第33話 プラモデル
「超機動伝説ダイナギガ」が今年(2023年)なんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
「えーと……なんやったっけ、この標識」
両津はロボット交通法規の教科書を手に悪戦苦闘していた。
ここは都営第6ロボット教習所の学生寮。もちろん両津の部屋である。
今日の授業で南郷が言っていた。
「明日は交通法規の小テストするから、ちゃんと勉強して来るんやで」
両津は小さなため息を漏らした。彼は暗記が苦手なのだ。窓から見える教習所の風景は、月明かりに照らされている。すでに夜の10時を回っていた。
「そっちはどうなん?明日テスト無いん?」
両津は隣のデスクにいる正雄に話しかけた。両津と正雄はルームメイトなのだ。
「いや、小テストをするって陸奥教官が言っていたな」
正雄はロボットのプラモデル作りに夢中になっている。パーツを組み合わせてパチパチとはめていく今風のプラモではない。ニッパーなどを使ってランナーから部品を切り取り、接着剤で組み立てていく昔ながらのスタイルだ。メジャーな商品ではなく、マニア向けの少量生産品。両津はそのロボットを知らなかった。かろうじてアメ車であることだけは彼でも判別はできたが。
「じゃあ勉強した方がええんとちゃう?」
両津は心配げな表情を正雄に向ける。
「勉強?」
正雄が不思議そうに両津を見る。
「だって明日小テストが、」
その両津の言葉を正雄がさえぎった。
「大丈夫さ。俺は天才だからね」
「天才かぁ、勉強せんでも良い点取れるの、めっちゃうらやましいわ〜」
そんな両津に、正雄はニヤリと片方の口角を上げる。
「てんさいって、ちょっと怖いよな。地震とか」
「それは自然災害の天災や!」
「え?じゃああれか、とても甘いってヤツ」
「それは砂糖の原料の甜菜や!」
「ん?ではあれかな?雑誌とかの、」
「転載!」
「生まれつきとても賢くて頭がいい」
「天才!」
「俺を呼んだか?」
正雄がニヒルに笑う。右手の親指と人差指で拳銃のような形を作り、アゴの下にかざす。正雄の決めポーズだ。なぜか両津も同じポーズをとっている。まるで二人でひとつの作品を完成させたかのように。
関西での両津は、実はボケ担当だ。日常でいつもボケるためのネタをひたすら探している。そしてボケて、友達のツッコミ待ちをする。だがこの教習所では逆にツッコミ役になってしまう。もちろん、南郷と正雄がいるからだ。
正雄はアメリカ帰り、両津は関西人。この二人はなぜか気が合った。
都営ロボット教習所ミネソタ校から転入して来た正雄は、アメリカにいる間はミネソタ州のミネアポリスで暮らしていた。州都のセントポールと合わせてツインシティーズ、双子の都市と呼ばれ、アメリカでも有数の大都市である。
ミネソタと言えば、映画「ミネソタ大強盗団」が有名だ。実在の列車強盗、コール・ヤンガーとジェシー・ジェームズの人生を描いた1972年制作の西部劇である。
西部と関西。西と西。気が合う理由は、そんなことかもしれない。
「俺の可愛子ちゃん、今ランナーから開放してやるぜ」
ニヤニヤしながら、ランナーと部品をつないでいるゲートをていねいにニッパーで切っていく。もちろん、部品に残ったゲートの跡は、この後紙ヤスリでキレイに処理をする。
あのロボット、女子やったんか。
正雄の可愛子ちゃん発言で、両津はそんなことを考えていた。
教科書に目を戻す。
だがすぐに彼は頭をかきむしった。
「あかん!雑念ばっかり浮かんできて、ぜんぜん覚えられへん!」
部品の切り取り作業を続けながら、正雄が両津に言う。
「どんな雑念が浮かぶんだい?」
「あのな」
両津が真剣そうな目を正雄に向けた。
「実は今日の放課後に、南郷センセの研究室に行ってん」
正雄が手を止める。
「自習の時にみんなで話したこと……この教習所の七不思議について、聞きに行ったんや。まぁ7つもあらへんけど」
正雄の目に、珍しく真剣さの色が浮かんでいる。
「で南郷教官、何か教えてくれたのか?」
両津が両腕を挙げて肩をすくめた。
「アカンかった。なんにも教えてくれへんかった」
「そうか、そりゃ困ったもんだゼ」
正雄も肩をすくめる。
「でもな、ひとつだけ気になることを言ってたんや」
「気になる?」
両津がごくりとつばを飲み込む。
「南郷センセ……まもなく全てを話せるようになる。もうちょっと待ってくれ、なんて」
両津が南郷のモノマネでそう言った。
「話せるようになるってことは、やっぱり何かあるんやで」
「なるほど。そりゃ困ったもんだゼ」
二人はまた肩をすくめた。




