第335話 デブリの材質
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
教官たち、陸奥、久慈、南郷、美咲の四人が職員室からストラタム09の中央指揮所に移動した時、整備技術者はすでに到着していた。蒲田健太、勝浦亮平、中尾久美子の三人だ。そのまま暴走アービン事案分析会が開かれる。
最初に口を開いたのは健太だ。
「まずは、最新の情報から報告させてください」
雄物川がうむとうなづく。
「ISSに衝突したデブリの中から三個が、こちらに提供されたので分析してみました」
南郷が健太に視線を向ける。
「デブリっちゅーのは、パチンコ玉大ってヤツ?」
「そうです」
亮平が真剣な目で一同を見渡した。
「地球の物質なのか、そうでないのかによって、あれを射出してきた謎の衛星の正体に近づけるかもしれませんから」
「まぁ、飛び去ったんですから、衛星と言うより宇宙船と言ったほうがいいのかもしれませんけどね」
久美子がそう言って苦笑する。
一緒に苦笑していた健太が説明を続けた。
「通常のX線回折や電子線マイクロアナリシス法、蛍光X線法、X線光電子分光法など、色々と試してみたのですが、」
南郷があわてて両腕をプルプルと振る。
「ちょっと待ったって!それやとサッパリ分からへん。もっと噛み砕いて説明してくれへんかな?」
整備チームの三人が顔を見合わせた。
じゃあと、亮平が口を開く。
「ひと言で言うと、あのデブリは地球上の物質ではありませんでした」
息を飲む教官たち。
亮平が続ける。
「我々が知っている元素は、何一つ見つけられなかったんです」
地球上で発見されている元素は118種類だ。そのうち自然界に存在する元素が89種類、人工的に合成された元素が29種類。原子番号1の水素から94のプルトニウムまでが天然に存在することが確認されており、原子番号92のウランよりも重い元素は人工的に合成されたものである。亮平の説明では、その118の元素のどれでもない物質でできていると言う。
「ただ……」
「ただ?」
陸奥が聞き返した。
「アルミニウムとセラミックに、とても似た材質が使われています」
南郷が首をかしげる。
「使われてるって……中身に他のものが入っとるんか?」
三整備士が再び顔を見合わせた。
何と言っていいのか、返答に困っているようである。
亮平が少し困り顔で説明を続ける。
「えーと、皆さんはプロテウスという複合素材を知っていますか?」
一同が首をかしげる。
久慈が腕組みをし、思案しているように小声で聞いた。
「複合素材って、二種類以上の素材を組み合わせたもの、ですよね?」
亮平がうなづく。
「そうです。あのデブリは、地球のアルミニウムとセラミックに非常に似た物質の複合素材でできていました」
「プロテウスって、あれか?」
陸奥が思い出したように少し大きな声でそう言った。
健太が陸奥に聞く。
「陸奥さんはご存知なんですか?」
「いや、ロボットの素材を研究開発しているアメリカの友人から聞いたことがあるんです」
陸奥は少し考えてからこう言った。
「世界一硬い素材だと」
地球上で最も硬い物質はダイヤモンドである。
そして、炭化ケイ素、サファイアと続き、超硬合金の硬さはその次あたりと言える。だが、プロテウスはこれらの物質とは全く違うアプローチで開発された複合素材だ。イギリスのダラム大学とドイツのフランホーファー研究機構のグループが作り出した素材で「世界初の切断不可能な金属」とも言われている。
プロテウスは、アルミニウムの発泡体の中にセラミックの球体が埋め込まれた構造になっている。粉末のアルミニウムと発泡材を押し固め、数ミリメートル大の隙間が無数に空いたアルミを作る。そこに小さなセラミックの球を多数埋め込む。例えばそれを、ダイヤモンドやサファイアの刃を持つ電動カッターで切ろうとした場合、表面のアルミニウムは傷つくが、多数のセラミック球に到達した途端、その振動で刃があっという間に摩耗してしまうのだ。しかも細かい粒子となったセラミックがよりアルミの隙間を埋め、切れば切るほど固くなる。これはウォーターカッターを使った場合でも同様だ。セラミック球によって水流が拡散し、ジェットの速度が50分の1にまで低下してしまい、切断できなくなる。つまりプロテウスは、絶対に切断できない金属だと言えるだろう。
「つまり、」
健太が顔を上げ、教官たちを見渡した。
「僕たちもあのデブリを切断できていないので、内部に何があるのか、まだ分かっていないんです」
「そりゃ困ったもんやなぁ」
指揮所内に南郷のため息が響いた。




