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第322話 不思議な場所

「超機動伝説ダイナギガ」がなんと25周年とのこと。四半世紀です。時の流れの恐るべき速さに呆然としてしまいます。そんなわけで、当時色々と書き溜めていたプロットや設定を元に、小説化してみようと思い立ちました。四半世紀前にこんなものがあった、そんな記録になれば良いなあなどと考えています。とりあえずのんびり書き進めますので、よろしかったらのんびりお付き合いくださるとありがたいです。なお、当時の作品をご存知無い方も楽しめるよう、お話の最初から進めていきたいと思います。更新情報は旧TwitterのXで。Xアカウントは「@dinagiga」です。

【この作品は原作者による「超機動伝説ダイナギガ」25周年記念企画です】

「お父さん、ぱ行で遊ぼ!」

 マリエは満面の笑顔で父にそう言った。

 オランダ宇宙研究所の宇宙物理学者ヤン・フランデレンはマリエの父だ。ライトグレーの瞳で、細めでサラサラとした薄紫色の髪がとても美しい。今日はヤンの休日だ。惑星調査宇宙船ゴールデン・ハインド号内の自室で、ヤンは4歳の愛娘マリエと遊んでいた。

 マリエの父ヤンはアントワープ出身のベルギー人だ。だがオランダ語が話せたこともあり、オランダ宇宙研究所で宇宙物理学を研究する道を選んだ。マリエの母は父と同じ研究所で、宇宙飛行士の健康管理や医学運用を行うフライトサージャンを努めていた。

 しかし、ずっと平和に暮らしていた家族に、激動の運命が訪れる。マリエが4歳になりたての頃、一家は長い旅に出ることになったのだ。ヨーロッパ各国が共同で運営している欧州宇宙機関の調査宇宙船ゴールデン・ハインド号で、土星の衛星タイタンの調査に向かったのだ。今はまさにその長い途上であった。

「じゃあ、お父さんから行くぞ!」

「私、絶対に当ててみせる!」

 マリエが大好きな言葉遊び「ぱ行遊び」は、日本では幼稚園での教育に取り入れられている知育遊戯だ。ルールはいたって簡単で、ある単語を「ん」以外の全ての文字を「ぱ行」に変換して話す。それを聞いて何の名前を言っているのかを当てるのだ。例えば「ビスケット」は「ぴぷぺっぽ」、「アイスクリーム」なら「ぱぴぷぷぴーぷ」になる。つまり、イントネーションだけで物の名前を当てる遊びなのである。

「では、何がいいかな。そうだ、」

 マリエの父がそう言いかけた時、この部屋の呼び鈴である電子音が鳴った。来客だ。

 マリエの母はこの船のフライトサージャンだが、まだ帰宅には早すぎる。

「誰だろうね? ちょっと待っててくれ、お父さんが出るよ」

 そう言ってソファーから立ち上がろうとした父を、マリエが手を伸ばして制した。

「だいじょうぶ、私が出る!」

 ニッコリと笑顔を父に向け、マリエが立ち上がる。

 そして部屋のインターホンへと走り寄ると元気に返事をした。

「どなたですか?」

 その声に返答は無かった。が、突然部屋の扉がスッと横に開く。

 そこには一人の少女が立っていた。

 肩にはかからない程度のミディアムヘアは、少し段差のあるレイヤーカットだ。髪色はほんの少し茶色がかってはいるが、染めたのではなく恐らく生まれつきだろう。

 マリエはその少女に見覚えがあった。

「ひかり?」


 教室の扉が激しくノックされた。ただならぬ気配である。笑いに包まれていた教室は、その威圧感のある音に一瞬にして静まり返った。

「はい」

 担任教師はそう返事をすると、扉へ向かった。教室の扉は引き戸である。ガラガラと乾いた音をたてて開き、廊下と空間がつながる。

 真ん中よりも後ろの席のひかりからその姿は見えないが、わずかに声が聞こえて来る。教師の態度から、教頭が誰かを連れてやって来たようだ。

 授業中に教頭先生が教室まで来るなんて、一体何ごとだろう?

 小学三年生と言えばそろそろ物事がしっかりと分かり始める年頃だ。ひかりの小さな胸に不安がよぎる。教師がひかりを手招きした。

「遠野さん、ちょっと」

 え? わたし?

 ひかりは恐る恐る自席を離れ、ポッカリと廊下へ口を開いた四角い穴へ向かってゆっくりと歩く。廊下からは、教室内とは違った少し冷たい空気が流れ込んでいた。そのせいか、先生達のいる場所が、ひかりには異空間のように感じられる。扉が開いた向こう側、廊下のはずの空間が真っ黒な闇のようだ。

「あれ? マリエちゃん?」


 ハッとするひかりとマリエ。

 スッと意識が覚醒していく。

 二人が立っているのは不思議な場所だった。木の廊下に、真新しいリノリウムがモザイク状に入り込んでいる。窓から見える景色も、美しい陽光と澄み切った夜空が混じり合っている。窓自体も、木の枠と密閉ガラスが同居していた。ひと言で言うなら、最新鋭の宇宙船と、日本の木造建築が混ざり合った場所、と言っていいかもしれない。

 ひかりがマリエに顔を向けて首をかしげる。

「マリエちゃん、どうしてここに?」

「ひかりも、どうして?」

 マリエもひかり同様、首をかしげた。

 その時、廊下の奥から足音が聞こえ始めた。

 コツン、コツンと、二人に近付いてくる。

 ひかりが逆方向に首をかしげた。

「誰か来るよ」

「うん」

 二人に恐怖感は無い。それどころか、早く会いたくて少しワクワクしていた。

 足音が二人の前で止まる。

 その人物は、ニコッと人懐っこい笑顔を浮かべて言った。

「こんにちは、私はアイです」

 美少女とも、美少年とも思える中性的な顔である。

 ひかりがあわててあいさつをする。

「あ、はじめまして!私、遠野ひかり、17歳でありまするっ!」

 マリエも後に続く。

「私、マリエ・フランデレン、ひかりの親友、同じ17歳」

 アイの笑顔が優しくなる。

「知っています。私はあなたたちと、何度か会っていますから」

「ほえ?」

 ひかりが間の抜けた声を上げた。

 そんなひかりを見て、マリエが真似をする。

「ほえ」

 アイは二人を微笑ましげに見ている。

 だが、その表情がキッと引き締まった。

「そのお話はまた今度にしましょう。今は、至急伝えたいことがあるのです」

 ひかりとマリエの表情も真剣なものに変わる。

 アイは二人の顔を交互に見ると言った。

「アービンのコントロールモジュールの場所を伝えに来ました」

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