われた真っ白なティーカップから、ベルガモットのいい香りが立ち上っている。

 美咲はベッドから立ち上がり、そのカップを手にテーブルにつく。

 ふんわりと広がる香りを楽しみながら、彼女はひと口、紅茶を飲み込んだ。

「アイくんがいれてくれる紅茶、やっぱりおいしいわ」

「ありがとうございます」

 心なしかアイの言葉に、はにかむような照れが感じられる。

 もうひと口、紅茶を飲んだ美咲が顔を上げた。

「そう言えば、この前は本当にありがとう。おかげで子供たちも私たちも、とても助かったわ」

 先日ISSで起こった暴走アービン事案でのことだ。軍事機密で守られたアービンの構造を、アイは機体へ感染することで割り出してくれた。そしてひかりとマリエに、破壊すべきコントロールモジュールの位置を知らせてくれたのである。

「いえ、当然のことをしたまでです。それに私も、ロボットを暴走させるようなテロ行為には反対ですから」

 以前アイは、素粒子にも急進派と穏健派が存在すると言っていた。そしてアイ自身は穏健派の一員なのだと。

「あれから何かを調べてみるって言ってたけど、何か分かった?」

「いえ。まだ大したことは分かっていません。ただ、彼らはオーバーライトを狙っている可能性があります」

 オーバーライトはIT用語で、現在のデータを新しいデータで上書きすることを意味する。何を何で上書きするのだろうか?

「詳細が分かったら、すぐに美咲さんにお知らせします」

 美咲がニッコリと笑う。

「よろしくね」


 美咲がアイと楽しく会話していた頃、UNH国連宇宙軍総合病院感染症隔離病棟の検査室では、牧村陽子、長谷川潤子、三田大輔の三人が、素粒子センサーの画面を食い入るように見つめていた。

 大輔が顔をしかめて言う。

「アイくん、Y型ではありませんね」

 潤子も眉間にシワを寄せている。

「私たちの予想、残念ながら外れだな」

 次々と表示されている数字に見入っている三人に、沈黙のベールが降りてくる。

 以前アイは言っていた。

『私が人類自らの発達に関与することはできないのです。あなた方が何かを見つけたら、相談に乗ることぐらいしか、私にできることはありません』

 つまり、陽子たちが見つけたものが正解かどうかは答えてくれるのだが、見つけるためのヒントは教えてくれないのだ。

 大輔がため息をつく。

「また一から考えてみないと、ですね」

 潤子も同様に息を吐いた。

「青年の言う通りだな。もう一度、全ての検査結果を見直してみよう。と言うか、見直してみてくれ、青年」

 大輔が苦笑する。

 そんなどんよりとした空気の中、美咲がゆっくりと目を開いた。

 陽子がニッコリとした笑顔を美咲に向ける。

「山下さん、目を覚まされましたか」

 美咲も笑顔を三人に向けた。

「あの、長谷川先生に言い忘れたことがあるんです」

 首をかしげる潤子。

「先生、アールグレイよりダージリンの方がおいしいって言ってましたよね?」

 大輔がハッとする。

 また長谷川先生が暴走するんじゃないか?!

 美咲はその美しい笑顔を潤子に向けた。

「アールグレイとダージリンは、相対するものじゃないんです」

「へ?」

 潤子がより一層首をかしげた。

「アールグレイはフレイバーで、ダージリンは茶葉です。つまり、ダージリンのアールグレイも存在するんですよ」

「なんだってーっ?!」

 検査室に潤子の悲鳴のような叫びが響いていた。

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