第328話 地下に何がある?
「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。
【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】
都営第6ロボット教習所の所長、雄物川が落ち着いた声で言う。
「君たちからの報告は見せてもらった。その詳細を彼らにも聞かせてやってくれ」
日々の業務をストラタム00でこなしている悠真と陸斗は、珍しくストラタム09の対袴田素粒子防衛線中央指揮所に呼ばれていた。二人を取り囲んでいるのはここの教官たちだ。生徒たちを引率してISSへ出かけていた修学旅行から帰還したその日に、指揮所に集まっている。
雄物川がすまなそうな顔で彼らを見た。
「今日ぐらいは休日にしてあげたいと思っていたのだが、ことが重大なのでね」
その言葉に、教官たちは小さく頭を下げる。
「大丈夫ですわ。修学旅行自体が休暇みたいなもんやと思てますから」
南郷がヘヘっと笑いながら頭をかく。
だが修学旅行の実際は休暇どころではなかった。なにしろ教官たちと生徒たちによって、暴走ロボットの対処に当たることになってしまったのだ。
「休暇」と言う南郷の言葉を聞いて、陸奥、久慈、美咲の三人が苦笑した。
陸奥が真剣な目を悠真と陸斗に向ける。
「それで、いったい何を見つけたんです?」
悠真と陸斗が顔を見合わせる。どう説明していいのか、少し迷っているようだ。
悠真が口を開く。
「あの、何というか、まだ詳しいことは何も分かっていないんです」
陸斗も同様に言う。
「ただ、見つけたと言うだけで」
雄物川の表情が優しくなった。
「それでいいんだ。詳細は引き続き調べてくれているんだろう?」
悠真と陸斗がうなづく。
「もちろんです」
二人は何度か視線を合わせると、打ち合わせをして決めていたのか悠真から説明を始めた。
「僕らは、より深い地下施設建設のための地盤調査を担当しています。それで昨日、調査データからひとつの推測をしたんです」
二人の話はこうである。
建築用ロボット達に内蔵された各種センサーを使い、土質、地盤の強度、地下水位などを調べていたところ、これまでに無かった結果が出たのだという。
それは、この教習所の地下に大きな空洞らしきものが存在するとのデータだった。
ここは東京湾に作られた埋立地だ。
東京湾には、内湾と外湾と呼ばれる二つの区域がある。内湾は三浦半島の観音崎と房総半島の富津岬を結んだ線の北側、つまり内陸部の区域だ。一方外湾は、そこから外海までの区域、つまり浦賀水道をさす。外湾には東京湾海底谷と呼ばれる水深500メートルを超える場所が存在するが、教習所のある内湾の水深は平均15メートル程度。東京の地下鉄駅の平均の深さが15.8メートルということを考えると、内湾の水深はあまり深いとは言えないだろう。例えば日本で最も深い地下鉄の駅は、都営地下鉄大江戸線の六本木駅で、ホームが地下42.3メートルの深さにある。そんな事実から推測するに、その空洞は自然のもの以外に、人工の建築物の可能性もあると言う。
陸奥が少し暗い顔を二人に向けた。
「琵琶湖のように?」
陸斗が陸奥に視線を向ける。
「遺跡かどうかはまだ分かりません。年代測定をしてみないと何とも。ただ分かっているのは、どうやらこの空洞、南北に伸びているようなテータが出ています」
南郷が腕組みをしてうーんとうなった。
「もしそれが人工の空洞やとすると、誰が何のために作ったんやろなぁ? もしかして、古代にも地下鉄があったとか?」
人類の歴史において世界初の地下鉄は、1863年にロンドンで開業されたメトロポリタン鉄道だ。蒸気機関車を走らせたため、排煙のためにトンネルの壁面には煙出しの穴が設けられていた。だが乗客たちは真っ黒なススで汚れることが当たり前という代物だった。もちろんこれから行われる年代測定の結果にもよるが、メトロポリタン鉄道より古いものだとすると、人類の歴史が書き換わるかもしれない。
沈黙に包まれた一同だったが、雄物川がひとつうなづいてから口を開いた。
「引き続きくわしい調査を続けてくれ。その結果によって、ここの運営方針が変わる可能性がある」
再び指揮所が沈黙に包まれた。




